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特許情報解析のプロセスと有効な活用 PAT-LIST研究会アドバイザー活動を通しての考察
中村 栄
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2012 年 55 巻 4 号 p. 229-240

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著者抄録

技術情報を有効活用するためにさまざまな解析ツールや解析手法(特許マップ解析)が提案されている。こういった環境の中,2006年に「PAT-LIST研究会」(株式会社レイテック主催)が発足した。本稿では,筆者が過去6年間の研究会活動でアドバイザーとして取り扱った実際の研究テーマ,中でも2010年度研究会テーマ「特定企業の知財戦略を技術情報解析結果からあぶり出す」を事例として取り上げ,実務上有益な解析プロセスを提案するとともに,解析時の留意点についてプロセスに沿って解説する。テキストマイニングツールを利用したマクロ分析,重要領域設定のための課題/解決手段マップにおける技術分類統制の意義についても紹介する。

1. はじめに

研究開発の方向性策定,事業アライアンス先の決定等々,事業戦略,研究開発戦略構築時のさまざまなシーンにおいて特許情報を活用する意義は大きい。しかしながら,この数年にわたり特許情報解析の必要性がうたわれさまざまな解析ツールが世の中に提供されているにも関わらず,具体的な解析手法についての理解が十分であるとは言えない。

2. 特許情報解析とPAT-LIST研究会との出会い

情報調査セクションに身を置く筆者も2000年代に入り特許情報の有効活用を模索していたところ,2006年に「PAT-LIST研究会」が発足した。本研究会は,企業,大学等の知財担当者や研究者が参加し,年初に設定した研究テーマに対して,解析ツールを用いての特許情報解析(特許マップ等を作成しての解析)を行い,一定の結論を導き出すことを目的とした研究活動を行っている1)

研究活動はワンクール1年間で,中間発表会と成果発表会(外部に公開)を9月と3月にそれぞれ開催し,その間に月1度の全体ミーティング,グループ別の研究活動を行う。筆者は本研究会のグループアドバイザーを拝命している。本稿では,筆者が過去6年間の研究会活動で扱った実際の研究テーマを紹介しながら,アドバイザー活動を通してまとめた有益な解析プロセス,解析時の留意点について解説する。

なお,今回主に事例として紹介する2010年度研究会テーマでは実際の企業事例を取り扱っているが,その内容は,研究会レベルの内容であること,あくまでも解析手法の考え方について解説することが目的での提示であるということをご承知いただきたい。

一般的に特許マップとは,特許情報を特定の切り口(技術的観点)を軸にして2次元ないし多次元でグラフィック化することによって技術動向を明らかにするツールである。

しかし,ちまたでは「特許マップを作っても何も見えてこないしわからない」「わかる特許マップとはどのように作成するのか」,極端な話としては,「特許マップは上層部に対して知財に関する説明に用いる前振り的なものでしかない」といった声も聞こえてくる。実は筆者もそのように思っていた1人である。

毎年の研究活動の成果を通して,特許マップを有益なツールとして用いた解析プロセスに関していろいろな気づきが得られた。それらを体系化してまとめることが筆者のアドバイザー活動の目標となった。

3. 技術情報活用の場面

3.1 さまざまな場面での技術情報活用

最初に,特許情報に限らず,技術情報全般を活用するさまざまな場面を挙げてみたい。

(1) 事業分野における技術動向の把握

企業において自社の事業分野における技術動向を把握することは必須である。特に新規参入の場合には,「土地勘」のない領域に足を踏み出すわけであり,当然当該技術に関する動向,「技術系譜」を作成することが必要となる。昔は紙の特許公報を回覧し,常に技術動向を把握するという習慣づけがなされていたように思う。昨今は情報の電子化の影響なのか,このことが案外軽視されているように思われる。一方,最近では戦略的特許網の構築,といった言葉がよく聞かれる。この目的を達成しようと皆尽力されていると思うが,対象となる技術領域における技術系譜を把握することなしに果たして戦略的特許網の構築などできるのだろうか。

横道にそれるが,技術動向を把握するのにSDI(Selective Dissemination of Information)調査(継続調査とも称される)がある。これも最近では自社実施技術との関係でしか情報を見ていない,いわゆる足元しか見ていない研究者が目立つ。技術系譜を把握することについて,改めて原点に立ち返る必要がある。

