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Altmetricsの可能性 ソーシャルメディアを活用した研究評価指標
坂東 慶太
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2012 年 55 巻 9 号 p. 638-646

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著者抄録

近年,論文レベルの客観的評価指標を求める要請が高まっている。その背景には,ソーシャルメディアが研究目的に利用され始めたことと,オープンアクセス推進により,Webに学術情報が流通し始めたことがある。研究者は学術コミュニケーションと研究ワークフローの場をWebへとシフトしてきた。このWeb時代の要請に応えて提唱されたのが,新たな研究評価指標「altmetrics」である。altmetricsは,ソーシャルメディアを活用して,被引用数以外の研究インパクトを「論文レベル」でリアルタイムに計量化する。altmetricsツールの開発,Twitterによる引用予測といった研究を通じて,伝統的な評価指標を補完する新たな指標として発展の可能性をもつaltmetricsは,一方でまだ初期の段階にある。altmetricsが定着するには「オープンアクセスとの共存共栄」がキーポイントになると考える。altmetricsをめぐる経緯と現状,ソーシャルメディアとの関係性,オープンアクセスとの関係性,といった動向を通じて,altmetricsの可能性を概観する。

1. はじめに

Webは,学術情報の共有を目的として,Berners-Lee, T.によって考案された(1990年)1)。当初のWebは,情報の送り手と受け手が固定され,送り手から受け手への一方的な流れであった。しかし,2002年頃からブログの普及が始まり,Webは双方向コミュニケーションとしての役割が機能し始めた。情報の送り手と受け手が流動化して,誰もがWebを通して情報を発信できるようになった。O’Reilly, T.は,その変化を象徴する言葉として,変化後の状態を「Web 2.0」と名付けた2)。2005年前後には,Web 2.0の概念を具現化した1つの形として,Webを通じた個人同士のコミュニケーションを支えるサービス,すなわちソーシャルメディアが多数登場した。

一方,Web時代における学術情報流通に目を向けると,2002年にブダペスト宣言(Budapest Open Access Initiative declaration)3)が発表されて以来,オープンアクセスを実現するための方法としてセルフアーカイビングとオープンアクセス・ジャーナルが推進され,Webには多くの学術情報が流通し始めた。

研究者は,ソーシャルメディアとオープンアクセスという2大潮流により,

  • •   Webで学術情報を検索する
  • •   文献管理サービスやソーシャル・ブックマーク・サービスで文献情報を管理する
  • •   自ら研究成果を公開(セルフアーカイビング)する
  • •   ブログ・ソーシャルメディアを研究目的に利用する

など,学術コミュニケーションと研究ワークフローの場をWebへとシフトしてきた。

特にセルフアーカイビングにおいては,フォーマルな学術情報(ピアレビュー済みの学術論文など)のみならず,インフォーマルな学術情報(スライド・研究データ・映像・開発コードなど)が,クリエイティブ・コモンズ・ライセンス4)のもとで公開され,共有可能となった。これらは,文書やデータなどを共有するWebサービスで公開され,学術情報流通は一段と加速し始めた。しかし,研究評価の対象は相変わらずフォーマルな学術情報のみであり,研究評価の指標は依然として伝統的な雑誌レベルのものが主流のままであった。

ピアレビューはスタンダードな研究評価手法であったが,匿名性の問題や,時間がかかり過ぎるという不満が指摘された。このことから,研究評価に関する客観的指標への要請が高まり,研究評価における客観的手法として,bibliometrics(ビブリオメトリクス,計量書誌学)すなわち発表論文数・引用度数等を用いた分析手法に強い関心が寄せられ始めた5)。被引用計量化に世界で最も利用されているbibliometricsは,1955年にGarfield, E.によって考案されたインパクト・ファクターである。インパクト・ファクターは,自然科学・社会科学分野の学術雑誌を対象として,その雑誌のインパクトを測る指標として最も広く認識されている。しかし,インパクト・ファクターは「学術雑誌」の評価指標であって,「学術論文」を評価するための方法ではない6)

そこで,Web 2.0時代に見合った,論文レベルの客観的評価指標を求める要請が高まった7)。こうしたWeb時代の要請に応じて提唱されたのが,「altmetrics(オルトメトリクス,代替的計量書誌学)」である。本稿では,このaltmetricsについて概観する。

2. altmetricsとは

2.1 altmetricsとaltmetricsツール

altmetrics(「alternative」と「metrics」を組み合わせた造語)とは,ソーシャルメディアを活用して研究成果のインパクトを「論文レベル」でリアルタイムに計量化する,新たな研究評価指標である(図1)。altmetricsは,bibliometricsの1つとして,Priem, J.(ノースカロライナ大学チャペルヒル校で図書館学を専攻している博士課程の大学院生)を中心に提唱された8)

