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世界の大学図書館コンソーシアムとJUSTICEの現在
守屋 文葉
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2013 年 56 巻 1 号 p. 12-20

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著者抄録

世界各国には多数の図書館コンソーシアムが存在する。本稿ではその中からイギリス,フランス,韓国,カナダの事例を紹介し,それらと比較しながら,大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)の組織と活動を概観する。また,2013年度から会員制への移行と会費の徴収が行われるが,その意義について述べる。

1. はじめに

学術情報が電子版を媒体として流通されることが一般的となり,現在では電子ジャーナルは研究活動における「日用品」となっている。厳しい財政環境にもかかわらず,大学の研究業績の向上と学習・研究環境の充実が求められる中で,学術情報基盤整備の一翼を担う大学図書館コンソーシアムの役割はますます重要になってきている。

本稿では,世界各国の図書館コンソーシアムの状況を俯瞰し,それらと対比しつつ,わが国の大学図書館コンソーシアムである「大学図書館コンソーシアム連合(Japan Alliance of University Library Consortia for E-Resources: JUSTICE)」の現状を概説する。あわせて,JUSTICEがこの4月から新たな体制に移行するという節目の時期にあることを踏まえ,大学図書館コンソーシアムとして将来目指すべき姿について,私見を交えつつ考察を行う。

2. 世界各国の図書館コンソーシアム

世界には学術情報を扱う図書館コンソーシアムが200以上もあると言われている。「図書館コンソーシアムのコンソーシアム」と呼ばれる国際図書館コンソーシアム連合(International Coalition of Library Consortia: ICOLC)のWebサイト(http://www.icolc.net/)にはICOLCに参加しているコンソーシアムのプロフィルが公開されており,現時点で約40か国,150件弱のコンソーシアムの情報を自由に見ることができる。表1は,この情報を参照してICOLCに参加するコンソーシアムの数が2以上ある国をまとめたものである。

表1 ICOLC参加コンソーシアム数(国別)
国名 ICOLC参加
コンソーシアム数
アメリカ 65
カナダ 16
ドイツ 7
オーストリア 4
イタリア 3
チリ 2
フランス 2
インド 2
ノルウェー 2
スロベニア 2
スペイン 2
スウェーデン 2
イギリス 2

これを見ると,アメリカの数の多さが群を抜いているが,図書館自体の数の多さに加えて,地理的な区分(州など)や参加する機関の種別(研究大学,カレッジなど)が多様であることが主な要因であろう。また,そうしたカテゴリごとにコンソーシアムが作られ,1つの図書館が2つないし3つのコンソーシアムに参加することも決して特殊なことではない。

世界各国の図書館コンソーシアムがどのようなものなのかを知り,後に取り上げるJUSTICEが,そうしたコンソーシアム群の中でどのような位置にあるのかをとらえるために,まずは4か国の代表的なコンソーシアムの組織形態や活動内容について,その概要を紹介する。

図1 世界の主要な図書館コンソーシアム

2.1 イギリス:JISC Collections

イギリスには,JISC Collections(https://www.jisc-collections.ac.uk/)という法人格(保証有限責任会社,company limited by guarantee)を有するコンソーシアムがある。2006年にJISC(Joint Information Systems Committee,英国情報システム合同委員会)という組織の下に設置され,英国の全高等・継続教育機関の,約500の図書館が参加している。運営委員会(6名),交渉担当専任スタッフ(18名)等を有し,運営経費はHEFCE(Higher Education Funding Council for England,イングランド高等教育助成会議)などによる公的資金やコンサルティング業務などによる収益を充当している。

英国における教育研究のためのデジタル資源の整備・確保の支援を主な目的として,電子リソースの契約交渉を中心に活動しており,現在約120の電子ジャーナルやデータベースの契約を行っている。この他に,「Knowledge Base+」(契約データや図書・雑誌の目録データを集積したデータベース),「elcat」(電子リソースのライセンスの比較・分析ツール),「JUSP」(電子ジャーナルの利用統計ポータル)など,コンソーシアム参加機関の業務に資するための多彩なサービスを開発・提供し,コンソーシアム内外との情報共有や調査研究,関連他機関との連携協力などを進めている。