(2) 研究開発テーマの方向性の設定と絞り込み

自らの研究開発テーマの方向性をどのように定めるのか,先行,後発に限らず,テーマの舵取りの上で他社に優位に立つためのテーマの重点領域の絞り込みは必要である。これが有益な知財戦略の構築につながっていく。

(3) 事業化に際してのアライアンス先の絞り込み

最近,自社独自では事業化に結びつき難い開発テーマを加速するためにアライアンス(提携)を組む企業が増加している。この場合のアライアンス候補先を絞り込むために候補先の知財力を見ることは重要である。

3.2 ゴールイメージとストーリー作りの重要性

最初に必ず行わなければならないことは,上述した各場面において技術情報解析を行っていく際のゴールイメージの設定とそれに結びつけるためのストーリー(シナリオ)作りである。ストーリーは,いわば技術情報解析を通して知りたいこと,解析結果を通して浮かび上がらせたいことである。ストーリーは,自らのポジショニング(先発か後発か等),気づきを与えたい相手(開発責任者,事業責任者等),気づかせたい事項等を考慮してできる限り具体的に作ることが肝要である。これがこの後に続く解析の展開につながっていく。

例えば,2010年度の研究活動で取り上げたテーマである「化粧品業界新規参入F社の知財戦略を探る」では,異業種である化粧品業界に新規参入したF社の知財戦略を,技術情報解析を通して浮かび上がらせようとしたものである。実際の企業の知財状況を明確にすることによって,自らが異業種に参入する場合にどのような知財戦略をとるべきかを探ろうというのが本テーマの狙いである。またこの解析は,競合メーカーのベンチマークや前述した3.1の(3)のアライアンス先候補の知財力を見るという目的にもそのまま使うことができる手法であることを申し添えたい。

最終のゴールイメージとしては「異業種に参入したF社はどのような知財戦略をとったのか」であり,ストーリーには,以下の事項が含まれる。

  1. 1)   化粧品:参入するメリットがあるのか(ニーズの把握)
  2. 2)   化粧品業界の知財状況はいかなるものか(外部環境の把握)
  3. 3)   F社のシーズ技術は何か(特定技術)
  4. 4)   F社はどの領域に進出したのか(重点領域)
  5. 5)   参入障壁はどの程度か(他社知財との関係)
  6. 6)   海外展開を狙っているのか

これらのストーリーを明らかにするための解析手段をこの後当てはめていく。これは次章で説明したい。

4. 技術情報解析の流れ

4.1 全体フロー

1に事業戦略(図中ではビジネス戦略として表示),知財戦略,およびそれらを明確にするための技術情報解析(図中では情報分析と表示)の流れをまとめた。分析を行うべき情報は上から下に進むにつれ絞り込まれるため量は少なくなり,より深くなる。

図1 技術情報分析の全体像

4.2 技術情報分析のフロー

ここで先ほどのストーリーをイメージしながら技術情報分析の目的をフローとしてまとめてみる。

2にあるようにいわゆる特許マップ解析を行うのに好ましいステージは点線で囲んだ部分,すなわち「マクロ分析」,「セグメント分析/エレメント分析」(セミマクロ分析とも言う2),3))である。

図2 技術情報分析のフロー

解析はマップ作成を通して特定の「事象」を浮き立たせ,その事象を元に一定の「仮説」が立てられる。その仮説を「検証」するためにさらなる解析を行う。この解析⇒仮説⇒検証を繰り返すことによって,先に設定したストーリーを明らかにしていく。このサイクルの中で検討メンバーによるディスカッション,共有化が必要なことは言うまでもない。

4.3 適材適所のマップツール

ここで解析を行うのに利便性の高いマップツールの登場である。現在利便性の高いさまざまなマップツールが提供されているが,目的に適したツールを用いることが肝要である。表1にマップツールの例を紹介する4)

表1 特許情報分析ツールの類型

これらのツールの特色を生かし,前述したストーリーに従って解析対象とマップツールを当てはめたものが図3である。

図3 解析手法:分析対象とマップ

2010年度研究テーマでは,3つのツールを用いて解析を行った(図中< >で囲んで表記)。

前述したストーリーに基づき,これらのストーリーを満足させるための解析対象を決め,それらを解析するのに利便性の高いマップツールを選択する。大量情報を解析する場合(マクロ分析)には労力をかけずに全体を俯瞰できるテキストマイニングを利用したツールが便利であるし,その後の重要領域を解析するには後述する「独自の技術分類」を付与できるツールが便利である。独自の観点に基づき精度の高い解析ができるからである。解析の過程で,自らの仮説を検証するための「評価」ができるツールを試してみるのも面白い。

