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座談会
3i研究会「情報を力に変えるワークショップ」(前編) メンバーが語るその活動と魅力
伏見 祥子本田 瑞穂大久保 武利山中 とも子真銅 解子中村 栄
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2014 年 57 巻 3 号 p. 157-169

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本記事は,2014年3月6日(木),科学技術振興機構東京本部で行った座談会を収録し,弊誌編集事務局で編集したものである。

中村:本日は皆様お忙しいところをお集まりいただき,ありがとうございます。私は本日の司会を務めさせていただきます,3i研究会研究アドバイザーの中村栄と申します。皆様どうぞよろしくお願いいたします。

それでは,はじめに,今回の3i研究会座談会開催の背景についてご説明いたします。3i研究会というのは,情報科学技術協会(INFOSTA)が主催,科学技術振興機構(JST)が共催して,株式会社ジー・サーチの協力で発足した情報解析の研究会です。昨年(2013年)の8月から初年度の活動が始まっています注1)。研究会のミッションは何といっても情報の活用です。情報を有効に活用していくことを目的として,具体的なテーマを選定し,世の中の技術情報を総動員してシナリオを作り上げていきます。情報活用の結果からシナリオに基づいた具体的な結論を導き出していただくことがゴールとなります。本日お集まりの皆さんがリーダーとなり,4つのグループに分かれて研究を行っています。

本研究会は8月からスタートしていますので,ちょうど約半分まで活動が進んできました。この座談会では,皆さんの研究活動の具体的なテーマ,目指すゴール,今後こういう形で進めていきたい,ということを具体的にご説明いただき,皆さんの中で情報を共有していただきたいと思っています。また,この研究会をもっと多くの方に知っていただき,本研究会の活動を世の中にPRして,参加者を増やしていきたいと思っています。

自己紹介

中村:それでは,本日ご参加のメンバーの皆さんに,簡単に自己紹介をしていただきます。併せてこの3i研究会に参加された動機,情報解析に関するご経験,この研究会のどういうところに興味があるのかを含めて,順番にお願いします。

伏見:Aグループのリーダーをしています,昭和産業株式会社総合研究所知的財産室の伏見と申します。実は,現在は育児休職中で,この4月に復職を予定しています。休職前の業務は特許や文献関連の調査,および特許出願に関することです。入社当初は研究開発部門に所属しており,知財部門に異動して8年になります。

情報解析については,まだなかなかできていませんが,知財部門でやるべき重要な業務の1つだと認識しております。情報を解析することによって,次期テーマのための未来予測をしたり,自社の強みを生かしたテーマや社会のニーズをとらえたテーマの提案ができるようになりたいなと常々思っていました。

参加に至る経緯としましては,先ほど現在育児休職中と言いましたが,実はこれが3回目の育児休職なんです。子どもがいると仕事にかけられる時間が限られているのでなかなか外部活動に参加しにくくて,でも「外部活動に参加したいな」とずっと思っていました。妊娠したことがわかった一昨年の秋から,「休職中に外部活動に参加したい」と職場の人に話していたんです。昨年の春になって,実際にある外部活動への申し込みを相談したところ,「(休職中なので)業務として会社から派遣することはできないが,どうしてもと希望するなら個人参加できる会に個人の資格で参加するのならかまわない」という見解でした。そこで,最初,OUG(Online Users Group)の特許分科会に参加しようかなと思って,INFOSTAの会員になりました。そして,初めて届いた会報に3i研究会の募集があって,内容的にこれは私のやりたかったものだと思いまして,とにかくまず母に子どもを預けてガイダンスに参加しました。そこで中村アドバイザーの話を聞いて,「最後までやりきることが重要」と言いきった点に特にグッときました。ああ,カッコいい,この人についていこうと勝手に思い,この会に参加することを決めました。

ちょうどたまたま,そのガイダンス直前のころに,FacebookのCOO(最高執行責任者)のシェリル・サンドバーグさんが来日されていて,新聞などで著書『LEAN IN(リーン・イン)』注2)が紹介され,「女性は女性だからこそ,やりたいと手を挙げなければいけない」という話にすごく共感して,私の頭にリーン・イン,リーン・インって流れていたんです。中村アドバイザーが,「リーダーはそんなに経験のない方でもいい,リーダーの方が得るものが多いので,誰かやってみたい人がいればぜひ手を挙げてください」とおっしゃってくださったので,「よし」と思って,「リーダーをやります」という言葉とともに申し込みをしました。

