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情報界のトピックス
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2014 年 57 巻 9 号 p. 698-702

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Adobe社が電子書籍の読者情報をスパイ?

Adobe社が,セキュリティーとプライバシーの侵害を行っているとの疑惑が,10月初めに発覚した。DRM(Digital Rights Management,デジタル著作権管理)で保護されたEpub形式ファイル用アプリケーションの最新版である,無料のAdobe Digital Editions (以下,ADE)4.0を使って,電子書籍の読者に関する大量のデータを,Adobe社が暗号化することなく,自社のサーバーにアップロードしていると指摘されたのである。集められたデータには,ユーザーID,デバイスID,IPアドレス,書籍が実際に読まれていた時間や読まれたページの割合(従量制の課金モデル用),書籍購入/ダウンロードの日付,販売店ID,接続したハードディスク内の電子書籍のメタデータ(タイトル,著者,出版社定価,ISBN)など多岐にわたる。

疑惑が発表された翌日,Adobe社はADE4サービス利用者の読書活動を追跡し,そのデータを暗号化せずにサーバーに送信していたことを認めた。しかし,ユーザーから集められるすべての情報は,ライセンス確認などを目的とし,出版社ごとに異なるライセンスモデルを実践するためのものであり,このことはプライバシーポリシーと利用規約に含まれていると主張した。

多くの主要な電子書籍のプラットフォームは,Adobe DRM(デジタル著作権管理)を利用しており,Baker & Taylor社やOverDrive社は,直ちにAdobeとのコンタクトを開始した。他方,図書館自身が電子書籍を所有・管理するモデルを開発し,電子書籍を自館のAdobeコンテンツサーバーでホストしている,コロラド州ダグラス郡図書館副館長のMonique Sendzes氏は,「ユーザーのためにデータをデバイス間で同期させ,さらに機能を同期させるために,書籍のページポジション情報やデバイスのIDを集める必要がある」と述べた。たとえば,ある電子書籍を今日はタブレットで読み,翌日はスマートフォンで読み続ける場合,この2つのデバイス間でコンテンツを同期させるために,リモートサーバーがその書籍とユーザーIDに関する最新の記録をもっていなければならない。ADEなどの電子書籍アプリケーションはこのような情報を収集するが,「問題はこれらの情報が暗号化されずに送信されていることである」とSendzes氏は語った。米国図書館協会(American Library Association: ALA)は,Adobe社による読者データの侵害を確認し,データを暗号化して読者の情報を守るための是正措置を,直ちに取るよう求めた。

Adobe社はADE4の改定を10月23日に発表し,データ送信の際の暗号化を開始したことを明らかにした。データはHTTPSを使用してAdobeのサーバーにアップロードされる。ALAはこの改定を歓迎する声明を発表したが,同時に,多くの電子書籍プラットフォーム・オペレーター,出版社,小売業者が,データを保有し続けることから生じる問題やリスクを警告した。そして,ユーザーの機能性に必要なデータのみが収集され,適切に保護され,営利目的の売却や,副次的に使用されず,できるだけ速やかに削除されるよう,皆が努力しなければならないことを強調した。

  • (http://the-digital-reader.com/2014/10/06/adobe-spying-users-collecting-data-ebook-libraries/#.VDP-8ildW2_) (http://helpx.adobe.com/security/products/Digital-Editions/apsb14-25.html) (accessed 2014-11-07).

ジョージア州立大学図書館の電子リザーブ訴訟,上訴審結果

10月17日,ジョージア州立大学(Georgia State University: GSU)の電子リザーブ(E-Reserves,指定図書)をめぐる訴訟で,3名の判事からなる上訴裁判所(U.S. Court of Appeals for the 11th Circuit, Atlanta)は,連邦地方裁判所のEvans判事が下した,GSU電子リザーブに肯定的な判決を覆し,上訴裁判所の見解に沿って再審議するよう差し戻した。連邦地方裁判所が出した差止命令と,GSUに与えられた費用と弁護士費用は取り消された。この訴訟は2008年に,ケンブリッジ大学出版,オックスフォード大学出版,SAGE出版社が起こしたもので,GSUがこれら3つの学術出版社の資料を,公正使用を超えて電子リザーブとしているのは,著作権の侵害であると主張していた。連邦地方裁判所は2002年に,申し立てられていた99件のうち5件のみを著作権侵害とし,残りは公正使用,または問題なしとの判断を示し,出版社側が上訴していた。

