情報管理
Online ISSN : 1347-1597
Print ISSN : 0021-7298
ISSN-L : 0021-7298
集会報告
集会報告 太陽地球系研究のための国際データシステムの構築に向けたワークショップ
渡邉 堯
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2016 年 58 巻 10 号 p. 787-790

詳細

  • 日程   2015年9月28日(月)~30日(水)
  • 場所   情報通信研究機構(東京都小金井市)
  • 主催   太陽地球系物理学・科学委員会(SCOSTEP),世界データシステム(WDS)
  • 後援   情報通信研究機構,国立極地研究所,名古屋大学宇宙地球環境研究所,地球電磁気・地球惑星圏学会

1. 要旨

この研究会は,太陽活動の変動が宇宙環境や地球大気に与える影響の研究に必要な観測データの,長期保全,品質管理,検索・利用システムの構築における,世界データシステム(WDS: World Data System)注1)と太陽地球系物理学・科学委員会(SCOSTEP: Scientific Committee on Solar-Terrestrial Physics)注2)との連携について協議するために開催された(1)。総参加者数は71名(うち外国人参加者18名),総発表論文数は51件(うち15件はポスター発表)であった。発表資料を含む詳細は,研究会Webページで公開されている注3)

図1 出席者集合写真(情報通信研究機構にて,9月29日撮影)

2. 開催の背景

主催団体の1つであるSCOSTEPでは,2014年から2018年までの5か年計画で,太陽活動の変動が地球環境に及ぼす影響に関する国際研究プロジェクトVarSITI(Variability of the Sun and Its Terrestrial Impact)注4)を実施中であるが,この研究分野では,太陽から地球までの各領域における観測データの総合的な解析が広く行われているため,データのアーカイビングや共有態勢の構築が早くより進められており,国際的なデータ活動が活発に行われている。もう1つの主催団体であるWDSでは,構成メンバーとして認証を受けたデータセンターやデータネットワークが主体となって,品質管理された科学データの長期保全と,多分野にまたがるデータ利用を意識したデータ公開態勢の構築を目指しており,現時点における約90か所のメンバーのうち,約30か所がSCOSTEPに関連したデータを扱っている。そこでデータ関連活動における両者の連携を強化し,当該分野におけるデータの長期保全と公開態勢を構築することを目的として,本研究会が企画された。

なお本研究会が実施された2015年は,東京大学生産技術研究所の糸川英夫教授によって実施されたペンシルロケット実験から60周年にあたり,ロケットや人工衛星によって得られた観測データに関係が深い当研究会が,実験場に程近い場所で開催されたことは,偶然とはいえ感慨深いものがある(2)。

図2 ペンシルロケット記念碑(国分寺市)を訪問した外国人参加者

3. セッションの概要

1日目(9月28日)に行われた基調講演では,まずSCOSTEP会長のN. Gopalswamy博士(NASAゴダード宇宙飛行センター)より,太陽地球系研究においては長期の観測データの保全が重要であることが指摘された。たとえば太陽黒点数の周期性については,よく知られた11年周期に加えて数十年から数世紀にわたる長期変動が存在し,現在は下降期に入りつつある兆候がみられるため,17世紀における太陽活動極小期に発生した寒冷期(小氷期)の再来を予想する研究者もある。このような長期間にわたる観測データは再取得が不可能であり,大げさな言い方ではあるが,今後人類が地球上に存在する限り,いつでも参照できる態勢の確保が重要な課題となる。

第2の基調講演は,情報通信研究機構がホストを務めているWDS国際プログラムオフィス統括のM. Mokrane氏による,WDSの活動計画に関する講演であった。WDSが目指すところは,品質管理された科学データの長期保全と分野横断型データ利用を可能とする態勢の構築,データ活動に対するサポート態勢の確保,データ提供者が適切な評価を受けるシステムの構築,情報格差の解消などにあり,VarSITIなどの国際共同研究事業との連携が重要であることが指摘された。次いで科学技術データ委員会(CODATA: Committee on Data for Science and Technology)注5)運営委員のA. Rybkina博士(ロシア科学アカデミー・地球物理センター)による講演があり,SCOSTEPとWDSとの連携の議論にデータ科学主体のCODATAが加わることにより,データ科学分野の研究者との連携を強化する方向が示された。

