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情報界のトピックス
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2013 年 56 巻 1 号 p. 63-68

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Fair Access to Science and Technology Research法案

連邦政府の資金援助を受けた研究成果に,オープンアクセス(OA)を義務付ける新しい法案「Fair Access to Science and Technology Research Act」(FASTR)が,米国議会の上院と下院に2月14日提出された。両院に提出されたのは同一の法案で,連邦政府から資金を供与された研究成果の査読論文の最終原稿,あるいは査読誌に発表された論文を,可能な限り速やかに,遅くとも発表後6か月以内に,無料のオンライン・パブリックアクセスに供するためのパブリックアクセス・ポリシーを,連邦機関に求めている。提出したのは超党派議員で,John Cornyn上院議員(共和党),Ron Wyden上院議員(民主党),Mike Doyle下院議員(民主党),Zoe Lofgren下院議員(民主党),Kevin Yoder下院議員(共和党)の5人である。FASTRは,過去3回にわたり(2006年5月,2009年4月,2012年2月)議会に提出されたものの,採決には至らなかった「Federal Research Public Access Act」(FRPAA)とほとんど同じだが,オープンアクセスがより一層強化されている。Peter Suber教授は,FRPAAとFASTRの両法案の共通点と相違点を以下のように指摘している。

(1)共通点:両法案とも,

  • ・   対象は,外部委託研究に年間1億ドル以上を助成する政府機関
  • ・   FASTR法案成立後のパブリックアクセス・ポリシー作成準備期間は1年
  • ・   「パブリックアクセス」,「無料オンライン・パブリックアクセス」,「無料パブリックアクセス」を義務化(用語定義なし)
  • ・   グリーンOA(リポジトリにデポジット)義務化。ゴールドOA(OA誌に発表)に言及なし
  • ・   査読済み著者最終原稿のデポジットを要求。出版社が発表原稿と取り換えるのは可能
  • ・   デポジットするリポジトリの選択は自由。自機関リポジトリ,NIH(米国国立衛生研究所)のPubMed Central,助成金受給者の望む機関や主題リポジトリなど
  • ・   研究全体,または一部に資金を得た研究に適用
  • ・   発表後可能な限り速やかな,遅くとも6か月以内の(政府雇用の研究者は直ちに)OA化
  • ・   著作権の問題を回避
  • ・   機密研究,未発表研究,ロイヤルティのからむ研究は除外
  • ・   著作権法と特許法の改定なし

(2)相違点:FASTRは,

  • ・   機関ポリシーを調整する条項を含み,新手続きに従わなければならない大学の負担を軽減
  • ・   libre OA(論文の再利用権またはオープンライセンス)を求める条項を含む

1)査読文献の広範な再利用への著しい関心

2)有効な再利用を可能にするフォーマットとライセンスの条項を含む

3)各機関からの年次報告書を求める

FASTRに対する各界の反応は素早く,法案が提出されたその当日に早速,各団体が声明を発表した。納税者アクセス同盟(Alliance for Taxpayer Access: ATA)とPLOSはFASTRを歓迎し,法案の共同提案者に加わることを議員に求めるよう呼びかけた。FASTRの提案議員5名は全員,FRPAAの共同提案者でもある。米国図書館協会(ALA),米国大学・研究図書館協会(ACRL),北米研究図書館協会(ARL),Creative Commons,SPARCなど,OAを支持する10の団体は,FASTR法案提出を感謝する手紙をDoyle議員に送った。他方,米国出版協会(AAP)は同日,FASTRを「名前は違うが同じ無用な事業」と呼び,質の高い査読研究発表へのアクセスを,持続的に提供する出版社の努力を害し,連邦資源を無駄遣いするものであると非難する声明を発表した。FASTRが議会を通る可能性は高くないとみられているようである。T. Scott Plutchakアラバマ大学図書館長のように,委員会を通過する可能性は上院9%,下院6%,法律成立の可能性は1%と予測する声もある。

(http://doyle.house.gov/sites/doyle.house.gov/files/documents/2013%2002%2014%20DOYLE%20FASTR%20FINAL.pdf)(https://plus.google.com/109377556796183035206/posts/FZFvDhBLTzE#109377556796183035206/posts/FZFvDhBLTzE)(accessed 2013-03-06).

