情報管理
Online ISSN : 1347-1597
Print ISSN : 0021-7298
ISSN-L : 0021-7298
集会報告
集会報告 インフォ・スペシャリスト交流会 第76回研究会 「イノベーションへの気づき,新規事業の意志決定につながる技術・知財情報の分析」
岡 紀子
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2016 年 58 巻 12 号 p. 940-941

詳細

  • 日程   2015年10月16日(金) 18:30~20:00
  • 場所   産業創造館 6F 会議室E(大阪府大阪市)
  • 主催   インフォ・スペシャリスト交流会

話題提供者:永井 歩氏

株式会社アスタミューゼ代表取締役

1. はじめに

IS-Forumは,情報科学技術協会(INFOSTA)が実施する検索技術者検定1,2,3級の合格者の会である。現在約80名の会員で構成されている。年3~4回の研究会の企画では,時勢を反映した研究会テーマを選択するようにし,会員にとって役立つものを開催している。さらに研究会が,異業種の人との出会いの好機となることを望んでいる。今回の研究会は,第75回(2015年8月28日開催)に続く2回目の公開セミナーであり,非会員の参加もあった。

2. 研究会報告

本研究会のテーマ「イノベーションへの気づき,新規事業の意志決定につながる技術・知財情報の分析」から,情報分析の話らしいと想像できるが,近年企業で取り組むテーマは情報解析や情報分析,マクロ分析,事業戦略,研究開発戦略などのキーワードであふれているだけに,さほどの驚きはないかもしれない。ところが,そう思って参加したであろう多くの方が,永井氏の備える高い能力に目をみはり新鮮な驚きとともに感動することとなった。決して超専門家だけがもつ特別な情報を扱っているわけでもなく,旧来われわれが身近に扱っている企業の中にある情報(データ)を活用していたのに,である。ではどこが違うのか,これから説明したい。

一言でいうと,永井氏は情報ベンチャーであるアスタミューゼの代表として,経験と知識を駆使するバイタリティーあふれた情報界のリーダーのお1人であるということだ。永井氏ならではの目の付け所や豊かで柔軟な発想力のおかげで,魅力満載なお話を聴講することができた。

それでは一体何に着目した情報解析なのか,ここではポイントだけを報告することにしよう。

(1) 特徴

その1は,膨大なデータ量である。今時,当たり前のことといわれそうだが,世界80か国・地域の企業・大学・市場・特許・技術文献などさまざまな情報源を,国・地域レベルにまで幅広く収集している。その2は,解析手法はどれも独自のアルゴリズムを用いて評価していること。当初は根拠が不明と見なされ注目されなかったそうだ。その3は,データ解析をした結果を基に,先端分野の専門アナリストたちが評価し未来予測を行うことだ。

(2) 永井氏の行う情報解析の特にユニークな点

  • ⅰ)従来はあまり着目されてこなかった情報に「科研費」がある。永井氏は「その研究が有望と考えられているので,科研費が付く」という考えの下に,科研費総額から市場性を予測する。その市場性と自社の競争力(自社企業の知財力から平均他社の知財力をさし引いた分)を用いて,ポートフォリオ分析により現状を把握する。
  • ⅱ)独自の分類で有望180市場を設定し,ⅰ)の方法でそのポートフォリオ分析を行い,時間軸を加味していく。すると,「その評価が激しく動く分野は信頼性が低い,ほぼ動かない分野には信頼性があると評価できる」と話された。
  • ⅲ)特許情報の解析ソフトはすでに多種あり多くの知財部員も利用しているが,ユニークな着眼点があった。それは「自社と技術分野を同じくする,けん制したい企業の特許」をみること。「そんなこと当たり前」といわれそうだが,実はその先が違う。それら企業の特許をみて,拒絶された技術に着目するのである。どういうことだろう。

拒絶された技術には,分野を異にするものがあり,その技術こそがビジネスチャンスだというのである。たとえば医療診断メーカーの場合,けん制したい企業には同業者やIT系,電機・機械系などがある。それら企業の拒絶技術には,植物栽培用や植物育成装置など,自社技術としては注目していないものが見つかるのだ。それらこそが,自社技術の活用の可能性を秘めたヒントであるという指摘である。

私も引用特許の重要性には気づいていたが,拒絶された技術(異分野技術)から将来の戦略的分野を見つけるという手法に大いに驚かされた。また単純に引用頻度に着目するのではなく,技術評価に財務情報もひも付けして評価する必要があるという。

次々と繰り広げられる話は永井氏のアイデアのほんの一部だが,驚きの連続であった。つまり,企業はこれまで自社技術分野に集中精査してきたが,自社技術の新たな活用やビジネス拡大の戦略のためには,異分野にこそ着目することが重要なのである。そのために一度頭の中の考えを「発散」させ,ロジックを基に「気づき」を見つけることである。アスタミューゼは,この「気づき」のための提案を行おうとしている。

永井氏は,どの要素が解析のポイントであるのか,始終隠さず種明かしをしていた。それらの要素によるアルゴリズムには独自のノウハウが秘められているにもかかわらず,教えてくれるとは,そのアルゴリズムに相当自信があるからに違いない。当初,国内大手企業からの引き合いはなく,いわば「名もない調査会社」にあまり注目しない国内に引き換え,海外の反応は早く,企業トップからのコンタクトもあったそうだ。

最初から最後まで刺激満載の研究会であった。企業が必要とする情報は時代や状況に応じて変化するが,永井氏はそれを常に先読みしわかりやすい形で提供しようと,解析手法はますます成長していくであろう。アスタミューゼのWebサイトから簡単なキーワード検索もできるので,ぜひ一度試してみてほしい。

図1 永井氏と講演風景

3. さいごに

IS-Forumでは研究会終了後に短時間だが懇親会を行い,講師を囲んでの情報交流の時間を楽しんでいる。和気あいあいで,これを楽しみにしている方もいる。入会および研究会へもぜひご参加ください。

(IS-Forum 岡 紀子)

 
© 2016 Japan Science and Technology Agency
feedback
Top