伏見氏

本田:Bグループのリーダーをしています,株式会社カネカ知的財産部(調査)(所属は2014年3月16日時点。現所属は(株)カネカテクノリサーチ調査部)の本田と申します。カッコ調査,なんです。

私の経歴ですが,入社当時は,弊社の中央研究所で1年ほど医薬品中間体や医療器材料関係の研究をしていました。その後,医薬品中間体の仕事や弊社の分析の子会社などを経験して,出産を経て,1999年10月から現在の知的財産部,その当時の特許部に移ってきました。知財に来てからは大体10年ぐらいずっと,食品や樹脂加工分野などの出願,権利化業務をやってきました。2010年1月に知的財産部内に新しく(企画)という部署ができまして,そこに転籍になりました。この(企画)という部署ですが,業務分掌は知財戦略の立案と推進です。何をしたらいいか,から考える,それがスタートでした。ここから激動の日々が始まります。

まずはいろいろな情報を集めたり,データを解析したり,他社のお話を伺ったりしながら,上司とずっとディスカッションしてきまして,その中で弊社の知財戦略の立案の基礎になるものは知財教育と調査だということにたどりつきました。

私自身,知財戦略のことはまったく知らなかったので,いろいろなことを勉強しました。(企画)というのは上司と2人だけの部署で,その上司には何を言っても太刀打ちできないので,ある程度話ができるようになったらいいのに,ということで思いついたのが,サーチャー1級の取得でした。中身はわかっていなかったのですが,「取ったらきっと偉いに違いない」と思い,勉強を始めて,上司に一矢報いたいと思う気持ちで「情報検索の応用能力試験」の1級を取った次第です。

最初,知財教育と調査の二本立てで始めたのですけど,知財教育のほうは2012年度初頭に軌道に乗せることができましたので,調査にウエイトを置くようになりました。

私はもともと知的財産部員なので,知財が研究や事業を支えていると思っているのですけれども,その知財の土台になるのはやはり調査だということを,中村さんや旭化成様にもお話を伺ったりして思うようになったんです。やはり調査がしっかりしないといい知財が生まれなくて,そこからいい研究とか事業ができてこないので,調査を強くしていかないといけないと,勉強していた時期に強く思うようになりました。一方で弊社内の調査の体制はというと,研究者任せという状態でした。そこで,いろいろ関係部署と議論して,2013年の4月に知的財産部の中に,(企画)から(調査)という,弊社での調査ポリシーを決めて調査を統括していく部署をつくりました。実働は子会社でして,この二社が協働する形をとることになって,現在に至っています。

この(調査)のミッションが,統括とか,調査を通じてその知財力を強くするということなので,調査の仕組み,システム,人材育成にかかわることすべてをやっています。調査をする人の教育についていえば,調査をする人としては,サーチャーもいるし,研究者もいるし,知財部員もいて,三者三様で全然違う調査力が求められると思うんです。どうやれば,会社全体として調査力が上がっていって,会社が儲(もう)かるのかということを考えてやっていくのが,今の私の仕事です。

ですから,そういう事業と研究において,研究者自身が便利にできるような調査の仕組みを提案することのアイデアをいただき,皆さんのお知恵を借りながら,自分も勉強して育っていきたいというのが,この研究会に参加したきっかけです。

本田氏

大久保:Cグループのリーダーの大久保と申します。私はキヤノン株式会社の本社研究部門で材料に関連する研究開発を行っています。

私は研究員ですので業務として情報を専門に扱ってはいないのですが,研究を進める中で情報収集や情報活用スキルの必要性を感じています。日々の研究業務においては特許や論文から技術情報を収集したり,他社の動向を分析したりすることが必要です。さらに技術情報だけでなく,市場情報や規制情報などのビジネス情報も幅広く収集して動向を把握したいときもあります。そのような場合,まずそもそもどこにどのような情報があるのかという情報ソースに関する知識と,そこから情報をどのように引き出すかという調査スキルがないと欲しい情報はなかなか見つけられないし,動向を把握することも難しくなります。そこで,本業の研究業務に生かせる情報の調査や動向分析を行うスキルを身につけたいと考え,3i研究会に参加しています。