2.2 フランス:Couperin

Couperin(Consortium universitaire de publications numériques)(http://www.couperin.org/)は,1999年に発足した図書館コンソーシアムである。フランス国内の大学・グランゼコール(高度専門職養成機関)・研究機関の約200の図書館が参加している。 運営組織として,「専門図書館員委員会」,「評議員会」および「事務局」があり,評議員会のメンバーは大学等機関の長,行政代表, Couperin事務局の部門長などが務めている。事務局の専任職員は3名在籍し,運営費には各参加館から300~800ユーロの年会費を徴収して充当している。

Couperinは,電子リソースをできる限り有利な価格で購入できるよう,参加図書館を統括して電子リソースの評価・交渉・手配等(出版社との契約交渉)を行うことを主な活動目的としており,参加する図書館の担当者が交渉等の業務を分担して活動を支えている。この他,「学術コミュニティー全体に対し,科学技術情報への平等なアクセスを保証するため,アーカイブの取得に関する国の政策を推進する」,「オープンアーカイブの整備を通じて学術コミュニケーションの改善に尽力する」,「フランス語によるコンテンツ作成を推進する」などのミッションを掲げて活動を行っている。

2.3 韓国:KESLI

韓国には,KISTI(Korea Institute of Science and Technology Information)という国の研究機関が事務局を担い,大学図書館・企業・公共図書館など約540機関が参加しているKESLI(Korea Electronic Site License Initiative)(http://www.kesli.or.kr/)という国レベルのコンソーシアムがある。コンソーシアムの運営費は主に国からKISTIに投じられているが,コンソーシアムが取り扱う電子コンテンツの契約・支払いは,参加する機関が個々に行っている。

KESLIは1999年に電子ジャーナルの共同購入からスタートした。当初からNDSL(National Digital Science Library)と呼ばれる,電子リソースのメタデータとフルテキスト,所蔵情報などを提供するワンストップサービスの構築を目指し,コンソーシアムに販売したい出版社に販売対象となる電子リソースのメタデータを提供させ,一方,参加館は保有する紙媒体のジャーナルの所蔵情報やライセンス情報を提供するといった形で整備が進められた。

これだけでなく,参加館の所蔵資料の共同利用や司書再教育プログラムなどの活動も行っており,全国的な図書館協力ネットワークに発展している。

2.4 カナダのコンソーシアム

カナダでは,主に州別に学術図書館コンソーシアムがあり,いくつかの州が集まったコンソーシアムが別に存在するなど,多くの大学が複数のコンソーシアムに参加している。それもあって,国内に「コンソーシアムのコンソーシアム」が存在する。コンソーシアムの多くは大学とカレッジが参加対象だが,病院図書館,保健局等の図書館が参加するコンソーシアムも存在する。運営費のほとんどは,参加図書館からの年会費と,電子リソースのライセンス料に上乗せされる手数料によって賄われているが,中には,州の高等教育省から運営の助成金を得ているコンソーシアムもある。多くは,運営のための組織として参加図書館の館長による図書館長委員会,執行委員会,事務局を有しているが,事務局の専任職員は1~10名弱とさまざまである。

各コンソーシアムの活動の主要な目的は,電子リソースのライセンス契約を有利に行うことである。特筆すべきは,カナダのほとんどのコンソーシアムでは,インボイスの集中管理(出版社等がコンソーシアムに対してインボイスを1通のみ発行し,一括して請求を行い,コンソーシアムが各参加図書館に対して個別にインボイスを発行する方式)を行っていることである。

