2013 年 56 巻 3 号 p. 166-172
この回の目的は,法令の制定過程において発生する情報・資料の調べ方を説明することである。第3回の「法令の条文」1)及び第4回の「法令の解説」2)において示されたように,法令の文言を理解するためには,立法の趣旨,立案の過程や国会における議論の内容を知ることが不可欠である注1)。
法令には国の法律,政・省令等,地方自治体の条例,規則があるが,以下においては,法律に焦点をあて立法過程と重要資料を概観するとともに,平成24年の「著作権法の一部を改正する法律」(以下「著作権法一部改正法」という),とりわけ違法ダウンロードの刑事規制を例に,内閣提出法律案における重要資料の探し方を具体的に説明する注2)。
法律は,憲法上唯一の立法機関である国会において議決されることにより成立するので,立法過程は,厳密には衆議院または参議院に法律案が提出されることにより始まる。ただし,法律案の提出権は議員・委員会と内閣に認められており,前者は議員提出法律案,後者は内閣提出法律案と呼ばれる。提出される法律案の60%~80%,成立する法律の80%~90%が内閣提出法律案である。わが国では,法律案の完全性・完結性が求められ,国会における修正率が高くないことから,内閣提出法律案の立案・発案が決定的な影響を持つことが少なくなく,法律案の立案過程が立法過程の中で持つ意味合いが大きい,と指摘されている注3) 。
2.1 内閣提出法律案の立案過程内閣提出法律案の場合は,所管省庁が関係省庁と調整のうえ省庁原案を作成し,内閣法制局の予備審査,審議会諮問,閣議決定を求める最終案についての内閣法制局本審査,政府与党調整(説明・審査)を経て,閣議決定が行われ,国会に提出される注4)。
2.2 議員提出法律案の立案過程議員提出法律案は,各政党の政策調査機関,超党派の議員が政策実現のため結成した議員連盟等が主導して立案される。立案にあたっては,両院の議院法制局が,立法趣旨の明確化,大綱・骨子等の法律案の基本的な枠組みの作成,法律案要綱の作成と条文化等を直接補佐する。最近は,市民団体が主導して原案を作成し,議員提出法律案として提案される「市民立法」というルートも開かれつつある。委員会提出法律案の場合は,小委員会が設置されて法律案を起草することもある。
2.3 法律案の国会審議過程内閣提出法律案は,議案として,衆議院または参議院の議長あてに提出されるが,予備審査のために他の院にも送付される。議員提出法律案の場合は,一定数の賛同を得た上で議員から,または委員会委員長から,所属する院の議長あてに提出される。議長は,所管する常任委員会ないし特別に設置した委員会に法律案を付託する。付託前に本会議での趣旨説明と質疑が行われる場合もある。
委員会では,法律案の趣旨説明,質疑・討論の後,採決を行う。有識者・利害関係者・一般国民から選任された公述人による公聴会を開催したり,参考人を招致して意見を聴取する場合もある。委員会提出法律案は委員会の審査が省略される。
法律案の修正は,原案を修正する動議であって法律案の提出ではないが,議員提出法律案と同様に,議院法制局の補佐を受けて修正案要綱,新旧対照表,案文の作成が行われる。また,採決にあたって,政府に対する要望や意見として,「附帯決議」が付されることがある。
可決・修正議決された法律案は,委員会の審査報告書とともに本会議に送付され,本会議は,委員会の審査報告を受けて質疑・討論を行い,採決する。
可決された法律案は,他の議院に送付され,前議院と同様の手続きにより審議が行われる。前議院と同一内容の法律案が可決されたときは,これにより法律が成立する。修正議決された場合は,修正議決された法律案が前議院に返付され,それが可決されたときに初めて成立する。
他の議院により否決されたときは不成立となる。ただし,衆議院に優越が認められており,衆議院が送付した法律案を参議院が否決したとき,あるいは参議院の修正に同意しないときは,衆議院は出席議員の3分の2以上の再議決により,衆議院が可決した法律案を法律とすることができる。
内閣提出法律案の場合,法律案の作成に先立ち,各省庁内部,各種審議会や私的諮問機関において,対象となる政策課題の把握のための実態調査や外国の制度との比較等,法制度改革のための調査研究が行われることが多い。政策課題の研究調査報告書や実態調査が各省庁Webサイトの「政策欄」に掲載される。参考資料として,審議会に提出される場合もある。関係団体による委託調査として行われることもあり,それらへの目配りも必要である。