3にまとめたストーリーとマップのプロセスが解析の基本プロセスとなる。冒頭に説明した技術情報活用のさまざまな場面において,マップ化する対象情報が変わってもおおむねこのプロセスが応用可能である。

これで,解析のための準備は完了である。次章よりそれぞれの解析について解説を行っていく。

5. 技術情報解析の実際

5.1 外部環境分析

5.1.1 一般情報の調査:テーマ解析シート

まずは外部環境分析,テーマとなる技術のベースとなる一般情報を調査する。これは解析の最初に必ず行う必要がある。新規参入の場合にはその技術全般の土地勘がないところから始めるわけであるから,当該技術領域の一般情報(特許だけでなく一般情報である文献,新聞等さまざまな情報)を幅広く調査する必要がある。具体的には,この後の解析の方向性を見極めるために必要な事項として以下の観点が明確になるように情報を入手する。

  1. 1)   特徴となる技術要素/キーワード
  2. 2)   対象技術のターゲットとなる事項
  3. 3)   参入メーカー
  4. 4)   大学等の研究機関・キーマン
  5. 5)   先行製品の技術的なPRポイントやビジネスコンセプト
  6. 6)   法規制

最近ではWeb上で豊富に情報が入手できるが,玉石混交の情報から上記1)~6)のような情報を選りすぐって取得する「目利き」が必要となる。慣れないうちは案外これが難しい。

自分の頭を整理すべく上記項目を整理しながら情報をバランス良く入手することが必要である。

2009年度の研究会では「テーマ解析シート」というひな形シートを作成し,解析シートに従って入手した情報を整理してメンバー間で共有化を行った5)。こういった情報収集はかなり個人の「センス」に左右される。メンバー間で当該情報を共有化することによりメンバーの情報収集力が全体として醸成されることが解析シート導入の狙いである。

5.1.2 法規制等環境情報

上述の外部環境の中で忘れてはならないものが「法規制」情報である。取り扱うテーマに関する法規制情報はテーマのシーズやニーズに大きな影響を与える。法規制の変更により開発の方向性は変わってしかるべきである。

例えば,2007年度テーマの「ビールの商品開発」においては酒税法,2008年度テーマの「競泳用水着の開発」においては競泳用水着の仕様に関する協会ルールについて調査を行い,テーマの制限にならないかの確認を行った6),7)

5.1.3 特許情報から読み取る外部環境分析(マクロ分析)

次に特許情報の解析を行う。ここで行うのは,当該技術に関する特許事情全体が把握できるレベルの解析であり,留意すべき点が以下の5つである。

  1. 1)   知財面から外部環境をあぶり出すことを意識したまとめ方をすること(全体を押さえる,細かい所には入り込まない)。この後実施するセグメント分析の技術軸となるテクニカルキーワード(以下,テクニカルKW)の把握を目的とする。
  2. 2)   全体を俯瞰することが目的なので情報は恣意的に絞りすぎないこと。
  3. 3)   2)に伴い,取り扱うのは大量情報が対象となる。よって使用するマップツールは大量情報を短時間で解析できるテキストマイニング等が利用できるタイプであると利便性は高い。この時点ではマップ作成には余り時間をかけないことを心がける。

    4に2010年度テーマにて実施したマップの一例,そこから整理した関係各社のテクニカルKWリストの一例を示す。

  4. 4)   特許マップと当該技術に関わる社会情勢をリンクさせると出願動向に関する気づきが得られることが多い。

    5に2009年度テーマで作成したマップを紹介する。メタボチェッカーに関する出願件数の推移に対してメタボリックシンドロームの社会情勢に関する情報をリンクさせている。このようにテーマ技術に影響を与えるべき外部環境情報を重ね,出願動向に変化のあるところの内容をチェックすることにより,業界の出願動向,方向性を把握することが可能となる。

  5. 5)   解析の中でプレーヤー(出願人)と,ここでも1)で述べたテクニカルKWの確認を行う(図6,図7)。出願人の業種は発明の技術領域(カテゴリー)に直接関係するので,整理する際の切り口として押さえておきたい。外国企業出願の有無等も確認しておくと外国特許解析の必要性の判断ができる。

