情報管理
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集会報告
第23回情報活動研究会 「J-GLOBAL! こんな使い方・あんな使い方 知って得々!」
勝山 麗
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2014 年 57 巻 5 号 p. 352-355

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  • 日程   2014年6月20日(金)18:30~20:00
  • 場所   大阪科学技術センター
  • 主催   情報活動研究会(INFOMATES)
  • 後援   一般社団法人情報科学技術協会(INFOSTA) 独立行政法人科学技術振興機構(JST)情報企画部
  • 協力   株式会社サンメディア

  • 話題提供者:火口 正芳 氏 独立行政法人科学技術振興機構(JST) 情報企画部
  • 参加者数:30名(運営委員9名含む)

J-GLOBAL注1)は,独立行政法人科学技術振興機構(JST)が無料で提供する壮大な情報コンテンツポータルである。「イノベーションの創出」を目的として,日本の科学技術分野のヒト‐機関‐文献‐特許‐最新ニュースなどを縦横に結び付け,関連情報を芋づる式に入手できるという。そのコンセプトは素晴らしいが,さて本当にどこまで使えるものなのか,果たして信頼と期待に応えるツールなのか――なんとも大きすぎて全貌がつかめない。一度きちんと説明を受けたいということで,JSTの担当者にお越しいただいた。

JST西日本支所が閉鎖され,関西ではJSTの方と情報交換をする機会が少なくなったこともあって,産学協同を目指す企業の知財関連部署やさまざまな相談を受ける公共図書館から多くの出席を得た。会場からは,国の情報開発方針から採用しているアルゴリズムのことまで多数の質問が出たが,講師の火口氏はそれら幅広い質問に大変的確に答えておられた。就業時間後の集まりであったため,時間が足りなかったことが残念である。

J-GLOBALの紹介は当稿の目的ではないので詳細については「ご利用ガイド」注2)等に譲るとして,講師からの耳寄り情報や質疑応答でのプラスアルファ情報を中心に報告させていただく。

なお,使用したデータは2014年6月現在のものである。

J-GLOBALの特徴

普通の検索エンジンとの違いは,「検索」ではなく「探索」を行うということである。J-GLOBALは,きちんと理解できていないことがら(技術,人,分野など)について当たりを付ける,課題解決の糸口を見つける,といったシーンで役立つことを目指してデザインされている。研究者,文献,特許,研究課題など10種類の基本情報が登載されている。たとえば,トップページの検索窓に思いついたキーワードを入力するだけで,人名,科学技術用語などを識別し,それぞれのデータベースに合った検索がなされ,データベースごとに整理された形で結果を返してくれる。

研究者データベース

日本の研究者総覧researchmap注3)をリソースとし,約23万人の研究者と3,300余の研究機関の情報が登録されている。本人が承諾していれば,J-GLOBAL経由でWeb上から直接コンタクトをとることも可能である。使用実績によると,コンタクトの内容は,共同研究・成果利用の相談,質問,査読・講演・執筆などの依頼,マスコミからの取材申し込みなどであったということだ。ただし,現時点では基本的に本人の登録と機関からの情報提供による大学の研究者中心のデータベースであって,総数35~40万人とされる民間の研究者も含めた日本の科学技術系研究者全員の最新情報を網羅しているとはいえないのが残念である。しかし,文部科学省を中心として情報基盤整備への展開が進みつつあるという。近い将来,研究者自身の意識も開化し,日本の科学技術を包括するうえで唯一無二の貴重なデータベースになることを期待する。

文献

1975年以降のJST収集誌およびエルゼビア,トムソンロイター等他社データベース中の日本人著者による論文の検索が可能である。ただしJDreamⅢと違って,書誌情報のみが対象で抄録や索引は含まないので,網羅的検索とはいかない。一部J-STAGE上のフリーアクセス論文は全文取得可能である。