3i研究会に参加する以前の話ですが,特許マップツールのベンダーさんが主催する特許マップ研究会に参加したことがあります。そこでは特許を中心とした情報の活用方法に取り組みました。実は,そのときも中村さんにアドバイザーとしてご助言をいただきながら活動を進めておりました。おかげで特許情報の活用方法についてはある程度こうすればよいというイメージが固まってきたのですが特許以外の情報に関してはなかなか学ぶ機会がありませんでした。そこで,特許に限らずいろいろな情報を収集し,その情報の活用方法を研究する場として3i研究会が発足するという話を聞いて参加を希望した次第です。

大久保氏

山中:Dグループのリーダーの山中です。私は株式会社ファンケル総合研究所研究推進室管理グループに所属し,主に情報検索業務を行っています。研究員からの依頼を受けて,文献や特許などの検索を行うほか,研究員の情報検索教育,図書やデータベースの整備や管理,さらには研究管理などいろいろなことをやっています。大学卒業後に化学会社に入りまして,バイオ関連の研究をやった後に,研究所の情報検索部門に異動しました。そこで検索技術を学んだ後に,研究所の移転がありましたので,現在の会社に転職し10年くらいたちました。

この研究会に参加した動機は,まず第1に情報の解析に興味があったからです。第2にはこの会が“多様な情報を使って分析する”というところに魅かれたからです。私はずっと研究所所属の情報検索担当者としてやってきましたので,知財部に所属した経験がなく,特許についてはそれほど詳しくありません。ですから扱う情報が特許だけと限定されると,ちょっと居心地が悪いのですが,特許も文献もその他の情報もという,この会の趣旨が私に向いているかなと思って参加した次第です。

検索業務に就いてからは検索スキルアップのために社外の研究会に出るようにしていましたが,特に今の会社に入ってからは,情報担当者は私1人しかいませんので積極的に外に出るようにしています。最初のころは検索中心の研究会に参加していましたが,氏ここ数年,解析の研究会に出ています。この会に参加する前に2年間ほど,中村さんと一緒の研究会にいまして,そこで勉強しながら社内で簡単な解析を何度か試みました。でもほかの業務で忙しくてなかなか進まなかったり,作成してもあまり興味をもってもらえなかったりという感じで,とりあえずやってはみたけれどうまくいっていない状況です。私は研究所にいますので,情報解析を使って研究テーマの策定の際に活用できるようになりたいと考えています。この会でいろいろ学んで,自分の会社で応用できるようにしたいと思っています。

山中氏

中村:それでは改めて,本日の司会を務めさせていただいている旭化成株式会社の研究・開発本部,知的財産部の中村と申します。私も先ほどお話のあった本田さんと経歴が似ています。私は入社して最初に研究所に配属になりました。4年強,基礎研究をやっておりまして,その後,当時の特許部,知的財産部の方に異動となり,それから10年ほど,知財のリエゾン業務を担当しました。先ほど本田さんも紹介してくださったとおり,弊社は元来調査をきちんと行うという風土がございます。調査は知財管理の要諦という言葉が,スローガンとして脈々と受け継がれております。研究者は調査を非常に一生懸命やっているのですが,それらをバックアップする組織に弱い部分がありましたので,1998年に,今まで各地区にばらばらに存在した調査フィールドのメンバーを全社的に一極集中し,技術情報専門の組織を構築しました。今年でちょうど丸15年になります。

この技術情報組織のミッションは大きく分けて3つあります。1つはいわゆる重要調査。要するに漏れては困るような企業の生命線となる,高品質な調査結果を提供すること。2つ目がいわゆる研究者の調査面からの育成です。研究者に対する情報調査教育をしっかりやる。3つ目のミッションとして,情報の有効な活用があります。この3つ目のミッションですが,私は,この組織の発足時より,調査をやってもその結果が具体的にどのように活用されるのかが明確になっていない,という気持ちがありました。何か調査をやっているのだけど,それがどう生かされているのかがわからない。そこで,活用の1つの形として,技術情報,情報の解析がどのように研究開発や事業に生かされていくのかを,自分の中ではっきりさせたいという動機で,2000年ぐらいから,情報解析の世界にかかわるようになりました。自分でもかなり解析のことを勉強しましたし,いろいろな研究会を通してまわりの方にご指導をいただき,今に至っています。