図4 特許情報マクロ分析:マップとキーワード
図5 メタボチェッカーの知財外部環境分析1
図6 メタボチェッカーの知財外部環境分析2
図7 メタボチェッカーの知財外部環境分析3

5.2 シーズ分析 発明者分析の効用

次に,発明者分析の効用について述べておきたい。通常企業の自社開発の場合には,ある程度シーズが明確になっているケース(「○○の技術を使いたい」など)が多いであろう。他社とアライアンスを組む場合の候補先の評価,といった場合には,当該技術のシーズ評価をしておく必要があるため本手法は有効である。

2010年度の研究テーマでは化粧品に関するF社のシーズ技術を確認するために発明者分析を行った。その事例を紹介する。

8のマップはF社の化粧品に関する特許群から縦軸に発明者を,横軸に当該特許群を1件ずつ時系列に置いたものである。

図8 発明者/特許群(出願番号)マップ

これを見ると以下のことが浮かび上がってくる。

  1. 1)   2006年から化粧品特許の出願開始
  2. 2)   複数の発明者グループの存在(図中網掛け部)
  3. 3)   中でもa氏は複数グループから出願しているためキーマンの可能性がある

次に,a氏のバックグラウンドを確認するために,別途「(F社(出願人名))and(a氏の氏名)」の検索を実施し,FI記号を縦軸に,横軸は出願年をとったマップを作成し,a氏のバックグラウンドを俯瞰してみる(図9)。

図9 a氏の出願技術の経緯:FI記号マップ

FI記号を用いることによりa氏のバックグラウンドの概略が見て取れる。さらに詳細な解析にはFタームを用いることが好ましい。同様に他の発明者4名について今度はFタームで解析したものが図10である。4名の発明者のバックグラウンドは,「写真」,「生物学的材料」,「色材」,「印刷(インクジェット,感熱)」等,広範囲にわたっていることがわかる。

図10 発明者4名の出願技術の経緯:Fタームマップ

上記解析をキーとなるすべての発明者に関して同様に行い,これらの結果をExcelで時系列にまとめたものが図11である。

図11 発明者出願技術経緯のまとめ

化粧品の出願に至るまでのキーマンのバックグラウンドの傾向が仮説できるレベルまでに見えてくる。

こういった発明者分析はアプローチすべき企業の技術に関する実力を特許情報から推定することができる効果的な手法である。

5.3 内部環境分析

5.3.1 特許情報のセグメント分析

前節までの外部環境分析を終えたあと,いよいよターゲットとすべき重要領域の特定を行うべくセグメント分析についての解説を行う。

(1)自社他社マトリクスマップの作成

基本となる自社他社マトリクスマップは図12のマトリクスマップの考え方(課題/解決手段マップ)に準じて作成する8)。2次元の軸を何にするかは前章の外部環境分析,マクロ分析結果を参考にする。自社の技術的特長を発揮できる技術軸を採択する。この部分をどう採択するかがまさに研究に携わる者の腕の見せどころであろう。筆者は常日頃から特許マップは研究者主体で作成するべき,との持論を持っているが,その根拠はそこにある。外部環境分析結果を基に自社の技術的特長を発揮できる技術軸の採択部分,この点はやはり研究に直接携わっている者が実施すべきであろう。

図12 セグメント解析:自社他社マトリクスマップ

(2)技術分類統制の意義

最初に実施するのは,技術軸に使用するテクニカルKWの統制(技術分類統制)である。ご承知の通り,特許情報に用いられるテクニカルKWは千差万別,表記の揺らぎの問題が大きい。これでは自社他社を同じ土俵に置いた高精度のマトリクスマップの作成は難しい。2010年度研究会の例を紹介すると,以下の4種の軸を採択し,これらに関するテクニカルKWをF社化粧品特許情報63件のすべてに付与した。

  • •   カテゴリー(発明の大分類)
  • •   化粧品における上位概念の添加剤
  • •   化粧品における下位概念の添加剤
  • •   発明の課題ないし効果(機能上の狙い)

マップツールはPAT-LIST(レイテック社)を使用した。PAT-LISTの閲覧画面に配置されている備考欄に,要約と請求項を読んだ上で分類付与を行う。

この作業をメンバーで手分けをして(あえてメンバーで手分けをして行うことをお勧めする。理由は後述)実施し,付与した分類をPAT-LISTのマップ画面の統計機能を用いてCSV出力,Excelでリストアップする。リストアップした分類を見ると,

