図書紹介
法情報の調べ方入門 法の森のみちしるべ JLA図書館実践シリーズ28
2015 年 58 巻 5 号 p. 404
詳細
2015 年 58 巻 5 号 p. 404
本書は，本誌に連載された「研究・実務に役立つ！リーガル・リサーチ入門」（2012年10月（55巻7号）～2013年9月（56巻6号））に，それぞれの担当者が加筆修正・編集し，一書としたものである。
この国では，裁判所に係属する訴訟はここ10年程度で4割も減少（2013年度で360万件）している。ADR（代替的紛争解決手続）の整備普及の動きがあるが，この傾向は国民の裁判所に対する不信感の強まりを表しているように思われる。またその一方，行政事件訴訟の数は増加傾向にあり，法を執行する行政機関に対する国民の不満も確実に高まっているようにみえる。
このような状況にあるからこそ，市民は一定の社会的拘束力を備えた法規範に親しみ，その利用方法を生活技術として身につける必要があり，ライブラリアンは紛争の予防と回避，ときには紛争解決に必要とされる法情報を提供できる知識とスキルを習得しておかなければならない。本書は，そのような市民とライブラリアンにとって，大きな福音となる。以下，本書の構成にしたがって，内容を紹介しておきたい。
「1章 法情報の世界」は，1つの事件が民事，刑事，行政事件の3側面をもつことと，法源等について解説し，「2章 法体系」は公的に規律する法令と特定分野の基準であるガイドライン等について説明している。「3章 法令の条文を探す」は，現行法令だけでなく，過去の一時点の法規定の探索法も示している。「4章 法令の解説資料を探す」では，介護職の医療行為を例にとり，各種データベース，逐条解説等の図書，雑誌，新聞に目配りしている。「5章 通達・告示等を探す」は行政機関が内部規範として定める通達や訓令，外部に公表する告示等の見方と調べ方，そして非公表の通達等については情報公開制度の利用を説く。「6章 法律はどうつくられるか」は，内閣提出法律案を念頭に置き，当該法律に関する立法事実を支える審議会等の報告書や関係する文献情報について解説し，具体的事例として2012（平成24）年の著作権法一部改正法の顛末（てんまつ）をあげている。「7章 行政機関が発する法情報を探す」は主としてインターネット上に公開されている法律等の立案・制定にかかわる各種バックデータ，および法令用語，情報公開制度の運用状況，公文書館等について記述している。「8章 判例とは」は判例の意味，日本の裁判制度，判決文の構成，判例等の情報源について解説し，「9章 判例を探す」では，各種情報源を用いた特定の判例の探索法を論じ，アスベスト訴訟を例に具体的手法を教示する。「10章 判例評釈を探す」は特定の訴訟判決の意義と効力の及ぶ範囲等について述べた判例評釈を掲載した紙媒体資料とデータベースの使い方を示す。「11章 審決・裁決等を探す」は準司法的機能をもつ行政機関が行政処分として下す審決・裁決の意義と探索法を述べる。「12章 法分野の人物・図書館・書店情報」は，ロボット裁判機械ではなく生身の司法官僚である裁判官とロービジネスに携わる弁護士と隣接法務業者，研究者について論じ，（法）情報提供機関である各種図書館や書店を紹介している。
（桃山学院大学経営学部 山本順一）
