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情報界のトピックス
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2012 年 55 巻 9 号 p. 697-700

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HathiTrustは公正使用との判断

およそ1年前に米国のAuthors Guild(作家組合)は,オーストラリア著作者協会,カナダのケベック作家組合などとともに,著作権の公正使用(フェアユース)を侵害しているとして,HathiTrustと5つの大学を提訴したが,10月10日,ニューヨーク州南部連邦地方裁判所のHarold Baer判事は,公正使用の範囲内であるとして,この訴えを却下した。ミシガン大学,カリフォルニア大学,ウィスコンシン大学,インディアナ大学,コーネル大学は約1,000万冊分の蔵書をスキャンし,研究図書館による共同デジタルリポジトリHathiTrust Digital Libraryに保管しているが,73%の作品は著作権保護の下にある。フルテキスト検索はパブリックドメインにある作品と著作権保有者の許可が得られた作品に限られ,印刷物を読むことに障害があると認定された人々にのみ,フルテキストへのアクセスが提供される。判事は米国障害者法(Americans with Disabilities Act: ADA)が,今回の判断への主要な要因であったことに言及し,「被告によってなされる改変使用(HathiTrust Digital Libraryに保存されている作品の利用)を引き起こさないような,⋯そして,科学の進歩と芸術の養成と同時に,ADAが支持する理念を達成するこの貴重な貢献の打ち切りを求めるような,公正使用の定義を私は思い浮かべることができない」と述べた。また,より多くのコピーを購入したところで,視覚障害者にとっては,検索やアクセス提供には役立たないことから,HathiTrustを商用利用であるとする議論も退けた。オーファンワークス(孤児著作物)については,当初のオーファンワークス・プログラムが断念されたことを理由に言葉を濁し,将来生じるかどうかわからない問題について判断することはできないと語った。

New York Law SchoolのGrimmelmann教授は,「あらゆる本質的な論点においてHathiTrustが勝利を得た」との意見をブログで述べたが,これは大多数の専門家の解釈を要約していると考えられる。米国図書館協会(ALA),北米研究図書館協会(ARL),米国大学・研究図書館協会(ACRL)などが加盟するLibrary Copyright Allianceは,「Baer判事の裁定は,HathiTrustが研究者や印刷物を読むことに障害がある人々へのサービスを続けるのを許可するだけでなく,これからの図書館サービスがどのようにすれば,著作権法に従うことができるのかを示す有用なガイダンスを提供する」と歓迎を表明した。National Federation of the Blind(全米盲人連盟)も,視覚障害者にとって書籍へのアクセスに大変革が起きるだろうと,裁定を歓迎している。Authors Guildは,裁定のほとんどすべての見解に異議を唱えるとの声明を発表し,特に,大学側が再開すると繰り返し誓ってきたオーファンワークス・プログラムに対処するのを,裁判所が拒んだことに失望を示した。

(http://www.infodocket.com/2012/10/10/judge-rules-on-authors-guild-v-hathitrust/)(accessed 2012-11-05).

Random Houseが図書館の電子書籍所有権を認める

図書館がRandom Houseの電子書籍を,認定した図書館電子書籍販売者から購入した場合,その所有権は図書館にあるというのがRandom Houseの態度であることを,Skip Dye副社長が明言したとLibrary Journal誌が報じた。このRandom Houseの態度は,既に5月に開催されたMassachusetts Library Association会議で話題に出ていた。7月の米国図書館協会(ALA)年次大会で話が広まっていたが,十分な注目や考慮を受けてこなかったものである。Dye副社長は,次のように述べている。「Random Houseのビジネスモデルでは,われわれが電子書籍を,一連の認定図書館電子書籍販売者に販売し,図書館電子書籍販売者がそれを図書館に再販することになっている。われわれの見解では,この購入により図書館には図書の所有権が生じる。ライセンスではない」。Random Houseは既に,図書館が電子書籍を,あるプラットフォームから他のプラットフォームに移すことには反対していない。

Library Journal誌の記事が発表された数日後,書籍などへのオープンアクセスを提供するInternet ArchiveのBookserverプロジェクト・ディレクターPeter Brantley氏が,“所有”の意味を明確にするために,Dye氏とフォローアップの話し合いを行い,Publishers Weekly誌に発表した。 それによると,“所有”とは,図書館が電子書籍を,ある認定図書館電子書籍販売者のプラットフォームから他のプラットフォームに移すのを,Random Houseが手助けするという意味であり,図書館自体とは直接対応することは一切しない。Random Houseの見解では,図書館は,電子書籍カタログをあるプラットフォームから“他のプラットフォームに移転することができるという点においてのみ,購入した電子書籍を所有”するのである。認定されていないプラットフォームへの移転,転売,寄付,利用者からの寄贈などはできない。Brantley氏の考えでは,これは事実上“所有権”ではなく,恩恵付きのライセンスである。なお,Random Houseは,OverDrive,3M,Ingramなどの電子書籍販売者への電子書籍販売価格を3月1日から3倍に引き上げ,非難を浴びている(vol.55, no1の本欄にて既報)。

(http://lj.libraryjournal.com/2012/10/opinion/random-house-says-libraries-own-their-ebooks-lj-insider/)(http://www.teleread.com/library/libraries-do-not-own-random-house-e-books-after-all/)(accessed 2012-11-05).