3.2 審議会.私的諮問機関の会議資料各種審議会においては,利害関係者の意見聴取,学識経験者や専門家による論議により,問題点の整理が行われる。各省庁で作成された法律案要綱の検討が諮問されることもある。いずれも,法律の背景を知るために重要なものである。審議会の議事録や会議提出資料が各省庁Webサイトの「政策欄」に掲載される。審議会報告書が刊行される場合でも,速記録の形で生々しい議論が再現されることはないので,貴重なものとなる注5)。法制度改革のために特別の委員会を設けたり,独自に調査を行う場合もある。
3.3 パブリックコメント(意見公募手続)法律案の立案においても,審議会で検討されている報告書(案)や法律案要綱について一般の意見を聴取する場合がある注6)。ただし,その募集及び意見の取りまとめは各省庁に委ねられており,審議会の会議資料として発表されるのみで,「電子政府の総合窓口」Webサイトからはアクセスできない場合もある。
3.4 内閣法制局予備審査文書法律案の省庁原案に対する内閣法制局の予備審査は,法律の趣旨目的,立法の必要性,関連法規との関係の整理,法律として盛込むべき事項,条文等,全般にわたり,法律案を理解する上で大変有益なものである。内閣法制局の予備審査内容は,行政機関情報公開法に基づく情報公開請求により入手することができる。
法律案が,議案として各院の議長に提出されると,提出者が内閣の場合は「閣法」,議員の場合は,衆議院議員が提出したものは「衆法」,参議院議員が提出したものは「参法」と呼ばれ,提出された国会の回次ごとに通し番号が付される。会議と委員会において議題となった法律案は会議録に全文掲載されるが,いまだ議題とされていないものや,議題とされないまま審査未了・廃案となったものは,会議録に掲載されないため,調査するには,法律案そのものにあたる必要がある。なお,修正後の法律案は修正前の法律案とともに会議録・委員会議録に掲載される。
(2) 法律案の検索法律案の審査の過程で発生する情報・資料を検索するための手掛かりとなるのが,調査の対象となる法律案が提出された国会の回次,法律案の種別と提出番号,成立した法律の法律番号と公布年月日である。国立国会図書館Webサイトの「日本法令索引」データベース(以下DB)の「法律案」検索(http://hourei.ndl.go.jp/SearchSys/frame/houritsuan_top.jsp)で,件名検索すると,対象となる法律案の一覧が表示される。選択した法律案の「審議経過」を参照すると,①法律案の提出回次,種別,提出番号,提出者,提出年月日,②制定法律名,公布年月日,法律番号が表示される。
衆議院Webサイトの「議案」(http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htm)には,回次ごと,法律案の種類ごとに,その「審議経過情報」と法律案の法文(国会で修正が行われたときはその修正案)が掲載される。衆議院法制局Webサイトの「衆法情報」(http://www.shugiin.go.jp/itdb_annai.nsf/html/statics/housei/html/h-shyuhou.htm)には,衆議院議員提出法律案と衆議院修正案の一覧(法案・修正案,概要・要綱・対照条文等の関係資料,審議経過)が掲載されている。
4.2 会議録,委員会議録 (1) 会議録本会議の審議は,「会議公開の原則」により,その記録の保存・公表・一般への頒布が義務付けられ(日本国憲法第57条),『官報』号外として刊行されている。衆議院では,議案の発議,提出,付託,送付,回付及び撒回に関する事項,参議院では「すべての議事を記載」するとされている。会議に付された案件及びその内容について,会期ごとに目次,案件名索引(議案名から検索できる),発言者索引が付与されている。
(2) 委員会議録委員会の審議は「会議公開の原則」の対象とはならず,原則として非公開と解されているため,紙媒体の委員会の会議録は,議員に対しては印刷・配付されるが,一般への頒布は制約されている注7)。両院協議会,合同審査会,連合審査会,公聴会,分科会,小委員会等の会議録も委員会議録と同様に作成される。現在では,国立国会図書館の「国会会議録検索システム」DB( http://kokkai.ndl.go.jp/)により,帝国議会開設以来の会議録と委員会議録を,無償で入手することができる。
(3) 会議録・委員会議録の検索「日本法令索引」DBは「国会会議録検索システム」DBのテキスト情報を収録しているので,「審議経過」を表示すると,会議録索引情報として,国会の回次,審議した院と会議名,開催日,会議録の号数と掲載頁数,審議の内容(趣旨説明,議案,質疑,採決,附帯決議,委員長報告,審査報告書,投票者氏名)が表示され,会議録のどこに何が掲載されているかを知ることができる。