今回,3i研究会のお話をいただきまして,アドバイザーをお引き受けしたのは,もっと情報解析にかかわる方の裾野を広げたいという気持ちがあったからです。限られた人たちだけでなく,もっといろいろな人に情報解析,情報の活用を身をもって体験してもらいたいと思っております。こういった情報解析に関してはゼロからやっていくのはハードルが高いと思います。その最初のところを伝授して,ショートカットするお手伝いができればと,研究アドバイザーをお引き受けした次第です。

中村氏

真銅:3i研究会を主催する情報科学技術協会(INFOSTA)の真銅(しんどう)です。INFOSTAの目的は「会員相互の協力により情報の生産・管理・利用に関する理論および技術の調査,研究開発を進めるとともに,これらの普及に努めること」(定款第3条)となっています。今回の研究会活動の立ち上げは,まさにこの目的に沿ったものだといえます。

INFOSTAは,もともとは技術情報を取り扱う人たちによってスタートしましたが,現在は広く情報を扱うインフォプロの集団となっています。その中にはこういった者もいるということで,私のバックグラウンドをちょっと紹介しますと,3年前まで定年後再雇用を含めて42年半,東レ株式会社におりました。所属部門は研究開発,技術センター,システムと変遷してきましたが,一貫して本社図書室業務に従事しておりまして,その間のミッションは公開情報へのアクセス確保,およびレファレンスサービスであったと認識しています。レファレンスサービスとは,「何々が知りたい」「これこれの資料が欲しい」といった情報要求全般に応えることととらえています。主にスタッフ部署からの要求に応えて,ニュース,人物,企業,統計,歴史,故事来歴,文献,特許,中長期計画のための資料や数値データなど,幅広い分野の情報を取り扱っていました。この経験によって,企業活動の中でどんな場合にどのような情報が求められるかという知識をある程度蓄積したのではないかと思っています。

長年,求められる情報を「どうやって手に入れて,どう確保して,どうプレゼンするか」という自己の技術向上を目指していましたが,現在は,INFOSTAの活動を通じて,皆様のインフォプロとしてのスキルアップをお手伝いしていきたいと努めているところです。

中村:今回は強力にINFOSTA様のバックアップをいただき,総勢で36名という参加者の方々にお集まりいただいて活動をスタートすることができました。

真銅氏

3i研究会の目的と活動紹介

中村:それでは,一通りメンバーの自己紹介が終わりましたので,さっそく本題に入ります。最初は3i研究会の具体的活動の紹介,それから各グループの研究テーマの紹介。今ちょうど活動の中間段階ですので,今までやってきた具体的な活動をお話しいただきながら,自由に進めていきたいと思います。まず真銅さん,本研究会の目的と活動内容について,簡単にご紹介ください。

真銅:この3i研究会は,インフォプロの相互研鑽(けんさん)によるスキルアップの場,情報活用方法を研究する場として企画,開催しています。会の名前は,information(情報),infrastructure(基盤),innovation(革新)の頭文字3つのiをとって,「3i(スリーアイ)」と名付けました。

サブタイトルに「情報を力に変えるワークショップ」とついています。そのこころは,インフォプロが多様な情報源や解析ツールなどを駆使して,経営判断など,組織の方向性に資する情報をつくり出して提案する。そういった能力を獲得するために切磋琢磨(せっさたくま)する会であってほしいということです。

中村:なるほど。経営に資する情報を作成するためには,特許や文献を解析することはもちろん大事ですけれども,それに加えて業界動向とか市場など,周辺問題への目配りと総合的判断が必要となりますよね。

真銅:はい,その収集し解析すべき情報源も,現在では技術文献,特許,書籍,新聞や雑誌,ビジネス情報,Web情報というように,形態や流通経路も多種多様になっています。さらに各種分析ツールもいろいろ開発されて,進歩しています。これらを個別に自分の所属組織の中で追いかけようと思っても,なかなか難しいのではないかと考えて,3i研究会では,数社の協力を得て,いくつかの分析ツールとデータベース注3)を利用可能にして提供しています。

活動はグループ分けして行っています。参加者全員が具体的活用シナリオを想定した解析を行い,グループごとに1つのプレゼンにまとめる。最終的にはレポートを出すという予定になっています。研究期間は1年単位です。第1期は2013年8月から2014年5月まで。毎月1回,午後に開催しています。

会の運営方針の詳細は,INFOSTAのWebサイトにある活動紹介<http://www.infosta.or.jp/research/#3i>をご参照ください。参加資格や費用がわかります。