Penguinと Random Houseが合併

6大出版社(Big Six)と呼ばれる大手出版社のうちの2社,PenguinとRandom Houseの合併が,それぞれの親会社であるPearsonとBertelsmannから10月29日に発表された。PenguinとRandom Houseは,ジョイントベンチャー“Penguin Random House”を作り,Bertelsmannがその53%を,Pearsonが47%を所有する。両社とも3年間は持ち分の株式を売ることができない。CEOには,Random House CEOのMarkus Dohle氏が,会長には,Penguin会長兼CEOのJohn Makinson氏が就任する。Penguin Random Houseには,米国,カナダ,英国,オーストラリア,ニュージーランド,インド,南アフリカにおけるPenguinとRandom Houseの全出版部門と,中国におけるPenguin出版社,スペインとラテンアメリカにおけるRandom Houseのスペイン語出版事業が含まれる。しかし,Bertelsmannによるドイツでの一般向け書籍の出版は,ジョイントベンチャーのビジネスには含まれず,Pearsonは世界の教育市場でPenguin商標を使用する権利を保持する。ニールセン・ブックスキャン(Nielsen BookScan)の10月6日までの書籍販売データによれば,今年はPenguinとRandom Houseの両社で,米国の出版売上高の29%,英国市場の26%をコントロールしており,BertelsmannのThomas Rabe CEOは, Penguin Random Houseは米国と英国出版業界の25%をコントロールすることになると予測している。合併は2013年後半に実現する見通しである。

(http://www.pearson.com/news/2012/october/pearson-and-bertelsmann-agree-consumer-publishing-partnership--p.html%3farticle%3dtrue)(http://lj.libraryjournal.com/2012/10/publishing/penguin-random-house-merger-is-on/)(accessed 2012-11-05).

Newsweek,デジタル版のみに

米国の週刊誌Newsweekは10月18日,2012年末で印刷版の発行を終了し,2013年からデジタル版のみで発行すると発表した。デジタル版は「Newsweek Global」という名称になり,有料購読制で,タブレットやPCから読むことができる。80年にわたって発行されてきた印刷版は,2012年12月31日号が最後となる。今回の決定の背景としては,印刷版の広告環境の変化や,同誌の電子コンテンツの読者の増加,タブレット端末などの普及などがあるとしている。一方で,今回の決定はNewsweekのブランドやそのジャーナリズムの質を変えるものではなく,単なるビジネス上のチャレンジだとしている。

(http://www.thedailybeast.com/articles/2012/10/18/a-turn-of-the-page-for-newsweek.html)(accessed 2012-11-05).

タブレット新製品が相次いで発売,PC出荷数は減少

タブレット端末の新製品発売が相次いでいる。クリスマス商戦を当て込んだ側面も大きいが,マイクロソフトがタブレット市場に参入するなど,コンピューターメーカー各社はタブレットを戦略の中心にしている。

Appleは10月24日,7.9インチディスプレイを搭載したタブレット「iPad mini」を発表し,11月2日より一部モデルの販売を開始した。従来の9.7インチサイズのiPadよりも小さくなったiPad miniは,片手で持てるサイズになり,2台目以降のタブレットとしての利用や,これまでタブレットと縁の薄かった層への普及が期待されている。タブレット市場は最近,Googleの「Nexus 7」(2012年7月),Amazonの「Kindle Fire HD」(2012年9月)など,iPadよりも一回り小さい7インチクラスタブレットへの新機種投入が続いている。

またマイクロソフトも10月26日に,同社としては初となる自社タブレット「Surface」を発売した。10.6インチのディスプレイを搭載したタブレット本体に,カバーと兼用の感圧式キーボードを取り付けることで,ラップトップのようなスタイルでも使用できるデザインになっている。米国とカナダで発売されたほか,数か国での発売が予定されているが,日本での発売は未定。

マイクロソフトはさらに同日,新しいOS「Windows 8」も発売した。Windows 8は,従来の複数ウインドウを使用するデスクトップの代わりに,アプリケーションをタイル状に並べたインターフェースを採用しており,タブレット端末やタッチスクリーン搭載PCなどでの使用に対応している。これにより,同社はハードウェアだけでなく,ソフトウェアでもタブレット市場への攻勢を強めている(上記のSurfaceタブレットにもWindows 8が搭載されている)。Windows 8には,単体で発売されるエディションのほかに,機能制限のあるプリインストール版(単体発売はなし)の「Windows RT」がある。