  • •   同じ意味なのに表記が異なるもの
  • •   本来付与すべき意味とずれているもの 等

が散見される(図13)。

図13 技術分類の統制作業

これらの分類に対する統制ルールをメンバー間で決めて,さらなる統制作業を行う。3,4回付与,修正を繰り返すと分類が統制されてくる。Excelの各シートに統制回ごとの履歴を残していくとその経緯が明確になって好ましい。

この「統制作業」は以下の点から非常に有益である。

1) 特許マップの精度向上

特許情報のテクニカルKWの表記揺らぎの問題が解消される。これが狭義の効果である。

2) 対象技術全体傾向把握

統制を繰り返すことによって対象技術の全体傾向が浮き彫りになってくる。メンバーで手分けして統制作業を行うことによってメンバー全員の中で対象技術の全体像が把握,共有化される。これが副次的効果である。確かに単独でテクニカルKWの付与を行えば統制を行う必要もない。あえてメンバー複数で付与を行うことにより,繰り返しの統制作業を通じての対象特許情報への精通,他メンバーの付与したKWを見ての新たな気づきといった大きな効果が得られるのである。

3) 特許マップの技術軸選定能力の向上

統制作業を繰り返すにつれ「新たな観点」での分類付与を行った方がよい,といった新たな切り口発見の目利きがアップする。これがジャンプアップした効果である。

特許マップはあくまでもツールであり,マップを便利に作成することができるが,それは表面的な結果にすぎない。その過程の分類付与,ひいては分類を付与するために情報を読む,分類をキーにしながら情報を頭の中で「俯瞰」することに意味があるのだと筆者は考えている。

最近,PAT-LISTを提供しているレイテック社では,この分類付与,統制をサポートする「シソーラス辞書ソフト」の提供を始めた。上記効果を生かしつつの作業の軽減に活用できることを期待している。

このようにして,2010年度研究会では図14に示すように統制された技術分類が整理された。これを軸にしてマトリクスマップを作成する。

図14 統制作業後の技術分類

なお,セグメント分析に供する特許情報には当然のことながら適正件数が存在する。50件以内ではマップ化するまでもなく内容が把握できるし,500件を超える数では内容が拡散してしまい,この後の重要領域の特定が困難になる。上限300件~500件を1つの目安として,多ければ技術内容を絞り込むか,今回の例のように出願人で絞り込む等の工夫をする必要がある。

(3)重要領域の特定

重要領域の特定を行っていくための考え方として例えば以下が挙げられる。

  • •   集中して出願が行われていること
  • •   外国出願がされていること
  • •   その他特許の価値評価が高いこと(権利化状況を合わせて確認しておくことが好ましい)

2010年度研究テーマではF社の出願動向をマトリクスマップ化した。図15では,縦軸に機能を,横軸に要素技術2(化粧品の添加剤)を取っている。

図15 F社 機能/添加剤(要素技術2)マップ

枠で囲まれた部分:透明性,保存安定性/アスタキサンチン,コラーゲン,トコフェロール,カゼイン辺りの出願が多くなされている。

次に添加剤の組み合わせを考慮すべく,上位概念の要素技術1同士の組み合わせをマップ化したのが図16である。要素技術1同士を縦横に配したのは,前述のマクロ分析,技術分類統制結果を通して「複数の添加剤の組み合わせが技術のポイントになる」とのメンバーの考察によるものである。

図16 F社 添加剤(要素技術1)/添加剤(要素技術1)マップ

斜めの線上は同一添加剤の組み合わせなので除外し,特定の添加剤の組み合わせをピックアップしていく。カロテノイドとエマルジョンの組み合わせを「重要特許群1」とし,タンパク質とナノ粒子の組み合わせを「重要特許群2」と仮決めする。

次に要素技術をさらに深堀りするために,上位概念と下位概念の関係である要素技術1と要素技術2の添加剤同士の組み合わせをマップ化したのが図17である。同じ添加剤の上位下位の関係を除外した上で,アスタキサンチン/エマルジョンの領域を「重要特許群1」,コラーゲン,ゼラチン,トコフェロール/ナノ粒子の領域を「重要特許群2」に位置づけた。先ほど仮決めした重要特許群と合わせた特許群を今回の分析における「重要特許群」として設定した。これらの重要特許群をマトリクスマップに整理したものが図18である。

