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人生のお供に図書館を 2014年3大図書館本+α
神代 浩
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2015 年 57 巻 12 号 p. 949-952

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2014年は図書館を題材にした良書が次々と刊行され,空前の図書館本ブームが起きた。その中から代表作3冊と,末席を汚した拙著について紹介したい。

著者は公益社団法人シャンティ国際ボランティア会の職員として,カンボジアの難民キャンプで子供たち向けに図書館活動や絵本の出版などに従事してこられた。本書は,その経験を生かして東日本大震災の被災地の子供たちへ本を届けるために移動図書館事業を立ち上げ,展開していく過程を描いたドキュメンタリーである。

何より驚かされるのは,目的実現に向かって遺憾なく発揮される彼女の発想力,決断力,行動力である。大災害に遭った地域に対する移動図書館事業はこれまでにもあったが,車両登録や運転手の確保などさまざまな条件をクリアする必要があるために,事業開始に時間がかかる場合が多かった。

しかし,難民支援事業で鍛えられた彼女はこれらのハードルを軽々と飛び越えていく。まるで日本の図書館界の閉塞状況を打ち破るかのように。

なぜ彼女はこんなに強いのだろうか? そんな思いを抱きながら読み進めていくと,四章に「本のチカラを信じて」という言葉が出てくる。この信念こそが彼女の力の源泉なのだろう。

移動図書館事業が軌道に乗ってくると,本のチカラが多くの人々に変化を与えていくことが明らかになってくる。被災地で本を必要としているのは子供だけではない。大人も生活再建などに関する実用的な情報や,精神的な不安を和らげる娯楽や遊びが必要なのである。

私たちはこのプロジェクトを被災地支援の一エピソードと矮小(わいしょう)化してはならない。これは,平時の社会における図書館の在り方に対する強烈な問題提起でもあることを,真摯に受け止めねばならない。

『走れ!移動図書館 本でよりそう復興支援』 鎌倉幸子 ちくまプリマー新書,2014年,840円(税別) http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480689108/

著者は産経新聞の記者などを経て,現在はハフィントンポスト日本版のレポーターとして活躍しておられる。

この本には実にさまざまなタイプの図書館が登場する。図書館のことを「無料貸本屋」と批判的に見る風潮がまだまだ強いわが国において,これだけ多様な図書館の存在を知ることができただけでも,本書が刊行された意義は大きい。

次にこの本のすごいところは,著者がこれらの個性的な図書館について,いいあんばいの関心と距離感をもって紹介していることである。このアプローチは,過疎対策の成功事例として高く評価される島根県海士(あま)町の「島まるごと図書館構想」に対しても,賛否両論がいまだに激しく行き交う佐賀県武雄市図書館に対しても,まったく変わらない。

なぜ彼女はこんなに冷静でいられるのだろうか? 読み進めるうちにだんだん伝わってくるのは,本書の底流にある,著者の図書館に対する純真無垢(むく)の愛情と揺るぎない信頼である。

それを象徴するのが,タイトルにも使われている「つながる」という表現である(ちなみに鎌倉さんも「本は「つなぐもの」」と書いておられる。面白い)。

図書館は,本という有形物を人という生物に貸し出すという無味乾燥なサービスを提供する施設ではない。本と人がつながり,人と人がつながり,まちと人がつながる場である。図書館という公共施設をこのように再定義すれば,各地の図書館がどのような役割を果たすべきか,自ずから答えは見えてくる。その答えを正しく認識し,答えのとおりに実践してきた図書館が本書で取り上げられていると言っても過言ではない。

この本は,図書館の利用者にとっては「こんな使い方もあるんだ」との気付きがたくさん得られ,「自分の街の図書館をこうしたい」といった夢を膨らませることができる。また,図書館職員など関係者にとっては,「わが図書館はどうあるべきか」を考えるうえでさまざまな選択肢を提供してくれる資料としても不可欠である。

『つながる図書館 コミュニティの核をめざす試み』 猪谷千香 ちくま新書,2014年,780円(税別) http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480067562/

前述の2冊で図書館の可能性に対する認識が広がるのを待っていたかのように,12月に刊行されたのがこの本である。

本書は岡本・森両氏の共著という形をとっているが,この中で主張されている内容はすべて岡本さんのアイデアであると考えてよい。これは今まで彼と何度も図書館ネタで語りあってきた私が抱いた実感である。以下その前提で進めることにする。

岡本さんはYahoo!JAPANで「Yahoo!知恵袋」の企画・設計などを担当された後,アカデミック・リソース・ガイド(ARG)という会社を立ち上げ,学術的なインターネットの知見を研修やコンサルティングを通じて広めておられる。