次いで同日の午後には,SCOSTEPとWDSの連携に関するパネルディスカッションが開催された。前述のVarSITI計画では,多様なデータ活動が活発に行われているにもかかわらず,個々のデータセンター等が個別に活動している状況にあるため,観測データの所在やアクセス方法などを,データ利用者がワンポイントで把握できるようなシステムの構築が課題として提起された。また,研究者の研究活動によって取得されるデータも数多く存在し,そのようなデータの品質管理や長期保全・公開態勢の確保における問題点が指摘された。これは他の研究分野でも共通した課題であるため,いろいろな機会をとらえて議論していく必要性が指摘された。

以上のような議論を踏まえて,SCOSTEPとWDSとの間で,両者の連携に関する合意書が取り交わされ,SCOSTEPがWDSのPartner Member(協力会員)となることが決まった(3)。これにより両者の連携に関する本格的な議論が始まることとなる。

2日目(9月29日)は主として太陽地球系現象にかかわる観測データの解析に関する講演と議論に充てられた。特に2015年3月中旬と6月中旬に発生した太陽爆発現象に関連した太陽地球系現象は,太陽活動に伴う人工衛星環境や,電波通信に影響を与える電離層擾乱(じょうらん)の予警報に関連が深い宇宙天気研究にとって,非常に興味深い研究テーマであり,多くの講演やポスター発表が行われた。このような研究のためには,太陽地球系のさまざまな領域における観測データを効率よく解析することが重要であり,分野を横断したデータの検索や,多パラメータのデータ解析を容易とするシステムが必要となる。そのため,ドメイン・サイエンティスト自身がデータシステム開発者を兼ねているケースが多くみられるのも,この研究分野の特徴である。

3日目(9月30日)の午前中は情報科学のデータ関連活動への応用と,太陽地球系データに関する活動の報告が行われた。特に米国航空宇宙局(NASA)のゴダード宇宙飛行センターや米国海洋大気圏庁(NOAA: National Oceanic and Atmospheric Administration)では,太陽地球系データの総合的なデータセンターとしての活動において長い伝統を有しており,現在でも主導的立場にある。今後は国立極地研究所等の5研究機関によって共同開発されたメタデータシステムIUGONET(超高層大気長期変動の全球地上ネットワーク観測・研究:Inter-university Upper atmosphere Global Observation NETwork)注6)の国際展開などを通じて,わが国の国際貢献度を高めていくことが期待される。また情報通信研究機構が開発を行っている,論文のデータ引用情報(サイテーション)によるデータ検索を通じて,予期していなかったデータの発見などを可能とするシステムの紹介が行われ,参加者から強い関心が寄せられた。

図3 M. Mokrane氏(WDS国際プログラムオフィス統括(左))と,N. Gopalswamy氏(SCOSTEP会長(右))による合意書の交換

4. まとめ

本研究会を企画するにあたって留意したことは,データプロパーの専門家だけではなく,データのユーザーに当たるドメイン・サイエンティストや情報学研究者にも多く参加してもらい,データのユーザーからデータの提供者(観測者,データセンター等)へのフィードバックと,情報科学研究者を交えた3者の連携を目指すことにあった。最近「オープンサイエンス」や「オープンデータ」といった概念が各方面で議論されているが,従来から太陽地球系科学分野は,分野間にまたがったデータの解析が不可欠であることや,国際的なデータ公開を早くから行ってきたことから,比較的これらの概念になじみやすい研究分野といえる。しかし種々の事情からデータ共有が十分に行われていない分野も存在し,多大の経費や労力を費やして得られたデータの公開にあたって,データ取得者に対する正当な評価態勢の確保など,解決すべき問題が多く残されている。今回の研究会を通じて,これらの問題の解決に向かう第一歩が踏み出せたものと思われる。なお,この研究会で発表された論文は,Earth, Planets and Space(EPS)注7)の特集号として出版される予定である。

(国際科学会議世界データシステム国際プログラムオフィス 渡邉 堯)

本文の注
注1)  世界データシステム(WDS):https://www.icsu-wds.org/

注2)  太陽地球系物理学・科学委員会(SCOSTEP):http://www.yorku.ca/scostep/

注3)  Quick report of the workshop:http://isds.nict.go.jp/scostep-wds.2015.org/

注4)  VarSITI:http://www.varsiti.org/

注5)  CODATA:http://www.codata.org/

注6)  IUGONET:http://www.iugonet.org/

注7)  Earth, Planets and Space:http://www.earth-planets-space.org/

 
© 2016 Japan Science and Technology Agency
feedback
Top