この他に,電子リソースのコンテンツのホスティングや,図書館間貸借に関わる調整,総合目録データベースの整備など,多様なサービスを提供している。

2.5 日本のコンソーシアム

ICOLCの参加数には現れていないが,日本における学術機関・図書館のコンソーシアムは,JUSTICEの他にもいくつか存在する。電子リソースの契約条件交渉を主要な活動の1つとしたコンソーシアムとしては,医学図書館協会(JMLA)や薬学図書館協議会(JPLA)のコンソーシアム,国立・独立行政法人の研究所図書館によるコンソーシアム(JNLC)等が挙げられる。JMLA,JPLAは大学図書館も協会員となっており,そこに参加している大学図書館の大部分はJUSTICEの参加館でもある。JNLCも含め,各コンソーシアムの運営は,参加機関の代表がボランティアで行っている。

3. JUSTICEの概要

では,JUSTICEはどのような図書館コンソーシアムなのか。参加機関の種類,運営体制,運営に係る経費の出所,活動目的・内容に焦点をあてて説明したい。

3.1 参加機関,運営組織,運営経費

JUSTICEは,国公私立の設置母体を問わず,4年制大学の図書館が参加することができるコンソーシアムである。国公私立大学図書館協力委員会(以下,協力委員会)と国立情報学研究所(NII)との間で2010年10月に締結された「連携・協力の推進に関する協定書」1)(以下,協定書)のうち,「電子ジャーナル等の確保と恒久的なアクセス保証体制の整備」を推進するための組織として,2011年4月に発足した。一から新しく作られたものではなく,2000年頃から各々活動を行ってきた国立大学図書館協会(JANUL)コンソーシアムと公私立大学図書館コンソーシアム(PULC)が統合されたものである。企業や公共図書館などの機関は,現在は参加の対象となってはいない。

次に運営体制だが,JUSTICEはNIIと協力委員会により設置された連携・協力推進会議の下に置かれている「運営委員会」と,NIIの学術基盤推進部に設置された図書館連携・協力室が担当する「事務局」とで運営されている。運営委員会は大学図書館の職員で構成されており,主に管理職からなる委員と実務担当者からなる協力員をあわせた40名弱の人員で運営全般の基本方針の策定や,具体的な活動(出版社交渉,調査・分析,広報等)を行っている。

先に取り上げた各国のコンソーシアムと同じく,事務局に専任職員(3名)が配置されているが,専任事務局を備えた図書館コンソーシアムはおそらく日本ではJUSTICEが最初であろう。JUSTICEの母体となったJANULコンソーシアムとPULCもそうであったが,国内のコンソーシアムは,一般的に,その母体である図書館協会に専任職員がいることはあっても,コンソーシアムは事務局業務を含めて図書館職員のボランティアで運営されてきている。しかし,コンソーシアムの継続的な活動には,日常的に業務を行う事務局と専任の職員が不可欠である。そのため,JUSTICEの発足にあたっては,NIIが事務局の組織と場所,事務局運営に係る経費等の支援を行い,人的な支援は大学図書館が職員を出向させる形で専従の事務局を設けることとなった。専任職員の人件費は出向元の大学が負担している。これにより,大学図書館の職員がその身分のまま,NIIの日常的な支援のもとで図書館コンソーシアムの業務を行うという,これまでにない新たな連携・協力のフレームワークが生まれることとなった。さらに,国公私立という設置形態の枠を超え,机を並べて日常業務を行う組織というのも大学図書館としては画期的である。JUSTICEの誕生は,NIIと大学図書館の将来の姿を考える上で,非常に大きな意味を持つといえる。

3.2 ミッション,活動内容

JUSTICEのミッション,および活動内容は,2012年7月に制定された「大学図書館コンソーシアム連合 要項」2)に以下のとおり明記されている。この要項は,後述する新体制への移行に向けて制定されたものであるが,現在のミッションおよび活動内容を踏襲し,かつ,より具体化して記述されたものである。

第2章 目的及び事業

(目的)

第4条 連合は,電子ジャーナル等の電子リソースに係る契約,管理,提供,保存,人材育成等を通じて,わが国の学術情報基盤の整備に貢献することを目的とする。

(事業)