情報解析のポイント

中村:次に,この3i研究会のまさに中心となる情報解析のポイントについて紹介します。

情報解析が数年前からこの業界では,活発に議論されており,いろいろな解析ツールが世の中に出てきて,特許マップという言葉もいろいろなところで普通に使われるようになってきました。どちらかというと今までの検索重視から,その解析に重要性が移行してきたように思います。ただ皆さんもおわかりのとおり,特許マップだけが浮き立っており,特許マップを見て一体何がわかるのか,という疑問も出てきたと思うんですよね。

今回,私も今までずっと活動してきた1つのきっかけになった部分なんですけれども,先ほど真銅さんのお話にもありましたが,解析にはシナリオが必要だと思うんです1)。この3i研究会は,シナリオ重視の情報解析というのが1つのキーワードになっています。要するに検索して情報を集めても,活用しなければ意味がないということで,収集した情報をどのような目的で,どのように解析して,どう役立てるのかというゴールイメージを,まずきちんと打ち出して,そのゴールイメージに至るシナリオをつくったうえで,そこに必要な情報解析を当てはめていくというアクションが必要だと思っています。

それを実践するのがこの3i研究会です。どのような情報を,という中に,今回のこの研究会のもう1つの特徴である特許情報とか特許以外の情報,文献とかビジネス情報,それからWeb上にあふれかえっているたくさんの玉石混交の情報を目利きしてうまくシナリオの中に取り込んで,アウトプットする。それを,たとえば経営者にどういう形で見せていったらいいのか,というところまでを,一気通貫で検討できればこの会の目的は達成,ということになります。そこが一番のポイントだと考えて,皆さんの活動にアドバイスをしたいと思っています。

各グループの研究テーマ

中村:これから順番に各グループのテーマを,ゴールイメージ,シナリオを中心にご紹介いただきます。今までの進捗状況も説明に入れていただければと思います。それではAグループの伏見さんからお願いします。

伏見:Aグループの研究テーマは,「絆創膏(ばんそうこう)事業をベースとした,もはや絆創膏ではない,未来の夢の絆創膏事業への展開を検討する」ということです。具体的にはわれわれAグループのメンバー自身が,国内の絆創膏関連事業を行うある会社(A社)の技術系の企画担当として部長に提案する資料をつくるという設定のもと,現在の絆創膏事業をベースに,将来技術の導出先として,今まで以上に傷をきれいに治す「人工かさぶた」,肌を美しくする「美容」などとの融合を考えるというストーリーで考えています。

ゴールとしては,研究テーマの事業化可能性ポートフォリオを作ることを目標にしています。つまり,どんな疾病に対して,どれくらいのマーケットがあって,現状どの程度の研究開発レベルなのか,事業化レベルなのか,というあたりのポートフォリオを作成することを目指しています(1)。

図1 Aグループのゴールイメージ,シナリオ

テーマもゴールも比較的明確なので,活発な議論がされていて,メーリングリストがすでに400件を超えました。

中村:すごいですね。熱心にやっていらっしゃるものね。

伏見:アプローチとしてはA社の事業分析とか,絆創膏市場の市場分析,特許分析などを行うとともに,想定した会社がJSTのファンディングを受けた研究もしていたので,JSTへのヒアリングをしました。また,ポートフォリオの作成にあたっては,疾病ごとの医学統計の情報が欲しいということで,JSTに仲介してもらって,厚生労働省へのヒアリング等も実施しました。

中村:参加メンバーはどういうフィールドの方がいらっしゃるのですか。

伏見:Aグループは,非常に経験が豊富な方がサブリーダーをしてくださっています。その方がグループを引っ張っていってくれています。ベンダーの方が2名と,知財担当の方,調査担当の方,情報担当の方もいます。

中村:いろいろな立場の方がいて,それぞれの強みが生かされているという感じですかね。

伏見:そうですね。いろいろなバックグラウンドの方がいることで,私が考えもしなかったようなアイデアが出てきて,解析の発想が広がってきて楽しいなと感じています。

中村:テーマのゴールイメージ,シナリオを組み立てるところで,苦労された点はどの辺ですか。やはり最初の立ち上げのところが非常に大変だと思うのですが,苦労されたところを少し紹介してもらえませんか。