オバマ政権が連邦助成研究へのアクセス方針覚書を発表

2月22日,大統領行政府(Executive Office of the President)は,連邦助成研究成果へのアクセスに関する方針覚書(policy memorandum)を発表した。覚書の中で,科学技術政策局(Office of Science and Technology Policy: OSTP)のJohn Holdren局長は,年間1億ドル以上を研究または開発に費やす連邦機関に対して,連邦政府の助成金を得た研究の成果を,発表後1年以内に無料公開するための計画を立てるよう指示した。FASTRと覚書のゴールは同じではあるが,内容には違いも見られる。

  • ・   論文に加え,データのOA化も要求(FASTRはデータに言及なし)
  • ・   メタデータを要求(FASTRは言及なし)
  • ・   エンバーゴ期間は,FASTRが論文発表後6か月以内,OSTPは1年以内を要求
  • ・   FASTRは機関にリポジトリ選択の自由を認めるが,OSTPは好ましい戦略として,適切な場合には現存のアーカイブ利用と,学術誌との官民パートナーシップを促進する戦略を求める
  • ・   FASTRが,提出論文に最新技術による計算解析を許可するよう求めるのに対し,OSTPは,単にアクセス可能性と相互運用性の革新を奨励するのみ
  • ?   FASTRが法案通過後,機関に与えるポリシー作成準備期間は1年だが,OSTPは6か月で,しかもそのための予算増加は伴わず
  • ・   対象機関は,FASTRの11機関よりも若干多い見込み

新しいポリシーは科学者,科学団体,出版社,米国議会議員,連邦助成金を得た研究へのパブリックアクセス請願に署名した65,000名の意見を反映したものである,とOSTPは述べているが,FASTRとの相違点には,明らかに米国出版協会(AAP)の意見が反映されている。エンバーゴ期間のガイドラインは1年とされているが,覚書に述べられた目的に取り組むために,機関には必要に応じて交渉・調整する権利が与えられる。また覚書は,官民間の相互運用性の潜在力を最大化するために,官民協力を助長するよう機関に求める。FASTRを非難したAAPは,「連邦機関の助成金を受けた研究のパブリックアクセスに関する問題への,合理的なバランスの取れた解決策」であるとして,OSTPのポリシーを支持している。北米研究図書館協会(ARL)は覚書の発表後直ちにOSTPのポリシーを歓迎する声明を発表し,連邦助成金を得た研究結果の入手を可能にすることの重要性と価値を認知しているとしてオバマ政権を称賛した。米国大学・研究図書館協会(ACRL),SPARCに加え,全米科学財団(National Science Foundation: NSF)や,対象となる連邦機関であるエネルギー省のOffice of Science,農務省,NASA,商務省などもOSTPのポリシーに称賛を送った。

SPARCは覚書の発表を「画期的な出来事」と呼んでいるが,これは法案であるFASTRが法律になるには議会の可決と大統領の署名が必要であるのに対し,覚書は提案ではなく,連邦機関に対するホワイトハウスからの指示だからである。対象となる連邦助成機関は,夏までにはパブリックアクセス・ポリシーの草案を作成していることになる。FASTRが議会を通った暁には,機関はFASTRのガイドラインに沿ったポリシーに改定することが必要となる。

(https://www.eff.org/sites/default/files/ostp-public-access-memo.pdf)(accessed 2013-03-06).

酷評したライブラリアンを出版社が告訴

出版社を酷評したライブラリアンが訴えられた。2010年に,当時米国のカンザス州立大学で終身在職権を持つ准教授でもあったDale Askey氏は,自身のブログサイトで,Edwin Mellen Pressのことを,厳密には自費出版専門の出版社とは言えず,時折は価値のある作品も出版するが,出版物の多くが学術的には二流である「うさんくさい出版社」と呼んだ。また,図書を見計らいで図書館に送りつけ,職員が返却しないのをよいことに,とてつもなく高い価格をつけていると批判した。当時彼は大学図書館のコレクションに加える資料の査定を行っており,図書の品質評価が彼の仕事だった。問題とされた記事は,2012年5月にAskey氏が自己の判断で削除したが,その3か月後,Edwin Mellen Pressは,オンタリオの上位裁判所に2件の名誉毀損を提訴した。1件目は,Askey氏だけではなく,彼が2001年からAssociate University Librarianとして勤務しているカナダのマクマスター大学に,350万ドルの損害賠償金を求めるものである。ブログ投稿時には雇用主ではなかったマクマスター大学を訴えたのは,Askey氏に問題の記事削除を求めず,大学自身も中傷的陳述を行ったとの理由による。2件目は,出版社の設立者であるHerbert Richardson氏についての個人的な中傷に対するもので,Richardson氏を原告とし,Askey氏のみに100万ドルを超える賠償金を要求した。カンザス州立大学は責任を問われていない。Edwin Mellen Pressは1993年にもネガティブなコメントをめぐって,Lingua Franca誌を告訴したが負けている。マクマスター大学は声明を発表し,Askey氏の専門的意見を否定するEdwin Mellen Pressの要求や大きな圧力を拒否し,学問と言論の自由を守り続けることを主張した。Askey氏は,大学から大きな支援を受けており,訴訟は大学でのステータスに何ら影響しないと語った。

