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情報界のトピックス
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2015 年 58 巻 5 号 p. 405-409

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米国がオーファンワークスと大規模デジタル化に関する報告書を発表

オーファンワークス(孤児著作物)の問題については長年,議論がなされてきたが,6月4日,米国著作権局(U.S. Copyright Office)は,オーファンワークスの利用や,大規模デジタル化プロジェクトに携わろうと試みる善意の利用者が直面する,法律上,ビジネス上の課題を記述した「オーファンワークスと大規模デジタル化に関する報告書」(Report on Orphan Works and Mass Digitization)を発表した。米国著作権局は,利用者が著作権保有者を見つけられない,あるいは利用者自身や実施権者(ライセンシー)を継続的な責任負担から守ることができないという理由から,多くの有益なプロジェクトが妨げられてきており,著作権保有者の権利を損ねることなく,公共の利益のために大規模デジタル化プロジェクトを促進するために適用すべき法規定が欠けている,と指摘してきた。

同報告書は,オーファンワークスに関しては,改定や変更はあるものの2008年に上院のみで可決された“Shawn Bentley Orphan Works Act”を生かした法案を再提案し,大規模デジタル化に関しては,米国が,世界のどこかで利用中あるいは検討中の,幅広い総体的なライセンス枠組みの経験を積めるように,より漸進的なアプローチを推奨している。また,著作権保有者と利用者代理人間の合意を条件として,研究や教育目的のために特定の著作物を利用者がデジタル化し,アクセスを提供できるようにするためのパイロットプロジェクト(Mass Digitization Pilot Program)を勧めている。米国著作権局は,8月10日までパブリックコメントを募るための調査告示を,6月9日に発表した。

北米研究図書館協会(Association of Research Libraries: ARL)は6月5日,イシュー・ブリーフを発表して,報告書を次のように批判した。(1)公正使用(Fair Use)をオーファンワークスにどのように適用するかについて,司法がまだ明確に取り組んでいないことを理由に,著作権局は公正使用が適切な解決策を提供できるという考えを認めようとしない。(2)著作権局は,オーファンワークス問題解決におけるベスト・プラクティスは,著作者やその他の著作権保有者との協議なしにもたらされることが多く,したがってベスト・プラクティスとされるものは,どちらかというと叙述的文書というよりも熱望的文書である危険があるとしてこれを認めない。(3)著作権局がオーファンワークス問題への解決策としての公正使用を軽視するのは残念である。公正使用が相当に予測可能なドクトリンであることを著作権局は認めていない。(4)著作権局が提案する厄介な法律は,利用者のオーファンワークスの利用を控えさせるという結果を引き起こしかねない。利用通知条項がオーファンワークス条項に含まれても,それが利用されることはめったにないであろう。

Amazon社の電子書籍事業を欧州委が独占禁止法違反で調査開始

欧州委員会(European Commission)は6月11日,電子書籍市場における欧州最大の電子書籍配信会社であるAmazon社のビジネスに対して,独占禁止法違反の調査を公式に開始すると発表した。欧州委は特に,Amazon社が出版社と結んだ契約の中にある特定の条項を詳しく調べる。その条項は,出版社がAmazon社の競合他社に提供する,より有利な,あるいは別の条件について,Amazon社に通知することを出版社に要求するもので,それによりAmazon社は少なくとも競合他社と同様の条件を確保できることになる。欧州委は,このような条項は,他の電子書籍配信会社がAmazon社と競争することを難しくさせる可能性があると懸念している。

欧州委の競争政策担当委員Margrethe Vestager氏は,行われる調査は,消費者に電子書籍を含む包括的なサービスを提供するAmazon社の成功ビジネスを疑問視するものではないと主張しながらも,「Amazon社と出版社の協定が,消費者にとって有害でないことを確認するのが私の義務である」と述べた。Amazon社は声明を発表し,「出版社との取り決めは合法的なものであり,読者の利益を最優先するものであることを確信している」と述べ,調査には全面的に協力することを約束した。

調査は,欧州で最大の市場をもつ英語とドイツ語の電子書籍に重点的に取り組む。独占禁止法違反行為の調査を完了するまでの法的期限はなく,調査期間は,問題の複雑さや,関係者がどれだけ欧州委に協力し,抗弁権を行使するか,といった数多くの要因によって決まる。欧州委の調査は始まったばかりであり,不正行為の公式認定なしに和解で終わる可能性がある。しかしニューヨークタイムズ紙は,正式に告訴され,不正行為認定に反証できなかった場合,Amazon社は直近の世界年間売上の10%の罰金を科されることもあると伝えている。

オランダの大学が研究者にElsevier出版物ボイコットの呼びかけ

ビッグディール(包括的パッケージ契約)交渉をめぐり,オランダの大学が,世界最大の学術ジャーナル出版社Elsevier社ボイコットの準備を行っている。14の研究大学で構成されるオランダ大学協会(Association of Universities in the Netherlands: VSNU)は,ボイコットの第一段階として,Elsevierジャーナルの編集長を務めている研究者全員に辞任を求めた。これがうまくいかなかった場合,次の段階として,査読者にElsevier社のために働かないよう求める。その後に,研究者がElsevierジャーナルへの論文掲載を中止するよう求められることもありうる。