図17 F社 添加剤(要素技術1)/添加剤(要素技術2)マップ
図18 F社マトリクスマップ:添加剤組み合わせ

今回作成したマトリクスマップは,セグメント分析の際に参考とした課題/解決手段のマップとは切り口を異にし,縦横に技術要素として化粧品の添加剤成分を配置している。マトリクスマップの縦横に配置する技術要素は,テーマ技術の「ポイント」となるべきものを配置するとその傾向が見えてくる。そのポイントの見極めが肝要である。

5.4 コア分析

5.4.1 他社障害特許の有無

引き続き2010年度研究会テーマについて説明する。重要領域(重要特許群)の設定を終えたところで,当該領域における他社障害特許を検討した。

今度は権利関係を検討するので,障害特許を抽出する目的で調査を再実施した。「釈迦に説法」であるが,通常他社障害特許の調査は自社実施(予定)技術が一義的に決まらないと精度ある調査はできない。研究会ではF社の実施(予定)技術がわからないため便宜上,重要領域の技術要素であるアスタキサンチン,コラーゲン等のKWで上位概念も含めて調査を行った結果と,先に設定したF社「重要特許群」の引用特許文献をサイテーションマップ化して引用回数の多い他社特許群の内容を合わせて確認し,障害特許として特定した。これらを前述のマトリクスマップに配置したものが図19である。

図19 F社マトリクスマップ:他社障害特許との重ね合わせ

この図を見ると,F社特許は先行技術の存在を受け「すみ分け」出願がされていることがわかる(一部バッティングしているところの権利関係については研究会では未検討)。

5.4.2 外国出願の有無

昨今のグローバル戦略の流れから考え,重きを置いている特許出願の外国出願は当然検討すべきところである。これら重要特許群のパテントファミリーの有無の確認を行ったところ,その半数以上が外国出願をされていた。研究会では,重要特許群の特定の後に外国出願の有無を検討するという流れを取ったが,重要出願⇒外国出願する,との考え方に則れば,外国出願有無確認の順番を先にしてもよいかもしれない。

5.4.3 特許価値評価マップでの評価

2010年度研究会では,上記と合わせて特許価値評価マップ(Biz Cruncher:パテントリザルト社製)を用いて今回分析したF社の特許すべてについて特許価値評価を行った結果,パテントスコアが高い特許はいずれも今回設定した重要特許群中の特許であった。図20を見てわかるように,重要特許群(アスタキサンチン関連)特許のパテントスコアが高い。

図20 F社重要特許の検証:Biz Cruncher価値評価マップ

6. おわりに:知財戦略構築への活用

今回紹介した2010年度の研究テーマは,新規参入企業の立場に立っての技術情報解析手法として有益である。ぜひ異なった目的や技術分野で試してみてほしい。

こういった技術情報解析結果の知財戦略への活用,例えば出願計画の構築についてであるが,他社が出願していないところ(抜け部分)を出願する,というのは早計である(2010年度の事例ではうまくすみ分けて出願,という結果となったが)。事業を有利に進めるために本当に必要であればあえて他社特許の存在する中に楔を打ち込んでいく,という戦略も必要であろうし,当然それに伴うカウンター対策を講じる必要もあろう。今回の例で言えば,「組成物」という土俵の中だけでなく,他カテゴリーでの出願,といった攻め方も考えられよう。

本稿を皆様の知財戦略構築における技術情報活用の具体的なステージにうまく取り込んでいっていただけると幸いである。

謝辞

過去6年にわたるPAT-LIST研究会のアドバイザー活動を通してさまざまな生きた事例を検討させていただいた。まずはこのような貴重な機会を今も継続して提供していただいている(株)レイテック様に御礼申し上げたい。また,今回本稿にて,テーマ研究の内容を紹介させていただいた2010年度研究会メンバーの以下の皆様におかれては,その精力的な研究活動に敬意を表するとともに貴重なデータをご提供いただいたことに厚く御礼申し上げる。

【2010年度PAT-LIST研究会メンバー】

(所属名五十音順)

アサヒビール株式会社 酒井範夫様,キヤノン株式会社 大久保武利様,キリンホールディングス株式会社 平尾啓様,株式会社クレハ 寺本嘉吉様,HOYA株式会社 河村克己様,株式会社レイテック 中西祐美様

参考文献
 
© 2012 Japan Science and Technology Agency
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