図1 伝統的なメトリクスを補完するaltmetrics altmetrics.org (http://altmetrics.org/manifesto/)より

altmetricsには,次のことが期待されている。

  • •   伝統的な研究評価指標を補完する,新たな研究評価指標の計量化
  • •   情報過多なWeb時代における「フィルター」としての役割

このうち本稿では,「伝統的な研究評価指標を補完する,新たな研究評価指標の計量化」を中心に取り上げる。

altmetricsの概念を具現化する為に,さまざまな分析手法(altmetricsツール)が開発されている9)。ツールは,次の2タイプか,そのハイブリッド型に大別できる。

  • •   論文レベル(Article Level)
  • •   著者レベル(Author Level)

次節以降では,代表的なaltmetricsツールを3つ紹介する。

altmetricsツールには,以下の特徴があり,とりわけ「計量化し,視覚化する(measure and visualize)」ことは,altmetricsにとって最も重要な要素である。

  • •   API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)を利用
  • •   研究評価指標を計量化し,可視化
  • •   オープンソースのWebサービス
  • •   伝統的な指標との関連性を分析

2.2 Total-Impact/ImpactStory

Total-Impactは,PriemとPiwowar, H.(National Evolutionary Synthesis Center(米国ノースカロライナ州ダーラム)のポスドク研究員)の2人が,2011年にプロトタイプを開発した,論文レベル・タイプのaltmetricsツールである。Total-Impactは,研究者のさまざまな研究成果がどれだけダウンロードされ,またソーシャルメディアで言及されたかなど,研究成果のすべて(トータル)の影響度(インパクト)を計量化し,可視化することを目的としている。Total-Impactが集計する対象データは次の通り多岐にわたる。

  • •   Mendeley(文献管理サービス)
  • •   CrossRef(参照文献のリンキングサービス)
  • •   SlideShare(プレゼンテーション資料共有サービス)
  • •   Facebook(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)
  • •   Wikipedia(オンライン百科事典)

2012年4月,アルフレッド・P・スローン財団(Alfred P. Sloan Foundation)は,PriemとPiwowarの研究・開発を高く評価し,125,000ドル(約1,000万円)を助成した10)。半年経った2012年9月,Total-ImpactはImpactStoryと名称を変えてリニューアルした(図2)。ImpactStoryは,altmetricsツールを代表するWebサービスである。

図2 ImpactStory9)

2.3 Altmetric.com

Altmetric.comは,Elsevier(オランダの学術出版社)が提供するフルテキスト・データベースScienceDirectや,PLoS(Public Library of Science,米オープンアクセス・ジャーナル出版社)が提供するAPIを利用して開発された。Altmetric.comは,次の3種類のデータを対象に研究評価指標を計量化し,色分けした特徴あるドーナツ型のグラフで研究評価指標を表示する,論文レベル・タイプのaltmetricsツールである(図3)。

  • •   ソーシャルメディア(Twitter,Facebook,Google+など)
  • •   伝統的なメディア(ガーディアン,ニューヨークタイムズなど)
  • •   ソーシャル・ブックマーク・サービス(Mendeley, CiteULikeなど)

2012年7月,開発者のAdie, E. は,Macmillan Publishers(英国の出版社)の姉妹企業であるDigital Scienceの一員となり,これに伴いAltmetric.comは商用サービスとなった。現在は,Nature(ジャーナル出版社)のジャーナル20誌や,BioMed Central(英オープンアクセス・ジャーナル出版社)・Scopus(Elsevierの抄録・引用文献データベース)が,Altmetric.comの特徴あるドーナツ表示を自サイトに組み込むといった導入実績がある。Altmetric.comは,ImpactStoryと並ぶaltmetricsツールの代表的サービスに成長している。

図3 Altmetric.com11)

2.4 ReaderMeter

ReaderMeterは,著者レベルと論文レベルの研究評価指標を両方提供する,ハイブリッド型のaltmetricsツールである(図4)。ウィキメディア財団 (Wikimedia Foundation, Inc.)のシニア・リサーチ・アナリストであるTaraborelli, D.が,MendeleyのAPIを利用して開発した。ReaderMeterは,Mendeley内に登録してある論文が「どの分野の研究者に読まれているか」「どの地域の研究者に読まれているか」という研究評価指標を計量化し,可視化する12)。また,2種類のh指数(h-index/Hirsch index)注1),13)を改変した著者レベルの指数をリアルタイムに表示する14)。ReaderMeterの対象データは,Mendeley限定である。しかし,2007年に誕生して未だ5年しか経たないMendeleyは,2012年9月末時点で約200万人のユーザを抱え,約3億件の文献情報が登録された世界最大規模のリサーチ・データベースに成長しており,ReaderMeterによる研究評価指標は無視できない存在になりつつある。