伏見:そうですね。ポートフォリオのイメージが先にできたのですけど,その各項目をどうやってとっていくのか,そして必要な情報がどこにあるのか。試行錯誤しています。

中村:いわゆる特許情報だけじゃなくて,ビジネス情報,それから解析ツールを使って,非常に自由度が高いワークができるということが大きな特徴ですよね。

それでは次に本田さん,Bグループの説明をお願いします。

本田:Bグループの研究のタイトルは,「自社の技術の棚卸しによる新規事業提案」ということで,新しいテーマをどうやって提案していけばよいのかということ。Aグループをはじめ,ほかのグループが,具体的なアウトプットを出すのに対して,Bグループはどちらかというと手法,考え方をつくっていこうというイメージです。自社の技術の棚卸しを行うことによって,自社の強み,弱みを分析して,新たな事業の提案を行うにあたっての手法を検討していこうということです。

イメージとしては,ある会社を自分たちの会社だと想定して,その具体的な企業情報を利用しながら,その会社の技術力の分析を棚卸しして,これに市場情報などを加味しながら,新規事業の提案を行うにあたっての手法を考えます。具体的な事例として化粧品会社のB社を取り上げて,自分たちがB社の社員であると仮定して,“自社の強み”,“コア技術は何なのか” をまず分析します(2)。

図2 Bグループのゴールイメージ,シナリオ

それから新規テーマの提案ということなので,そのコア技術に対して組み合わせるなにがしかの技術,素材をどうやって選定してくるかという考え方ですね。それから,どうやってその組み合わせる技術を抽出してくるかという考え方をつくっていこうとしています。その結果,とりあえず技術的には組み合わせることができた場合に,次に組み合わせた技術が,市場などの情報と併せて,本当に事業としてやっていけるのかどうかをみてみる,そこまでの新規事業の提案というスキーム,一連の流れの手法ができればいいかなと思っています。

どの会社を自分たちの会社とするかで,最初,議論がありましたが,とりあえずB社に落ち着きました。B社はいろいろなことを手がけているのと,技術分野がわかりやすいということから,題材にさせていただきました。B社の技術のどこが強みなのかをひねり出すのに,けっこう時間がかかったかなと思っています。

ようやくこのコア技術の見つけ出し方の議論が一段落して,次はどうやって組み合わせる技術を見つけてくるかというところが,先月ぐらいまでのところでしょうか。

最初にも申し上げたように,考え方とか手法をつくるところに重きを置いているので,がっちり分析はしていないといいますか,考え方をつくるための実証の分析をしているという感じですね。たとえば,コア技術の抽出に,「特許の価値」を使おうという場面においても,どのツールが最適かを選ぶのではなくて,そのコア技術を見つけ出すためには,特許の価値というものを使えばできるのではないかというストーリーをつくるところに重きを置いているような感じです。グループの構成はそんなに専門のサーチャーさんというメンバーではないので。

中村:メンバーには知財の方が多いのですか。

本田:そうですね。Bグループは,企業や個人で知財をやっている方が6名と,調査会社の方が1名。この方も特許系です。あと1人は企業の図書の方なので,文献系の方が1人。7名が特許系ということで,割と特許の方がわかりやすいのでそちらにシフトしてしまう。コア技術の抽出は,技術情報系の方は技術情報の方から,「こういう見方があるね」とか,「文献からこういうふうにコア技術を推定できるね」という提案をいただいたりしています。

中村:ほかのグループとは毛色が変わったテーマを扱われて,一方では今どこの会社も非常に悩まれている自社のコア技術を棚卸しして,次の世代にどう花開かせていくのかという,実務的なテーマを選んで,実際にその手法を確立することで非常に興味がもてますね。何かチェックリストみたいなもののアウトプットを考えられているのでしょうか。

本田:このコア技術を見つけるにはこんな手段があるみたいな形になるのかなと思っています。そもそも弊社の中で,こういう技術の棚卸しをしたいという思いがずっとありましたので,この研究会に持ち込んで,「皆さん,やりませんか」という感じで進めています。

中村:そういうチェックリストができれば,会社に持ち帰られても非常に役に立つと思いますので,自分のところの利益だけではなくて,ぜひ広い心で普遍的なものをつくっていただけるといいと思います。

それでは次にCグループの説明をお願いします。

大久保:私が所属しているCグループでは,将来新たな事業を展開する際に,連携すべき専門家,研究者をいかに見つけるかというテーマで活動を進めています。

これまでは産学連携において企業が必要とする技術や知見をもっている研究者を探す手法としては,過去に何らかの関係がある先生に紹介してもらうというような個人的な人脈に頼っている場合が多かったと思います。それは1つの重要な方法だとは思いますが,企業によってはそのようなきっかけがないとか,連携相手の見つけ方がわからないという場合もあると思います。そこですでに世の中にある多くの情報を活用して連携すべき研究者を見つけ出す技術も必要であろう,そういったニーズもあるだろうという観点から,このようなテーマを設定しました。