第5条 連合は,前条の目的を達成するために次の事業を行う。

(1) 出版社等との交渉を通じた電子リソースの購入・利用条件の確定

(2) 電子ジャーナルのバックファイルや電子コレクション等の拡充

(3) 電子リソースの管理システムの共同利用

(4) 電子リソースの長期保存とアクセス保証

(5) 電子リソースに関わる図書館職員の資質向上

(6) 前各号のほか,本連合の目的を達成するために必要な事業

中でも,第5条(1)の電子リソースの契約に係る出版社等との交渉が主たる活動である。この点は他国のコンソーシアムと同じであるが,韓国のKESLIやカナダのコンソーシアムが行っているような,参加館間の所蔵資料の共同利用サービス(ILL)の運営や総合目録の構築など,紙媒体資料を基本とした従来型の事業・サービスは,JUSTICEの活動の対象としていない。前述のとおり,「電子ジャーナル等の確保と恒久的なアクセス保証体制の整備」を推進するための組織として発足したこともあるが,そもそも日本においては,それらの事業はNIIが基盤を整備し,20年以上にわたり一貫して支えてきており,新たに行う必要がないためでもある。しかし, 今後JUSTICEが電子リソースにかかるさまざまな事業を展開していく中で,紙媒体資料を中心とした既存のサービス等との連携・融合も必要になるであろう。

出版社等との契約条件交渉における重要なポイントとして,電子リソースの契約・支払いをコンソーシアムが主体となって履行しているかどうかということがある。コンソーシアムは,参加館の支出を抑え,電子リソースへのアクセス環境を維持・改善することを目的として,参加館を代表して交渉を行うのだが,特に商業出版社を相手にする場合は,相手が一方的に減収となるような要求をしても合意に達することは難しく,互いがwin-winで折り合える点を探ることが必要となる。その際,出版社側から提示される価格低減策の1つに,コンソーシアム(参加館)との契約事務の合理化がある。大学と出版社とで個別に契約・支払いを行うのでなく,コンソーシアムが契約主体となり支払いも一括して行うことができれば,出版社側では相応の業務削減が行えるため,削減されたコストに見合う分を契約額から削減できるというわけである。しかし,コンソーシアムが契約・支払いの主体となるためには法人格を取得する必要がある。また,コンソーシアムが,参加館を代表して出版社との契約を行い,出版社に代わって各参加館から契約料金を受領することになるため,適正な会計処理等の仕組みが構築されていなければならない。イギリスのJISCやカナダのコンソーシアムではこのような一括契約を行っているが,世界的にも実現しているコンソーシアムはあまり多くないのが実情であろう。JUSTICEでも,コンソーシアムとして契約条件に合意した出版社の製品を契約するかどうかの判断と,実際の契約・支払いは各参加館が行っている。コンソーシアムとしては,参加館の電子リソースへのアクセス環境を維持していくためにも,契約額圧縮のための手立てを考え続けなければならない。将来的に契約・支払いを行う主体となる可能性も含め,制度整備・組織整備を進める必要があるだろう。

JUSTICEの活動は契約交渉の他にもいくつかあるが,とりわけ,かつてのコンソーシアムでは手薄であった,人材育成に取り組むための環境が初めて整ったことは評価されるべきである。フランスでは,図書館職員養成の課程を受講したり,在職中に交渉スキルをトレーニングする機会が設けられているようだが,活動の柱となる業務に携わる人材の育成は,コンソーシアムにとって死活的に重要である。特定の職員が長く関わることは,その期間の活動の安定をもたらすという点で決して悪いことではないが,コンソーシアムの持続的な活動体制を構築するため,ひいては学術情報流通基盤整備の中核的役割を担う人材を大学図書館界に増やしていくために,育成には積極的に取り組む必要があろう。