差し戻しはしたが,上訴裁判所がGSUに不利な裁定を下したというわけでもない。上訴裁判所は,出版社側の望みに反し,公正使用の決定は,硬直したチェックリストや何%といった公式ではなく,公正使用の4つの要素の個別的な分析に基づいて柔軟に行うよう,連邦地方裁判所が命じたのである。各要素についての,上訴裁判所の判断を以下に示す。

  • 要素1:使用の目的と性質

連邦地方裁判所の裁定を支持する。電子リザーブに掲載される抜粋は,デジタル形式に変換された逐語コピーであり,変形的利用ではないとはいえ,電子リザーブシステムは非営利の教育目的であることから,公正使用の適用に当たる。

  • 要素2:著作権を有する作品の性質

いかなる場合においても公正使用が適用される,とした連邦地方裁判所の判断を退ける。事実や情報を提供する作品の利用には,公正使用が適用される可能性がより高いが,高度に創造的な作品には,より大きな保護が与えられるべきである。

  • 要素3:使用された部分の分量と実質

GSUは作品全体の10%または1章を超えない量をコピーし,連邦地方裁判所はこれを公正使用と認めたが,このような公正使用適用の公式化は認められない。

  • 要素4:潜在市場への影響

出版社が大学にライセンスを提供しない場合,通常は公正使用に一方的に有利になる。重要な問題は,被告の行為が出版社に潜在的収入の損失をもたらすかどうかではなく,作品を出版しようという被告の意欲を著しく低めることにより,著作権の目的に背かせるような,相当な経済的損害をもたらすかどうかである。

米国図書館協会(American Library Association: ALA)のCourtney Young会長は,「上訴裁判所の判断は,ALAと他の図書館協会が常に支持してきたこと,すなわち思慮深い公正使用の分析と,多数の出版者によって助長されてきた,極めて制限的な公正使用ガイドラインの排除を重視している」と述べ,肯定的な反応を示した。

  • (http://media.ca11.uscourts.gov/opinions/pub/files/201214676.pdf) (http://policynotes.arl.org/post/100512024587/in-georgia-state-university-e-reserves-case-eleventh) (accessed 2014-11-07).

Amazon社とSimon & Schuster社が新契約にサイン

Hachette社との契約問題が行き詰まっている中で,Amazon社とSimon & Schuster社は,現契約終了2か月前の10月中旬,電子書籍と印刷書籍の双方に影響を与える新しい複数年契約にサインした。詳細は発表されていないが,Wall Street Journalによれば,電子書籍の値引きポリシーは,当初のエージェンシーモデルに戻り,Simon & Schuster社は2015年1月1日以降,電子書籍の価格を設定することができるようになった。Amazon社は特定の状況下では,値引きも可能である。Amazon社はWebサイトでSimon & Schuster社書籍の販売促進を行う。Simon & Schuster社のCEO,Carolyn Reidy氏は代理店や著者に書簡を送り,「この契約は,Simon & Schuster社と著者双方にとって経済的に有益なもので,著者への支払いの割合は不変である」と告げた。契約交渉が長引いていたスウェーデンの大手出版社Bonnier社も,Amazon社との契約にサインした。Amazon社は最終的には,Penguin Random House,Macmillan,HarperCollins Publishersの各社に対しても,新しい契約交渉を行うものと思われる。Amazon社への批判を強めているAuthors Unitedの代表者Douglas Preston氏は,「Simon & Schuster社が満足しており,Hachette社が同じ条件を提示されているのであれば,Hachette社がこの問題を早急に解決するよう試みることを望む。しかし,それはAmazon社の問題が解決したことにはならない。出版社との交渉に入るたびに,著者をターゲットにすることは承服できない」と不満をあらわにしている。

  • (http://online.wsj.com/articles/amazon-simon-schuster-reach-book-contract-1413833713) (accessed 2014-11-07).