図4 ReaderMeter9)

3. ソーシャルメディアがaltmetricsに与える影響

3.1 Mendeley:altmetricsにとって必要不可欠な存在

Mendeleyとは,Henning, V.ら博士課程の大学院生3人が,2008年にサービス開始した無料の文献管理サービスである15)。Mendeleyは,効率的に文献情報を管理でき,マルチプラットフォーム対応であること,ソーシャル機能・共有機能を有することなどが受け入れられ,世界中の研究者約200万人に利用されている。2010年4月,Mendeleyは彼らのリサーチ・データベースを開放し,APIを介してアプリケーション開発できる環境を提供した。このことが,altmetricsツール開発を推し進めた決定的な要因である,と考える。翌2011年,Mendeleyは,PLoSと共催してアプリケーション開発コンテスト「Mendeley-PLoS Binary Battle」を開催した。この開発コンテスト期間中,1,000人以上の開発者がAPIの利用登録を行い,最終的に約40ものエントリーがあった。その中にはTotal-Impact・Altmetric.com・ReaderMeterも含まれていた。開発コンテストは,科学界を中心に注目を集め,大成功をおさめたばかりか,altmetricsツール量産の原動力になった。現在,Mendeleyのリサーチ・データベースには,altmetricsツールを中心とするさまざまなアプリケーションから,1か月に1億回以上ものアクセスがある16)。今やMendeleyは,文献管理サービスの枠組みを超えた,altmetricsにとって必要不可欠な存在になってきている。

3.2 Twitter:学術的影響の尺度としてのTweet数

altmetricsが世間に注目され始めたのは,論文「Tweetは引用を予測できるか? Twitterに基づくインパクトおよび伝統的な研究評価指標との関連性(Can Tweets Predict Citations? Metrics of Social Impact Based on Twitter and Correlation with Traditional Metrics of Scientific Impact)」が発表された2011年12月頃であろう17)。引用データとTwitterによる研究評価指標を比較したところ,以下の結論が導き出された。

  • •   Tweetは,論文発表後3日以内に高被引用論文を予測できる
  • •   Twitterは,新しく発行された学術論文を発見するためのツールの1つである
  • •   Tweetの数は,学術的影響の重要な尺度である

これにより,ソーシャルメディア,特に,Twitterを活用した研究評価指標は無視できない存在になる,という認識が高まり,多くのメディアがaltmetricsを論じ始めた18)。論文著者のEysenbach, G.は,Twitterによるインパクトを,Twimpact factor・Tweetation・TWn scoreなどと呼び,その用語にちなんだドメイン(twimpact.org,twimpactfactor.org,twimpactfactor.com)を所有していることが明らかになった。今後これらのドメイン上で,Twitterによるインパクトを計量化するaltmetricsツールが提供されることを期待したい。

4. オープンアクセスがaltmetricsに与える影響

4.1 PLoS:オープンアクセス分野でaltmetrics対応の先頭を独走する

2009年,PLoSはArticle Level Metrics(PLoS ALMs)と呼ばれるプロジェクトを発足させた。PLoS ALMsは,論文レベルで研究評価指標を計量化・可視化する試みである。2012年2月には,伝統的な研究評価指標に加え,ソーシャルメディア・ベースの研究評価指標も表示するようになった(図5)。2012年5月頃,PLoSは,altmetricsに精通する2人, Fenner, M.とNeylon, C.を迎え入れた。Fennerは,altmetricsツール「ScienceCard」や「CrowdoMeter」の開発者であり,Neylonは「論文レベルのメトリクスと科学のインパクトの進化(Article-Level Metrics and the Evolution of Scientific Impact)」20)の著者で,オープンサイエンス・オープンアクセス提唱者でもある。PLoSは,2人の加入により,今後さらなるaltmetrics対応強化に努めていくものと思われる。

図5 PLoS ALMs19)

オープンアクセス分野において,PLoS以外の出版社や機関リポジトリは,現在はまだaltmetrics対応にあまり熱心でないように見受けられる。一方,ResearchGATEやacademia.eduといったセルフアーカイビング機能を有する科学者向けソーシャル・ネットワーキング・サービスは,研究評価指標を表示するaltmetrics機能(RG Score,Analytics Dashboard)をリリースした(2012年8月)。また,FigShare(科学データ共有サービス)は,投稿されたデータのすべてにDOI(Digital Object Identifier,デジタル・オブジェクト識別子)を付与し,将来的にはデータの被引用数を計量化する予定である。Mendeley機関版(Institutional Edition)やPlum Analyticsなど,学術機関向けの商用altmetricsサービスも登場しており,オープンアクセス分野のプレーヤーにとって,altmetrics対応は,早急に取り組まねばならない最重要課題である。