具体的には,事務局が組織上NIIに置かれていることから,NIIの実務研修制度を活用している。1年以内の月単位で研修生を受け入れ,On the Job Training(OJT)を基本としつつ,あわせて事務局員やNIIの職員の協力のもと個別研修課題に取り組んでいる。事務局では,昨年度は3名,今年度は1名の実務研修生を受け入れたが,それぞれ所属の大学へ戻った後も,実務研修で身につけたさまざまなスキルを生かすとともに,研修中に築いた人的なネットワークを活用し,学術情報流通への高い関心を維持しながら業務を行っている様子がうかがえる。大学図書館における人材育成プランの1つとして,この研修制度の活用が高まればと期待している。

3.3 世界の図書館コンソーシアムの中で

ここまでJUSTICEの概要を見てきたが,各国の図書館コンソーシアムの中で,JUSTICEは他と似たところのない特殊な組織であるとは言えない。どのコンソーシアムも電子リソースという学術情報を対象とし,互いに連帯し,情報を共有しているためにおのずと同じ方向へ向かうのだろう。

事務局員として情報を得た中では,運営組織の規模(事務局職員の数)や,活動の体制(参加館の分担による業務支援)などは,フランスのCouperinが最も形態として近いように感じる。組織だけでなく,学術情報流通の世界における主要言語である英語を母国語としないという文化的な面でも類似性が高く,おそらくコンソーシアムの交渉の手法や取り扱う対象の選択なども似通ってくるのではないかと思われる。

すでに欧州では国を超えたコンソーシアムの連携が行われており,ICOLCの活動も活発である。また,欧米の図書館職員の主導により各種のプロジェクトが運営されてもいる。JUSTICEには,これらの国際的な枠組みにおける日本の窓口として,日本の貢献度を高めていくことも,国内外から期待されている。

4. 新たなステージへ

JUSTICEの発足から2年が経過しようとしているが,この2年間は従来の2つのコンソーシアムの業務を統合し,安定的・持続的な活動体制を確立するまでの移行期間という位置付けである。その業務統合もおおむね完了し,2013年4月から新たな運営組織へと移行することとなっている。現在との大きな違いは会費の徴収を前提とした会員制の組織となることである。

4.1 コンソーシアムの立ち位置

JUSTICEがコンソーシアムとして安定的な組織運営を行うために,大学図書館コミュニティーにおいてどのような立ち位置をとるべきかについては,発足の直後から運営委員会で検討が重ねられた(図2)。そもそもかつてのJANULコンソーシアムのような図書館協会との一体型では,協会員以外の機関を含むような組織再編はできず,専任事務局の設置が求められていたものの協会組織としては困難であった。この「協会一体型」では解決し難い課題の存在がJUSTICE発足の要因の1つでもある。従って,まずは「協会一体型」から離れた組織としてJUSTICEを立ち上げ,その上で,全面的なアウトソーシングまで含めた中で最適と思われる形態を検討した結果,連携・協力の枠組みとともに会員館の支援によって運営される,中間的な形態の会員制組織を選択することとなったのである。

図2 JUSTICEの位置付け

4.2 新組織への移行が持つ意味

発足してから現在までの運営体制を振り返ると,運営の基盤が連携・協力推進会議の下に置かれ,コンソーシアムのガバナンスにNIIが関わる形となったことは画期的であった。その一方,参加館である個々の大学図書館からすると,JANULコンソーシアムとPULCの参加館がそのまま移行された状態であり,出版社の契約条件に見られるように,元のコンソーシアムの参加館であるという識別子が残っているため,JUSTICEの参加館と言われても実感に乏しい状態であったのも,やむを得ない(図3)。

図3 JUSTICE運営体制(2011年4月~2013年3月)

2013年4月以降は,連携・協力の枠組みと,会費を支払い会員館となる大学図書館からの二重の支援,ガバナンスによって成り立つ組織に生まれ変わる(図4)。この新組織への移行に際し,2012年10月から12月にかけて,既存の参加館に対して新組織の要項案や会費案等を示し,改めて参加意思を確認したところ,不参加を選択した大学もあったが,新体制以降に新規参加を希望する大学もあり,最終的には491館から参加の意向を得ることができた。幸いにも設立当初(486館)より多い数の会員館でスタートすることとなったのである。