ただし,テキストが表示されるのは会議の出席者氏名や質疑応答の部分のみであるため,院・会議の種類・会議録の号数を参照の上,「国会会議録検索システム」DBにより,期間,発言者氏名,会議名,検索語(キーワード)を指定して検索し,趣旨説明,質疑,討論,採決,委員長報告以外の資料も掲載されている「会議録(冊子)画像」を表示して,議案,附帯決議,審査報告書,投票者氏名等を確認する必要がある。また,「追録・附録・目次・索引検索」により,国会の回次,院名,会議名を指定してその画像を検索することができる。
4.3 法律案参考資料委員会審議の参考のために委員会に提出される資料として,法律案参考資料がある。
(1) 所管省庁が作成する法律案参考資料内閣提出法律案については,国会の審議の参考のため,提出された法律案の所管省庁が法律案参考資料を作成して,法律案が付託された委員会に提出する。いわゆる「5点セット」(法律案・提案理由の説明・法律案要綱・新旧対照条文・参照条文)である。過去においては,委員会の内部資料として公開されていない場合が多かったが,最近では,各省庁のWebサイトにおいて,制定法律や国会提出法律案の関係資料として,同じ内容のものが掲載されている。内閣法制局Webサイト(http://www.clb.go.jp/contents/index.html)の「最近の法律・条約」の「バックナンバー・内閣提出法案一覧」の「法律案名」と「主管官庁」をクリックすると,それぞれから「提出理由」,各省庁の法律案サイトの「5点セット」にアクセスできる。
(2) 国会が作成する法律案参考資料衆議院調査局の調査室及び参議院の委員会調査室も,付託された法律案についての参考資料を作成している。衆議院調査局の最近の法律案参考資料は,国立国会図書館議会官庁資料室が所蔵・公開しており,法律案の正式名称により国立国会図書館の蔵書検索(NDL-OPAC)により検索することができる。
法律案が審議された国会の回次と法律案の提出番号を知っていれば,会議録を参照しなくても,法律案の審議経過を知ることのできる資料として,紙媒体の『議案審議表』(参議院議事部)がある。衆議院Webサイトの「法律案等審査概要」(http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gianrireki.htm)と参議院Webサイトの「ライブラリー・議案情報」(http://www.sangiin.go.jp/japanese/kaiki/index.html)でも審議経過が確認できる。
附帯決議や本会議と委員会における審議の概要を知ることのできる資料として『衆議院の動き』(衆議院事務局1993年~),『参議院審議概要』(参議院事務局 第95回国会1981年~)がある。衆議院Webサイト(http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_shiryo2.htm)と参議院Webサイト(http://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/old_gaiyo/180/m-180.html)にも掲載されている。成立した法律については,『国会制定法審議要録』(衆議院法制局・参議院法制局)が,国会の回次単位で刊行されている。
衆議院調査局と参議院の各調査室が,対応する委員会の審議経過をまとめた『委員会審議要録』には,委員会議録の発言者索引・事項索引がある。委員会により収録内容は著しく異なるが,委員会提出資料等がそのまま掲載されている場合もある。衆議院は紙媒体の刊行を終了しているが,古いものは国立国会図書館議会官庁資料室,参議院については参議院議会史料室,国立国会図書館議会官庁資料室で閲覧できる。
国会の立法補佐機関である衆議院調査局,参議院常任委員会調査室・特別委員会調査室,国立国会図書館調査及び立法考査局は,法律案の審査と国政調査のための資料の収集その他の調査を行っており,法律案参考資料以外に以下のような各種の調査報告を作成・公表している。
著作権法の改正は,文部科学省の文化審議会著作権分科会において審議され,その活動は文化庁Webサイトの文化審議会著作権分科会の「報告・答申等」(http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/houkoku.html)と「議事録・配布資料」(http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/bunkakai/index.html)に収録されている。