著者名は名寄せされているので精度が高い。また,キーワードとなる科学技術用語や化合物名は,JSTの長年の成果を駆使したシソーラスや同義語辞書を用いてディスクリプタ,準ディスクリプタ等,同義語や関連語を表示してくれる。それらを選択(32個まで)するだけで検索概念を広げることができる。検索結果はスコア順という一見不思議な並び方をしている。検索語を人名,機関名等の品詞で判定し,その語が文献情報のどこ(たとえば標題など)にヒットしたかを点数化してスコアマップを作り,その高得点順,すなわち検索意図に近いであろうものから表示されるのだそうだ。ソート順は年代等に変更も可能。引用・被引用データは現在はJ-STAGE由来のもののみであるが,重要なデータととらえており,本格的登載に向けて拡大を検討中とのこと。

特許

1993年以降の日本国内出願特許の書誌データ995万件が対象で,PAT-ReSergeとのリンクによりヒットした特許の全文の閲覧が可能になった。ただし,特許文献本体を直接検索することはできない。また,現時点では特許電子図書館(Industrial Property Digital Library: IPDL)注4)へのリンクをクリックしても検索画面へ移動するだけなので,改めて番号等で検索しなければならない。

検索結果は出願人・発明者等でもリストが提示され,書誌画面には被引用特許の有無も表示されるので,絞り込みや遡及作業も容易である。

化学物質

日本化学物質辞書Web(日化辞Web)注5)を用いて,316万件の化合物の名称が検索できる。同時に特許の数をグラフ化したデータや,関連文献も同じ画面に表示される。また,化学構造式を画像としてコピーできるのはありがたい。

科学技術用語

JSTシソーラス注6)を利用して何かしらの有用なデータを提供したいという思い入れを感じるデータベースである。入力されたキーワードの関連文献,関連特許,課題数の推移グラフがすぐに表示されるので,その技術のトレンドがみてとれる。また,用語同士の相関性をマトリックスにしたシソーラスマップを提供する。特定のキーワードを中心に,関連語と共出現語をマップで見ることによりつながりや広がりを可視化し,考えるヒントにして新たな知見を見つけようという機能である。現在シソーラス語(ディスクリプタ)は約37,000語だが,準ディスクリプタは110万語にのぼり,毎週アップデートされているそうだ。

MyJ-GLOBAL

MyJ-GLOBALにアカウント登録すれば,文献検索でいうSDI(Selective Dissemination of Information,情報の選択的配信)に相当するアラート機能や入手した情報をいつでも呼び出せるクリップ機能を使うことができる。さらに一定の審査が必要だが他のサイト上にJ-GLOBALを設置できるWebAPIの登録も可能である。すでに約180件の申請を受けており,基本的に公益目的に合致するものについて認可している。ほかにも,企業からの資料複写申し込みなどに使うことが可能で,簡単にWebサイト上に設置できる検索窓配布も行っており,こちらは申請不要でコピー&ペーストで簡単に取得できるそうだ。個人向けにも,各種ブラウザーにツールバーをインストールすることにより,さまざまな便利機能を利用できるようなサービスも用意されている。

以上のように,J-GLOBALは最近流行のメガデータ指向とは一線を画し,繊細なインターフェースを通して作りこんだデータ類の提供を目指しているように見受けられる。この研究会を機に最近話題の研究者を検索してみたところ,前日の記者会見のニュースまでもが表示されていた。Googleからの配信なのだそうだ。このように思いがけないような速報性も加味されているだけに,研究者情報としては前任機関で止まっているケースがあることが何とももったいない。J-GLOBALのさらなる充実を期待したい。

最後に,よき講師と会場を提供いただいたJST情報企画部に深謝申し上げる。

(INFOMATES運営委員 勝山 麗)

本文の注
注1)  http://jglobal.jst.go.jp/

注2)  http://jglobal.jst.go.jp/help/guide/goriyouguide.pdf

注3)  http://researchmap.jp/

注4)  http://www.ipdl.inpit.go.jp/

注5)  http://nikkajiweb.jst.go.jp/

注6)  http://thesaurus-map.jst.go.jp/

 
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