タブレット市場が活発化する一方で,PCの販売は減少している。米調査会社のIHS iSuppliは10月10日,2012年のPC出荷台数が11年ぶりに前年より減少するという予測を発表した。2012年のPC出荷台数総数は,2011年の3億5,280万台から1.2%減少し,3億4,870万台となる見込み。2012年初頭には,Intelの薄型軽量ノートPCの発売などで,出荷台数増加が期待されたが,第2四半期になっても出荷台数は伸びなかった。

(http://www.apple.com/jp/pr/library/2012/10/23Apple-Introduces-iPad-mini.html)(http://www.microsoft.com/en-us/news/Press/2012/Oct12/10-25SurfaceRetailPR.aspx)(http://www.microsoft.com/japan/presspass/detail.aspx?newsid=4215)(http://www.isuppli.com/Home-and-Consumer-Electronics/News/Pages/PC-Shipments-Set-to-Decline-in-2012-for-First-Time-in-11-Years.aspx)(accessed 2012-11-05).

Amazon,日本向けKindleを発表

Amazonは10月24日,電子書籍リーダー「Kindle」の日本版を発表した。電子インクを採用した白黒ディスプレイの「Kindle Paperwhite」のほか,カラー液晶を搭載したタブレット「Kindle Fire」「Kindle Fire HD」も合わせて発表された。Kindle PaperwhiteはWi-Fiモデルと3Gモデルがあり,3Gモデルでは国内無料3G接続サービスがついている。Amazonは2012年6月からサイト上でKindle日本版を「近日発売」すると予告していた。

Amazonは日本向けKindle発表翌日の10月25日に,日本向けの電子書籍ストア「Kindle Store」をオープンした。著名作家や出版社によるベストセラーなどを含む日本語電子書籍を5万タイトル以上提供する。ストア全体では,海外のベストセラーを含めて合計140万タイトルの品ぞろえになるとしている。Kindle Storeで購入した日本語電子書籍は,Kindleのほか,iPhoneやiPod touch,iPadのほか,Android搭載のタブレット/スマートフォンでも,専用アプリケーションをダウンロードすることで利用可能。なお,以前米国のAmazon.comで購入したKindle書籍は,そのままでは日本のAmazonアカウントでは利用できず,日米両サイトでのアカウントを結合するなどの対応が必要になる。

さらに同日,個人がKindle向けの電子書籍を出版できる「Kindleダイレクト・パブリッシング」を日本でも開始した。出版したい本の情報や価格などの詳細情報を入力し,コンテンツをアップロードすると,本の内容がガイドラインに違反していないかどうかのレビューを経て,世界中のKindleストアで販売される。出版費用は無料。書籍が売れた場合には小売価格の35%のロイヤリティを受け取ることができる。70%のロイヤリティを選ぶこともできるが,その場合には,配信費用が著者の負担となる。

(http://www.amazon.co.jp/gp/press/pr/20121024/ref=amb_link_64336009_2?pf_rd_m=AN1VRQENFRJN5&pf_rd_s=center-1&pf_rd_r=0FYP0GY5MXAX584NVQCE&pf_rd_t=2701&pf_rd_p=120145849&pf_rd_i=home-2012)(https://kdp.amazon.co.jp/self-publishing/signin)(accessed 2012-11-05).

秋田県立図書館が電子書籍の提供を開始

秋田県立図書館は,10月19日より電子書籍の閲覧・貸出を始めた。雑誌のバックナンバー,県立図書館貴重資料などを中心に,図書館向け専用資料を約2,000点提供する。タブレット端末,スマートフォンから閲覧することができる。貸出は1人3点以内で,10日間の貸出期間が過ぎると自動的に返却される。ほかの利用者が貸出中の場合は利用できず,予約することになる。電子書籍の提供は,都道府県の図書館としては全国初。市町村図書館を含めると10館目になる。

(http://www.pref.akita.lg.jp/www/contents/1349830053381/)(accessed 2012-11-05).

Google,20世紀の歴史的資料を公開

Googleは10月11日,20世紀の歴史的資料をデジタルアーカイブ化した42のコレクションを公開した。アンネ・フランクやD-デイ,アパルトヘイト,エリザベス2世の戴冠式などを含むコレクションは,「Google Cultural Institute」で見ることができる。それぞれのコレクションには,写真や動画,手紙,写本などの資料が含まれる。Googleはこれまでにも,「アートプロジェクト」や「ネルソン・マンデラアーカイブ」などのデジタルアーカイブを公開している。

(http://googlejapan.blogspot.jp/2012/10/20.html)(accessed 2012-11-05).

 
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