北米研究図書館協会(ARL)とカナダ研究図書館協会(CARL)は,Askey氏とマクマスター大学を強く支援し,訴訟を取り下げて,自社の評判に対処するためにもっと建設的な方法を取るようEdwin Mellen Pressを促す共同声明を発表した。米国図書館協会(ALA)のSullivan会長も共同声明に共感し,訴訟は図書館で図書を読む人々に,情報専門家として熟慮されたアドバイスを与えるライブラリアンの中核的な責任を攻撃するとの声明を発表した。ライブラリアンたちもAskey氏支援の声をあげ,Dale Askey SupportのFacebookも立ち上げられた。

Edwin Mellen Pressは2件の訴訟のうち,マクマスター大学とAskey氏に対する訴訟の取り下げを,3月1日付プレスリリースで発表した。訴訟に反対するカナダ大学出版協会(ACUP)などによる,ソーシャルメディア・キャンペーンからの財政的プレッシャーを理由に挙げている。Askey氏のみを対象とした訴訟については不明である。

(http://bibliobrary.net/)(http://www.cbc.ca/hamilton/news/story/2013/03/04/hamilton-librarian-lawsuits-dropped.html)(accessed 2013-03-06).

インディペンデント書店がAmazon社等を告訴

米国のインディペンデント書店(個人経営の書店)3店が,Amazon社と大手6大出版社(Random House,Penguin,Hachette,HarperCollins,Simon & Schuster,Macmillan)を相手取って集団訴訟を起こした。訴状は,6大出版社は,Amazon社独自のDRM(デジタル著作権管理)を許す秘密協定を結ぶことにより,電子書籍市場での通商・取引を不等に制限していると述べ,電子書籍がAmazon Kindle,あるいはKindleアプリケーションの入ったデバイスでしか読めないことを糾弾している。従来型のインディペンデント書店がつぶれた結果として,消費者は選択の権利を奪われ,革新と競争から生まれる利益も拒まれてきたことで,損害を受けていると主張している。最も非難されているのは,意図的に電子書籍の独占状況を生み出したとされるAmazon社である。訴えたのはニューヨーク州のPosman BooksとBook House of Stuyvesant Plaza,サウスカロライナ州のFiction Addictionだが,これら3つの書店はインディペンデント書店を代表して訴訟を起こしたと述べ,速やかな差し止め命令と損害賠償を求めている。Simon & Schuster社のスポークスマンRothberg氏は,「訴訟は,メリットも法的根拠も無しに申し立てを行っている。原告の小売業者は,法廷で争うよりもビジネスを成長させるためにわれわれと協力するほうが,良い状態になるだろう」と語った。

(http://www.huffingtonpost.com/2013/02/20/drm-lawsuit-independent-bookstores-amazon_n_2727519.html?utm_hp_ref=books)(accessed 2013-03-06).

米非営利団体「すべての学校でプログラムの授業を」

米国の非営利団体「Code.org」は2月26日,「米国のすべての学校でプログラムの授業を」と訴える動画を発表した。この動画には,Microsoftのビル・ゲイツ会長や,Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOらが出演している。同団体は,2012年にハディ・パルトビ氏によって設立され,賛同者として,ゲイツ氏やザッカーバーグ氏のようなIT業界のリーダーのほか,クリントン元大統領などの政治家,起業家,ミュージシャンやプロバスケットボール選手,俳優が名を連ねている。同団体によれば,米国ではコンピューター関連の仕事の増加に比べて,コンピューターサイエンスを専攻する学生の数は増えておらず,卒業者全体に占める割合は10年前に比べて減少している。また9割の学校では,コンピュータープログラミングのクラスを実施していないと指摘し,コンピューターサイエンスやプログラムの授業を,生物学や物理学,化学のような必修科目にすべきだと訴えている。同団体のWebサイトでは,活動に賛同する人々からの署名を募っている。

(http://www.code.org/)(accessed 2013-03-06).

経団連が「電子出版権」を提案

経団連は2月19日,電子書籍の流通と利用の促進に向けて,「電子出版権」(仮称)の新設を提言した。経団連は,日本で電子書籍コンテンツの数が十分でない理由として,著作権法上の権利関係ならびにビジネス慣行に根ざした問題と,違法な電子書籍の問題をあげ,これらは相互に関連していると指摘した。さらに,既に出版業界から提案されている「著作隣接権」については副作用が大きいと批判した。経団連が提案する「電子出版権」の要件としては,(1)電子書籍を発行する者に対して付与,(2)著作権者との「電子出版権設定契約」の締結により発生,(3)著作物をデジタル的に複製して自動公衆送信する権利を専有させ,その効果として差止請求権を有することを可能とする,(4)他人への再利用許諾(サブライセンス)を可能とする,をあげている。この電子出版権は,従来の紙書籍の「出版権」に類似している一方で,著作権者と出版社との間の契約なしでは設定されない権利として設計されており,日本の出版業界に契約文化を確立させる一助になるとしている。

(http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/016.html)(accessed 2013-03-06).