ゴールイメージは,「将来の事業展開に必要となる研究者を見つけるための情報解析の手法を提案する」としています。ただし,一般的には「このような方法があります」という抽象論だけだと,実務に適用するのは難しいと思いますので,具体的な事業領域,具体的な企業,さらに具体的な展開先を設定して,実際に提案した手法を検証するという方針で活動を進めています(3)。

図3 Cグループのゴールイメージ,シナリオ

中村:Cグループのメンバーには大学の方とか,JSTの方がいらっしゃるんですよね。皆さんそれぞれの立場からテーマに対する期待が大きいということで,一生懸命取り組んでいるのでしょうね。

大久保:Cグループはメンバーの中に,大学やJSTなど公的機関の方,企業やベンダーの方など幅広いバックグラウンドをもつメンバーが集まっています。産学連携に関連するテーマはメンバー全員の関心があるところなので,研究会では活発に意見交換が行われています。ただし,各メンバーの専門分野が異なっており,それぞれのもっている知識やスキルに偏りがあるという課題がありました。そのため,それぞれの専門性を生かしてグループ内で教え合うという試みを行っています。

中村:いいことですよね。この研究会はある意味,人材育成という側面ももっているわけですから,私は特許ができないからということではなくて,やはりそれぞれ強みをもった人が同じグループで,共通のテーマに取り組むことによって,互いの情報を共有して,勉強するという意味で非常に有益なのでしょうね。

大久保:そうですね。メンバーの中にはこれまで文献情報の調査には詳しいけれども特許情報に触れたことがない方もいますし,逆に日ごろは特許情報ばかり扱っているけれども特許以外の情報についてはよくわからないという方もいます。Cグループでは,メンバー全員が調査ツールを使えるようになるという方針も立てています。そこで,たとえば,知財の方が特許明細書の読み方や特許調査や特許マップツールの使い方を教えたり,JSTの方がJDreamの活用方法を講義したりする時間を研究活動の時間内に設けています。日常的にそれらの情報を活用しているプロがノウハウに近いことまで教えてくれるので,とても勉強になったと多くのメンバーが喜んでいます。

中村:Cグループでは特許がまったくわからない人っていうのは落ちこぼれていないですか。

大久保:今のところ落ちこぼれている方はいないと思います。3回目くらいの研究会で知財の方から特許調査ツールと特許マップツールの講義を行っていただきました。そこで,それぞれ独自に特許マップを作成して自分なりの解釈をまとめておくという宿題を設定したのですが,特許明細書に初めて触れた方も特許マップを作成して,その特許マップから何がいえるかをまとめることができていました。この研究会に参加すると特許調査ツールや特許マップツールを自由に使えるので皆さん頑張って各ツールの操作方法を習得したようです。

山中:Dグループのテーマは,「企業における異分野融合の成功事例のプロセス解析とその応用」です(4)。企業の異分野に進出した成功事例について,なぜ成功したのかを情報解析によって解き明かすことで,成功プロセスを学ぶことを目的とします。ここでの成功の定義は,製品化にこぎつけ,その製品に関する開発を継続し,その製品群がまだ市場にあるということとしています。

図4 Dグループのゴールイメージ,シナリオ

ゴールイメージとしては,成功プロセスを定量的な基準表やフロー図のようなものにしたいと考えていますが,まだ明確ではありませんので,これからの課題となっています。Dグループはテーマを決める際,メンバーの興味は異分野融合と産学連携でしたので,それをキーワードに探し出したのが,繊維業界から医療分野に進出したD社の事例です。生体吸収性ポリマーによって医療分野に進出している技術をテーマとして取り上げ,新規事業開拓から事業拡大までの進むべき道を選択するために検討したと推測されるプロセスを仮説として設定し,それに沿って情報収集,解析をしています。可能であれば,中村さんにもアドバイスをいただいたように,ほかの人が使えるような,たとえば異分野融合に参入障壁にはこういうものがあって,今回,医療分野に行くにはこの障壁や課題をこうして乗り越えたというのをつくりたいと思っています。