英国の新しいオーファンワークス利用ルール

英国・ビジネス・イノベーション・職業技能省(BIS)が,オーファンワークス問題の解決のための解決策を見いだした。美術館や図書館には,著作権保有者が不明であるため,共同使用やインターネット上での展示ができない,多数の文化作品が存在する。10月29日に開始された新しいライセンス方式では,著作権はあるものの,著作権保有者が見つからないオーファンワークスに対して,わずかな金額(伝えられるところによると,10ペンス+付加価値税)を支払うことにより,知的財産庁(Intellectual Property Office)から使用ライセンスを与えられ,著作権法に違反することなく,Webサイト,書籍,テレビ上で複製することができる。著作権保有者は名乗り出れば,支払いを受けることができる。英国にある記録資料のうち,最大50%がオーファンワークスだといわれ,日記,写真,口述歴史記録,ドキュメンタリーフィルムなど,少なくとも約9,100万点の作品へのアクセスが可能になると期待される。テート・ギャラリー(The Tate)や帝国戦争博物館(Imperial War Museum)が所蔵する絵画の複製を出版することも許される。文化機関が所蔵する一定のオーファンワークスをデジタル化し,Webサイトに展示することを可能にする,EUのオーファンワークス指令(Orphan Works Directive)も10月29日に発効され,新しいルールと同時に施行される。

  • (https://www.gov.uk/government/news/uk-opens-access-to-91-million-orphan-works) (accessed 2014-11-07).

世界初,みずほ銀行コールセンターに人工知能導入へ

日本IBMとみずほ銀行は11月6日,コールセンターや銀行窓口での顧客対応に人工知能コンピューター「Watson」を使用するシステムを共同で構築すると発表した。第一弾として,みずほ銀行のコールセンター業務に同システムを導入し,ユーザーからの照会に対して的確かつスピーディーに回答できるようにする。音声認識技術を採用することで,ユーザーの音声をシステムが自動的に文字データに変換し,Watsonがデータベースから適切な回答を見つける。2015年からの導入を検討しており,みずほ銀行では,1回の対応時間が平均30分から8分に大幅に短縮できるとしている。三井住友銀行もコールセンターに活用していく計画で今後,人工知能の導入が広がることが予想される。

Watsonは,情報を分析して,学習や推論を行い,行動に結びつけるという人間の認知活動の実現を目指した質問応答システムで,2011年にはアメリカの人気クイズ番組「Jeopardy!」で人間のクイズ王者に勝利している。

  • (http://www-06.ibm.com/jp/press/2014/11/0602.html) (accessed 2014-11-07).

Facebook,災害時の安否確認機能をリリース

Facebookは10月16日,新機能「災害時情報センター」を発表した。自然災害時に,災害の影響下にいる人と,心配している友達や家族の双方が連絡を取るためのもので,1)Facebook上でつながっている友達や家族に自分が無事であることを知らせる,2)災害の影響を受けた地域にいる人の安否を確認する,3)Facebook上でつながっている友達の無事を報告する,という機能がある。利用者自身が災害地域にいる場合には,Facebookから自動的に安否確認の通知が届くので,「自分の無事を報告」または「影響を受けた地域にはいません」というボタンを選ぶようになる。この機能による安否状況やコメントはFacebookの友達のみに共有される。この機能は,Facebookが2011年の東日本大震災を機に日本国内で開発し,改良を重ねてきた「災害用伝言板」がもとになっており,世界各国で公開される。

  • (http://ja.newsroom.fb.com/news/2014/10/safetycheck/) (accessed 2014-11-07).