と彼の会社の業務紹介をしてもピンとこないだろう。私の表現で彼を紹介すれば,「日本全国の図書館を知り尽くし,そこから得られた知見をこれからの図書館運営や新たな図書館建設に反映すべく奔走しているスーパーマン」ということなる。

第1章のタイトル「図面から生まれる図書館は正しいのか」を見ただけで予想されるとおり,彼の日本の図書館に対する見方はかなり厳しい。そして,日本の図書館に彼が求めることは挑戦的であり,時には挑発的とすら読める部分もある。しかし,これらの指摘の大半に私はうなずき,時折首を傾げて考える,といったことを繰り返しながら読み進んだ。まさに刺激満載の本である。

彼が思い描く「未来の図書館」を実現するには,今の図書館がその機能を「拡張」させる必要がある,との主張には大いに共感する。しかも,彼がいう「拡張」が住民向けのサービス充実だけでなく,行政機関として行政内部での存在価値を高めるための努力(都市総合計画を読んで得た情報をもとに行政支援,議会支援へ)についてもしっかり書き込んでいるあたりは,行政の立場にいる私にとっても学ぶべき点が多い。

また,巻末の「図書館をつくるための本棚」に紹介されている本の数々も有益なものばかりである。

『未来の図書館、はじめませんか?』 岡本真;森旭彦著 青弓社,2014年,2,000円(税別) http://www.seikyusha.co.jp/wp/books/isbn978-4-7872-0053-2

以上の3冊と同列に論じるのは甚だおこがましいが,昨年の10月に刊行した拙著についても紹介することをお許し願いたい。

私は2009年7月から翌年7月まで文部科学省の社会教育課長として,主に公共図書館に関する業務を担当していた。当時の図書館をめぐる状況は決して楽観的なものでなく,図書館界も元気がないように見えた。その一方でリーマンショック以降の経済低迷からまだ脱していなかった当時のわが国では,派遣切りなどに遭った失業者・困窮者への対策が課題となっていた。彼らに対して図書館にできることはないか? との私の呼び掛けに,鳥取県立など7つの公共図書館が応えてくれた。こうして始まった有志のネットワークが図書館海援隊である。

拙著は図書館海援隊発足の経緯から現在に至るまでの活動ぶりを紹介する前半と,2013年11月に福岡県立図書館で行われた「図書館海援隊フォーラム2013」における議論の記録をまとめた後半から成る。

この本の主人公は全国の元気な図書館員たちである。地域住民の課題解決のために図書館として貢献できることを日々考え,実践し続ける「スーパー司書」たちの存在を多くの人々に知ってもらうことで,人生で何か困ったことに直面したら,次にとる行動の選択肢の1つに図書館を加えてほしい,そのような思いを込めた。

『困ったときには図書館へ 図書館海援隊の挑戦』 神代浩 悠光堂,2014年,1,800円(税別) http://youkoodoo.co.jp/item/困った時には図書館へ~図書館海援隊の挑戦~/

なお,あくまで著者の片想いだが,拙著と先の3冊とは密接な関係がある。東日本大震災の被災住民に対して図書館に何ができるか,図書館海援隊の仲間たちも考え,実行したし,『つながる図書館』のプロローグには図書館海援隊サッカー部も紹介されている。

そして,岡本さんは図書館海援隊のよき理解者であるとともに厳しい観察者でもあり続け,しばしば意見やアドバイスをいただいてきた。このような縁もあって,岡本さんとはこの1月にそれぞれの本について紹介し合うトークイベントを開催した注1)

これからの図書館関係者と利用者である住民に求められることは『走れ!移動図書館』で投げ掛けられた問題提起を真正面から受け止め,『つながる図書館』で紹介された個性豊かな図書館について学び,自分が住む地域にふさわしい図書館の在り方を考え,『未来の図書館、はじめませんか?』を手引きとして,わが街の図書館を少しでも良くしていくために行動を起こすことである。

これでうまくいけばよいが,いかなかったらどうするか? ぜひ『困ったときには図書館へ』を手にしていただきたい。全国の元気な図書館員たちが必ずやあなたを激励してくれるはずである。

執筆者略歴

神代 浩(かみよ ひろし)

1962年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1986年文部省(当時)入省。北海道教育庁企画管理部企画室参事,在米国日本国大使館参事官,文部科学省生涯学習政策局調査企画課長などを経て2009年7月~2010年7月まで同局社会教育課長。2014年2月より文化庁文化財部伝統文化課長。

本文の注
注1)  概要はhttps://twitter.com/hashtag/神代岡本?src=hashを参照。

 
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