中村:それぞれのグループのテーマのご紹介を一通り行っていただきました。8月からですから,現在約半年やってこられて,いろいろ気づきや苦労したことがあると思います。そのあたりをフリーディスカッションでご紹介いただけるとよろしいかと思います。

伏見さん,入る前に思っていたイメージと,実際に活動に入られてすごく期待外れだったとか,気づいたこととかいろいろあると思うのですが,リーダーの目から見て,いかがですか。

伏見:情報をどうやって利用していくかということで,Aグループはゴールを先に決めてしまって,それに対してどういうアプローチをしていくかということで,試行錯誤しながら進めてきたのですけど,いろいろなバックグラウンドの方がいらっしゃるので,自分だけでは考えつかなかったような発想にいろいろ出会えて,今後,検索とか調査を考えていくうえでの発想の引き出しが広がった感じがします。

山中:この研究会の魅力というのは,まさにそこだと思います。扱う情報も多様ですが,参加メンバーもさまざまな方がいらっしゃいます。私はこれまでいろいろな研究会に参加してきましたが,この研究会が一番バラエティーに富んでいる気がします。情報の集め方や分析の視点も皆さん異なりますので,とても勉強になっています。またこの会のもう1つの魅力は,いろいろなデータベースやソフトが使えることにもあると思います。ここで初めて使ったツールもあり,今後の検索や解析の参考になります。

中村:本当にメンバーが多様ですよね。バックグラウンド,年齢,まちまちで,やはり立場が違えば見方も違うということで,大久保さんのところは大学の方とかいらっしゃると思うのですが。

大久保:そうですね。以前参加していた特許マップ研究会では基本的に知財の方が中心だったので,話題の中心は特許でした。今回は日常特許以外の情報を扱っているメンバーが多いのでやはり発想というか,ものの見方,情報の扱い方がそれぞれ違っていて,それがとても勉強になっています。

本田:うちのチームは割と特許系が多いのですが,それでも皆さんいろいろな見方をされるので,やはりいろいろな人が集まって知恵を出すというのはすごくいいことだなと思いました。たくさんのツールを使えるのはすごく魅力なのですけど,逆に覚え切れないのが悩みといえば悩みですね。どれも魅力的なツールなので,せっかくなので全部使い方もマスターできたらすごくうれしいですけれども。

中村:今回,この研究会にはベンダーさんのご厚意で,さまざまなデータベースを提供していただいたのですけれども,覚え切れないというのもあります。また,たとえば,思ったよりも使い方が難しいとか,機能が満載なのだけれども使える部分は一部しかなかったりとか。ベンダーさんにそういうフィードバックをさせていただくということもアウトプットの1つにぜひしたいと思っています。それがベンダーさんのご厚意に対するお礼なのかなと思っています。

真銅:今後この活動を続けていくにあたって,ほかのいろいろなツールのベンダーさんからも,この研究会で使ってみて意見を聞かせて欲しいという声が寄せられるようになれば,活動メンバーとベンダーさん双方に大変有意義な会になると思います。

中村:やはりこういう解析ツールというのは使ってなんぼだと思います。どんなに機能を満載していても,それが実際にアウトプットに生きていかないと意味がありません。そのためにはツールにどういう機能,使い勝手が必要かということを,逆にこの研究会からフィードバックすることによって,ツールも変わっていくという形でベンダーさんと向き合えればいいなと思っています。それもぜひ会の目的にしていきたいと思っています。

座談会ご出席の皆様

本文の注
注1)  3i研究会「情報を力に変えるワークショップ」(第2期)の参加者募集事前ガイダンスは2014年7月17日に開催予定。ガイダンスの申し込み開始は6月1日から。詳しくは,http://www.infosta.or.jp/research/#3iを参照。

注2)  シェリル・サンドバーグ著; 村井章子 訳. LEAN IN:女性、仕事、リーダーへの意欲. 日本経済新聞出版社, 2013, 304p.

注3)  3i研究会に提供されているデータベースサービスと分析ツールは以下のとおり。

データベースサービス

・CKS Web(中央光学出版株式会社)

・illumin8(エルゼビア・ジャパン株式会社)

・JDreamIII,G-Search,日経テレコン,ProQuest Dialog(株式会社ジー・サーチ)

分析ツール

・TRUE TELLER(NRIサイバーパテント株式会社)

・パテントマップ EXZ(インパテック株式会社)

参考文献
 
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