スマートフォンの無線LANだけでメッセージをリレー

携帯通信事業者の回線を使わず,スマートフォンの無線LAN機能だけで,メッセージを離れたところにリレーして送信する実験に,東北大学大学院情報科学研究科の研究グループが成功した。この実験では,市販のスマートフォンに,今回新たに開発したシステムを搭載。それぞれのスマートフォンを基地局のように使い,Wi-Fi(無線LAN機能)だけでメッセージをリレーした。2月8日には東北大学構内で27台のスマートフォンを使用して,メッセージのリレーに成功。さらに2月18日には,仙台駅付近の2.5キロの区間を,30台のスマートフォンを使ってリレーすることに成功した。研究グループでは,Wi-Fiを利用したメッセージリレーは,人通りや無線電波の多い市街地では難しいと予想されたが,今回の実験成功でその懸念を払拭できたとしている。今回の実験は,これまで東北大が研究開発してきた技術を,総務省受託研究事業「災害に強いネットワークを実現するための技術の研究開発」の一部として実験・評価したもの。東日本大震災の際には,回線の混雑や,停電による基地局の機能停止によって,広い範囲でメール送信などができなくなったが,研究グループでは,大規模災害で通信回線が遮断された場合にもメール送信ができる技術の実用化に大きく近づいたとしている。

(http://www.is.tohoku.ac.jp/detail/pdf/PR130222.pdf)(accessed 2013-03-06).

特許出願件数,中韓との差が拡大

トムソン・ロイターは2月26日,知的財産の観点から日本の産業動向について調査・分析した報告書「マーケットリポート:グローバル化の先へ 日本はガラパゴスから抜け出したか」を発表した。日本企業のグローバル化を知的財産情報の観点から分析するとともに,半導体製造装置メーカー,DRAM関連企業,ワイヤレス給電技術のそれぞれの特許情報を分析し,事業戦略の転換や事業展開の実例を解説している。この報告書によれば,世界の主要市場において中国と韓国の出願特許件数が占める割合は,1996年から2009年の間で全体の9%から39%に増加する一方で,日本の出願特許件数の割合は全体の65%から24%に低下している。しかし日本企業の海外への技術供与による受取金額は年々増加しており,技術の輸出で収益をあげるビジネスモデルが確立されていることがわかった。また,企業の事業戦略策定において,知的財産情報を効果的に活用することの重要性が明らかになったとしている。

(http://ip-science.thomsonreuters.jp/press/release/2013/JPmarket_rep_wireless/)(accessed 2013-03-06).

浪江町内のGoogleストリートビューを撮影

Googleは3月4日,福島県浪江町内のストリートビューの撮影を開始したと発表した。浪江町は現在,その半分が福島第一原子力発電所から20 キロ圏内にあたる「警戒区域」と,残り半分が「計画的避難区域」に指定されている。今回の撮影は,浪江町からの依頼によるもので,カメラを搭載した専用車両で両区域内を数週間程度撮影し,数か月後の公開を目指すとしている。浪江町の馬場有町長は,「多くの町民からふるさと浪江の姿を見たい,知りたいという声が非常に強くなっている」とし,「今回,Google の協力で,ストリートビューで街の様子を撮影・公開することで,多くの町民の皆さんに街の様子をお知らせしたい,そして世界にありのままの浪江町を発信して行きたい」とコメントしている。

(http://googlejapan.blogspot.jp/2013/03/blog-post.html)(accessed 2013-03-06).

違法ダウンロードに対する認識が向上

オリコンは2月26日,「第4回著作権法改正・施行認知率,今後の違法ダウンロード意向調査」結果を発表した。2010年より一部改正・施行された著作権法の認知率は67.2%で,初めて60%を突破。一方,「今後も違法ダウンロードする」と答えた人は8.7%で,初めて1桁台まで減少した。改正著作権法で違法ダウンロードが刑事罰となることについては,全体の48.5%が知っており,さらにその83.5%が刑事罰の対象となる内容についても知っていると答えた。昨年1年間の違法ダウンロード経験が「ある」と答えた割合は,10.7%と過去最小値になった。オリコンでは,「音楽事業者の継続的な啓発活動に一定の効果が現れ,認知の増加,違法ダウンロード経験・意向の減少が顕著に見られた」としている。

(http://www.oricon.co.jp/news/ranking/2022094/full/)(accessed 2013-03-06).

 
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