4.2 eLife ScienceとPeerJ:新オープンアクセス・ジャーナルの真価とは

オープンアクセス分野でaltmetrics対応の先頭を独走するPLoSにとって,真の競争相手は既存のオープンアクセス・ジャーナルではない。脅威となる恐れがあるのはオープンアクセス・ジャーナルの新規参入者,eLife ScienceとPeerJであろう。

米ハワード・ヒューズ医学研究所(Howard Hughes Medical Institute),独マックス・プランク協会(Max Planck Society),英ウェルカム・トラスト(Wellcome Trust)は,2012年後半にオープンアクセス・ジャーナル『eLife Science』を共同発行し,当面は投稿料を取らないと発表した。多くの商業出版社は,APC(Article-processing charge,著者負担論文出版料)モデル――例えば,PLoS ONEの場合,APCは1,350ドル21)――によってオープンアクセスを実現しているが,その料金が無料になる,ということで話題となった。また,2012年6月,論文掲載料を一度支払えば(料金に応じて毎年)掲載できる『PeerJ』が発刊されると発表された。99ドルの会費を支払うと生涯投稿が可能になるということで,価格破壊者として話題となった。

本稿ではAPCの話題はさて置き,両誌を動かす「人」がaltmetricsに精通している点に着目する。

eLife Scienceは,PLoSの出版責任者だったPatterson, M.と,Mendeleyの製品vice presidentだったMulvany, I.を迎え入れた。2人ともaltmetricsの理解者である22),23)。また,PeerJは,PLoSとMendeleyからスピンアウトしたaltmetrics理解者24),25)である2人,PLoS ONEの出版責任者だったBinfield,P.と,Mendeleyのvice presidentだったHoyt, J.が,O’Reilly支援のもとに創業した。

PLoS・eLife Science・PeerJは,それぞれがaltmetricsに理解ある「人」を揃えた。3社の,そしてオープンアクセス・ジャーナル全体の今後のaltmetrics対応に注目したい。

5. おわりに:altmetricsの可能性

Jason Priemは「Towards a second revolution」26)の中で,「altmetricsは(インパクト・ファクター発案以来の)第二革命である」と,科学界にとって非常に重要な転機が訪れていることを強調している。altmetricsコミュニティーは,その第二革命に向かってaltmetricsツールの開発と改良を繰り返し,文字通り「発展し続けている」真っ最中である。

ソーシャルメディアを活用することで,研究成果のインパクトを「論文レベル」でリアルタイムに計量化できる。altmetricsは伝統的なインパクトを補完する新たな役割として機能する。オープンなWeb時代においてaltmetricsは発展の可能性をもつ一方で,まだ初期の段階にあることも事実である。生まれて間もないaltmetricsという概念が定着するには,まだまだ時を要するであろう。

では,altmetrics定着の鍵を握るのは何か。それは「オープンアクセスとの共存共栄」にあると考える。altmetricsが登場した背景の1つに「オープンアクセス推進により,Webに学術情報が流通し始めたこと」があることを冒頭で述べた。逆説的ではあるが,現在はまだ温度差の激しいオープンアクセス分野において,altmetrics対応がさらに進み定着することで,今後は両者が相乗効果をもたらしあって進展していく,と考える。この考えは,「BOAI10 Recommendations(2012年2月に10周年を迎えたブダペスト宣言に対し,これからの10年に向けた提言)」にも見て取れる。新提言には「altmetricsの開発を奨励する」ことが明記されており,altmetricsはオープンアクセスにとって重要な位置づけであることが示されている27)

altmetricsとオープンアクセスが,次の10年をともに歩み進めて,新たな可能性を切り拓いていくことに期待したい。

謝辞

本稿は,altmetricsという新しい概念を創ろうとする「人」に対しても意識的に焦点を当てた。Twitterなどのソーシャルメディアを通じて情報を提供してくれる,altmetricsコミュニティーに関わるすべての人々に感謝したい。

本文の注
注1)  2005年,物理学者Hirsch, J.E.がWeb of Science(引用文献データベース)の被引用数を元に考案した,論文数と被引用数とに基づいて科学者の科学的貢献度を示すもの。

参考文献
 
© 2012 Japan Science and Technology Agency
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