図4 JUSTICE運営体制(2013年4月以降)

こうした,JUSTICEの会員館となるかどうかを自ら選択するという過程を通して,会員としての自覚を深めてもらうことができたのではないかと思われる。

なお,現在のJUSTICEは,NIIから事務局組織,場所,事務局運営に係る経費等の支援を受け,その上で大学図書館職員が活動する体制が実現されているとはいえ,NIIの支援以外の活動経費,特に事務局職員の人件費に関しては,全面的に出向元の大学(=特定の参加館)の負担となっている。会費の徴収を開始するのは,この負担を軽減するための財源確保が主な目的である。

会費の徴収についてはさまざまな考え方があり,カナダのように,コンソーシアムが出版社交渉の代行機関となり,電子リソースの契約料に手数料を上乗せする形で,交渉の対価として手数料=会費を徴収するという方法もある。ただし,その場合のコンソーシアムの実態は,図2に示した「アウトソーシング」に近くなり,契約を行う参加館だけがコンソーシアムの関与の対象となってしまう可能性が高い。JUSTICEが目指すのは,電子リソースの契約多寡によらず,会員となることに意味を見いだせるような活動を展開し,会員館全体でその活動を支援する仕組みを作ることである。

大学における電子リソースの整備という重要な任務に,今後とも関与し続けることを望んでいる個々の図書館において,身銭を切ってコンソーシアムの活動に加わることは,図書館のプレゼンスを大学の内外へ示すことにもなるはずである。

会員館に費用対効果だけでない参加の意義を感じてもらえるように,コンソーシアムとしては一層活動を充実させていかなければならない。

5. おわりに

2013年2月20日に新JUSTICEの設立準備総会が開催され,運営の体制,会費規程等の審議が行われた。2013年度からは,毎年1回通常総会を招集することが要項にも明記されている。

運営委員会委員等と会員館の担当者が直接顔をあわせる場としては,発足以来,「版元提案説明会」を年1回開催してきている。コンソーシアム向けの電子リソース契約条件を出版社が各大学図書館の担当者へ説明する場である。2013年度からは,この他にもJUSTICE内コミュニケーションを促進する機会を増やすことが検討課題となっている。

さまざまな形で会員館の意思を把握し,それが反映されるような運営を行うためには,移行後もそこで硬直化することなく,評価と修正を繰り返してよりよいものにしていく柔軟さを持つ必要がある。さらには大学図書館コミュニティーに対して透明性を担保するようなガバナンスを確立するために,不断の努力が求められよう。

日本の大学図書館は,状況にあわせて柔軟に変化するための仕組みとして,JUSTICEというこれまでにない形態の図書館コンソーシアムを作り上げた。この仕組みを生かすも殺すも大学図書館の自発的な関与次第である。来年度以降も,一館でも多くの大学図書館に会員として加わっていただき,JUSTICEの活動を支えてくださるよう祈念している。

参考資料

  1. a)   尾城孝一. 大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)の創設と活動について. 図書館雑誌. 2011, vol. 105, no. 11, p. 744-746.
  2. b)   守屋文葉ほか. 大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)~現在の活動と将来の展望. 大学図書館研究. 2011, vol. 93, p. 42-51.
  3. c)   大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)の会費について. http://www.nii.ac.jp/content/justice/member/JUSTICE-kaihi.pdf, (accessed 2013-01-21).
  4. d)   熊渕智行. 大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)の活動と今後の展開. 図書館雑誌. 2012, vol. 106, no. 11, p. 761-764.
  5. e)   大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)の活動報告(平成23年度). http://www.nii.ac.jp/content/justice/documents/H23_JUSTICE_AnnualReport.pdf, (accessed 2013-01-21).
  6. f)   大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)の活動報告(平成24年度・中間). http://www.nii.ac.jp/content/justice/documents/H24_JUSTICE_AnnualReport_ir.pdf, (accessed 2013-01-21).

参考文献
 
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