産総研,津波堆積物データベースを公開

産業技術総合研究所(産総研)は10月15日から「津波堆積物データベース」を一般公開した。これは産総研がこれまでに行ってきた津波堆積物調査の結果を,Web上で簡単に閲覧するためのツール。産総研では以前から,過去に東北地方で発生した巨大地震の地質学的調査を行ってきたが,2011年の東北地方太平洋沖地震を受けて,過去の巨大地震・発生履歴を調べる研究が以前にも増して注目されるようになった。しかしこれまでは,大規模な掘削作業や,採取した試料の分析に時間を要し,その結果をすべてまとめて公表するまでには,調査開始から数年かかっていたとしている。そのため今回のデータベースでは,データ分析状況に応じてなるべく早く研究成果を発信するために,1)掘削地点の位置情報のみ,2)掘削地点の位置情報+地層の情報,3)掘削地点の位置情報+地層の情報+津波堆積物の有無,という3段階に分けてデータ公表を行っている。

  • (http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2014/pr20141014_2/pr20141014_2.html) (accessed 2014-11-07).

「ニュースアプリ」が人気,政府も活用

新聞社や出版社が配信するネット上の記事を1か所にまとめ,スマートフォンで手軽に読めるようにした「ニュースアプリ」の利用が増えている。ICT総研が11月4日に公表した調査によると,2012年度末に303万人だったモバイルニュースアプリのアクティブユーザー数が,2013年度末には4倍の1,294万人に急増していることがわかった。ユーザー数は2014年末には約2,200万人,2017年度末には約4,400万人になると予測されている。

そうした中で,内閣広報室は11月4日,そうしたニュースアプリの1つであるSmartNewsに,日本政府の各Webサイトで発信された情報を集約した「日本政府」チャンネルを開設したと発表した。内閣官房内閣広報室はこれまでも首相官邸としてTwitterやFacebook,LINEなどのSNSを活用してきたが,ニュースアプリを利用するのはこれが初となる。

  • (http://www.ictr.co.jp/report/20141104000070.html) (http://www.kantei.go.jp/jp/pages/smart_channel.html) (accessed 2014-11-07).

米ネットユーザーの4割がオンラインハラスメントを経験

米国のシンクタンクであるピュー・リサーチ・センターは10月22日,「オンラインハラスメント」についての調査結果を発表した。同センターがこのテーマでの調査を行うのはこれが初めて。調査結果によると,成人のインターネットユーザーの73%がオンライン上でハラスメント(嫌がらせ)を受けている人を見たことがあり,40%は自分自身がハラスメントを経験したと回答した。年齢では18~24歳の若者が多い(70%が何らかのオンラインでのハラスメントを経験)。特にこの年代の女性がハラスメントを経験する割合が過度に高く,オンラインでのストーカー行為(26%)や性的嫌がらせ(25%)といった深刻な被害が目立った。

  • (http://www.pewinternet.org/2014/10/22/online-harassment/) (accessed 2014-11-07).

福岡市,「オープンデータ」サイトを開設

福岡市は10月6日,市が保有する統計情報,行政情報などのオープンデータを提供する「福岡市オープンデータ」サイトを開設した。行政が保有する統計・経済状況,環境,防災などの公共データのうち,許可されたルールの範囲内で誰でも自由に複製・加工や頒布などができるものをオープンデータとして公開することで,市民の利便性向上や行政の透明性確保,経済の活性化などにつながることを期待するとしている。アプリケーション開発者や企業,公共データを利用して調査研究を行う研究者,起業家などの利用を想定している。

同市は,「グローバル創業・雇用創出特区」に指定されており,「世界一ビジネスがしやすく,新しい価値を生み続けるまち」を目指している。このサイトを通じてオープンデータの活用が促され,新しい価値の創出,日常生活の利便性向上や起業・創業,ビジネスの活性化につながることが期待されている。

  • (http://www.open-governmentdata.org/) (http://www.city.fukuoka.lg.jp/soki/joho/shisei/BDODkatsuyou.html) (accessed 2014-11-07).

 
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