大学とElsevier社のビッグディール交渉は昨年11月に決裂し,契約は2014年末に切れたが,契約が行き詰まった場合はさらなる交渉を行うために契約を1年間繰り延べる取り決めになっており,係争は継続中である。VSNUは今年6月のニュースレターで,Elsevier社の最新のプロポーザルは,「オープンアクセス出版物の増加に基づいているが,急激な価格上昇を伴っており,論文を発表したり,また読んだりする学術機関に対して二重の支払いを要求している」と非難している。Elsevier社のスポークスマンは,「VSNUとは建設的な対話を行っているところであり,VSNUの目標を達成し,オランダ研究者の利益を支援する解決策を見いだすことができると楽観視している」と述べた。なお,Springer社,Sage社,Wiley社などは,すでにVSNUの条件に沿う新しいビッグディール契約に合意済みである。

オープンアクセスを強く支持する教育・文化・科学担当副大臣Sander Dekker氏は,「科学はそれ自体がゴールではない。知識は共有されて初めて知識になるのである」と述べ,2019年までに科学出版物の60%を,2024年までに100%をオープンアクセスで利用可能としなければならないと宣言し,望ましい方法として,読者に購読料がかからないゴールドオープンアクセス(オープンアクセスジャーナルに掲載する)をあげている。

定額音楽ストリーミングが続々登場,アーティストの反発も

月額制で聞きたい音楽を選んで好きなだけ聞くことができる音楽ストリーミングサービスが相次いで登場している。日本国内ではこれまで,権利関係の問題などから海外の先行サービスが展開されないなど,普及は今ひとつであったが,6月に登場した「Apple Music」が日本でも7月にスタートしたほか,国内でも新たなサービスがスタートしている。

Appleは6月9日,音楽ストリーミングサービス「Apple Music」を発表した。月額9ドル99セントで,最初の3か月は無料試用期間としている。米国時間6月30日に世界100か国以上でサービスを開始し,日本でも日本時間7月1日から利用できるようになった。日本での料金は,個人向けが月額980円,ファミリーメンバーシップ(最大6人で利用可能)は月額1,480円。iPhone/iPadのほか,iTunes経由でMacやWindowsでも利用できる。Appleによると「数百万曲」もの楽曲をアーティスト名などから検索して再生できるほか,好みのジャンルなどを設定すればさまざまなプレイリストを楽しむこともできるという。

国内でも新たなサービスが登場している。サイバーエージェントとエイベックス・デジタルとの共同出資による新会社AWAは5月27日,定額制音楽配信サービス「AWA」(アワ)をスタートさせた。AWAはスマートフォン(Android/iOS)向けアプリとして提供されており,提供開始から2週間でアプリダウンロード数が100万件を突破した。プレイリストとラジオが聴けるプランが月額360円からで,今後はオフラインでも再生可能な機能や,PC版,タブレット版,車載端末などの対応デバイス拡充を予定している。

一方,無料通話・メールアプリの「LINE」も6月11日,スマートフォン向け定額制音楽配信サービス「LINE MUSIC」をスマートフォン(Android/iOS)向けに提供開始した。料金は,500円で30日間の有効期間内に20時間の楽曲聴き放題のプランなどがある。またLINEでつながっている友人に楽曲やプレイリストを送ったり,その楽曲をLINEアプリ内で直接再生したりするなど,音楽をコミュニケーションとして楽しむことができる。

こうした音楽ストリーミングサービスには,権利者であるミュージシャン側からの反発もある。アメリカの人気アーティストのテイラー・スウィフト(Taylor Swift)は6月21日,Apple Musicの3か月の無料試用期間にはアーティストに対価を支払わないとするAppleの方針に抗議し,最新アルバムを同サービスから引き上げると発表した。テイラー・スウィフトはこの方針は「衝撃的でがっかりさせるもので,これまで革新的で寛容だった企業らしくない」と感じたとし,自分のためではなく,新人アーティストや作曲家,クリエイティブで革新的な取り組みをしているプロデューサーにとっては大きな問題であると指摘して,方針の変更を求めた。この抗議は大きな反響を呼び,Appleはスウィフトの抗議文公開の16時間後に方針を変え,試用期間中も対価を支払うことを幹部(Eddy Cue氏)がツイートし発表した。

江戸期以前の「くずし字」をテキストデータ化

凸版印刷は7月3日,江戸期以前のくずし字を高精度でテキストデータ化するOCR技術を開発したと発表した。同社は2013年から,さまざまな書籍を高い精度でテキストデータ化する「高精度全文テキスト化サービス」を提供しており,このサービスで確立したテキストデータ化技術をベースに,公立学校法人公立はこだて未来大学の寺沢憲吾准教授が開発した「文書画像検索システム」と組み合わせることで,くずし字で記されている古典籍のOCR処理を実現した。