平成24年改正に関連する審議内容は,『文化審議会著作権分科会報告書』(平成23年1月 文化審議会著作権分科会)と関連する議事録・配布資料に収録されている。ただし,違法ダウンロードの規制は,平成17年の「著作権法に関する今後の検討課題」に基づく検討の結果,平成21年の著作権法の改正によって行われたことから,平成18年以降の『文化審議会著作権分科会報告書』等の報告書と関連する議事録・配布資料を参照する必要がある。とりわけ「私的録音録画補償金制度」の抜本的見直しについての報告書,議事録,配布資料,パブリックコメント(意見公募手続)の結果の概要が重要である。また,文化庁Webサイトの「各種報告(懇談会・検討会議・調査研究」(http://www.bunka.go.jp/chosakuken/chousakenkyu.html)にも,外国の事例を取りまとめた『著作権制度における権利制限規定に関する調査研究報告書』(著作権制度における権利制限規定に関する調査研究会・三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社, 2009)等の著作権法改正に関連する報告書が掲載されている。
7.2 立法過程 (1) 法律案「日本法令索引」DBの「法律案」検索により,平成24年の「著作権法の一部を改正する法律案」の提出番号が第180回国会閣法第64号,法律番号が平成24年法律第43号と特定することができる(図1 上段)。この法律案は衆議院で修正されており,衆議院法制局Webサイト「衆法情報」の「第180回国会 修正案」(http://www.shugiin.go.jp/itdb_annai.nsf/html/statics/housei/html/h-shyuhou180.html#shudata)により修正案名,修正対象(提出法律案文),提出者名,修正案文,関係資料(概要・要綱・新旧対照),審議経過が確認できる。
同じく「日本法令索引」DBの「法律案」の検索の結果,「会議録索引情報」により,審議経過(趣旨説明,質疑,討論,採決,委員長報告,附帯決議,審査報告書,投票者氏名等)の文書・記録が,会議録・委員会議録のどの号の何頁に掲載されているかを知ることができる(図1 下段)。これにより,衆議院で修正議決が行われ,参議院では,委員会において附帯決議が行われたことが分かる。
(3) 会議録・委員会議録「国会会議録検索システム」DBの「詳細検索」により,国会の回次(第180回)と検索語(著作権法の一部を改正する法律案)を指定して検索すると,該当する会議録の件数は11件と判明する。これを閲覧すると,衆議院文部科学委員会議録に修正案の案文と修正案の審議記録が,参議院文部科学委員会会議録に附帯決議の案文とその審議記録が収録されている。また,「追録・附録・目次・索引検索」により,第180回国会の衆議院文部科学委員会議録附録にも審査報告書が掲載されていることがわかる。
(4) 法律案参考資料文部科学省Webサイト「国会提出法律」中の「第180回国会提出法律案」(http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/andetail/1318798.htm)には,「著作権法の一部を改正する法律案」の説明資料と同じ概要,要綱,案文・理由,新旧対照表,参照条文が掲載されている。また,国立国会図書館は,衆議院調査局の法律案参考資料として,「著作権法の一部を改正する法律案(内閣提出第64号)に関する資料」(衆議院調査局文部科学調査室,2012.4. 152p)を所蔵している。
7.3 立法補佐機関の調査報告平成24年の著作権法改正法については,以下の記事で取り上げている。
特に最後のレポートは,これまで触れてきた資料を活用して審議の経過や今後の課題を示しているので,典拠となる資料を探す上で有益である。
今回は,国立国会図書館法令議会資料室(現・議会官庁資料室)における実務経験をもとに,立法過程で発生する情報と資料の調べ方を紹介した。在職当時と比較して,ネット上で公開されている立法情報(議会情報・法令情報),行政情報(審議会等)が充実し,紙媒体資料の公開・提供も拡大していることを実感した。ただし,資料の公開,画像やテキストの検索,検索結果の表示等には不十分な点もあり注8),その改善には,利用者の声が不可欠である。立法過程の情報・資料を活用した上で,関係機関へ率直な意見をお寄せいただきたい。