原理検証実験では,くずし字で記されている書物を80%以上の精度でOCR処理することに成功している。この技術により,専門家による判読に頼っていたテキストデータ化と比べて,大幅なコスト削減と大量処理が可能になるとしている。同社では,本技術を利用した古典籍テキストデータ化サービスを2015年夏より試験的に開始する予定。この技術について,日本文学研究者のロバート・キャンベル東京大学大学院教授は「(くずし字を読めなくなったことで)欧米諸国とちがって,日本人は自らの歴史風土を自在に行き来する能力を失ったのです。それ自体,世界史の中でも特記すべきことですが,しかしここで新たな技術によって,豊穣(ほうじょう)な風土がふたたび開かれるかもしれません」とコメントしている。

Google,ジャーナリスト支援サイト「News Lab」を公開

米Googleは6月22日,ジャーナリスト向けのツールやデータをまとめたサイト「News Lab」を公開した。Googleの各種サービスを組み合わせて提供することで,ジャーナリストや起業家の活動を支援し,「ニュースメディアの未来」の構築に協力するとしている。既存の検索サービスやGoogleの各種機能のほか,6月18日に提供を開始したばかりの新サービス「YouTube Newswire」(一般市民から投稿されたニュース価値の高い動画をテーマ別にキュレーションして提供するサービス)や,ニュースメディアのための分析機能が追加された「Google Trends」などのツールを利用できる。さらにそうしたツールの活用法を紹介するチュートリアルも用意されている。

短時間視聴が増加し,「テレビ離れ」が鮮明に

NHK放送文化研究所は7月7日,「日本人とテレビ2015」の調査結果を発表した。この調査は5年ごとに実施しているもので,テレビの1日の視聴時間を「30分~2時間」「ほとんど,まったく見ない」と回答した割合が5年前と比べ増加したことが鮮明になった。「30分~2時間」の短時間視聴の割合が増加したのは,1985年の調査開始以来初めて。

すべての年代で2時間以下の割合が上昇し,10~50代では5割以上に達した。70代以上の約6割以上は4時間以上の「長時間」視聴という結果だった。

また,テレビを「必要」と感じない人が40代男性,50代と60代の女性で増加した。

「若者のテレビ離れ」と言われて久しいが,インターネットなどのメディア環境の変化によって,少し上の世代にも影響が出てきていることが明らかとなった。

Facebookが風力だけで稼働するデータセンターを建設

Facebookは7月7日,米国テキサス州に5つ目となるデータセンターを建設中であると発表した。建物全体を再生可能なサステイナブルエネルギーである風力だけで稼働させる。

センター内は外気を効率よく取り入れることでエアコンを使わず,風力だけで冷房する。電力はセンターから140キロほど離れた場所にある風力発電所から供給される。また,余った電力は地元に供給する予定。

データセンターはFacebookにとって肝といえるもの。使用するエネルギーも膨大だが,IT企業が行う地球に優しい取り組みに注目が集まっている。

ウェザーニューズがゲリラ雷雨傾向2015を発表

ウェザーニューズは7月9日,局地的かつ突発的に雷や大雨をもたらすゲリラ雷雨に対して,7~9月の「ゲリラ雷雨傾向」を発表した。事前対策の意識を高め,被害軽減につなげるのが狙い。2015年はエルニーニョの影響で太平洋高気圧の勢力が弱く,湿った空気や上空の寒気を受けやすく,ゲリラ雷雨の発生回数は昨年の約1.4倍に増えると予想している。

特に関東から近畿を中心に大気の状態が不安定となり,発生回数が多くなる傾向で,もっとも多いと予想される関東甲信を中心に,7~9月の間に1,500回以上発生するおそれがあるとしている。ピークとなる8月は昨年同月の約3倍発生する見込みで,河川の急激な増水,道路冠水などに十分な注意が必要と呼び掛けている。

最新情報はスマホ向けWebサイト「ゲリラ雷雨傾向」(http://weathernews.jp/s/guerrilla2015/)から確認できる。また降雨報告はスマホアプリ「ウェザーニュースタッチ」を通して,「ポツポツ」「パラパラ」「サー」「ザーザー」「ゴォーー」の5段階で報告される。

スイス国営郵便がドローンでの配達飛行試験を開始

スイス国営郵便(Swiss Post)は7月7日,ドローンでの配達試験を開始したと発表した。ドローンが配送業務に利用できるかどうかについて,荷物運搬用ドローンを手掛ける米国Matternet社,Swiss International Air Linesの航空貨物部門であるSwiss WorldCargo社と協力し,2015年春から検討してきた。Matternet社のドローン「Matternet ONE」を使用し,必要な技術やコストの調査を目的とし,飛行試験を7月いっぱい続ける予定。

ドローンはスイス国営郵便オリジナルのデザインで,真っ白なフレームで4方向に羽が広がり,中央に郵便局のロゴ入りの黄色のボックスがあり,荷物はこのボックスに収納される。1度の充電で重さ1キロまでの荷物を10キロ超の距離まで運ぶことができる。飛行は自動運転で,Matternet社が開発したクラウドソフトウェアによって計算された,あらかじめ決められたルートを飛行する。

実用化は5年後とまだ先の話だが,現段階では主に災害時などの物資運搬などに使われるとみられている。

 
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