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科学技術広報研究会の活動
岡田 小枝子
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2015 年 58 巻 6 号 p. 455-461

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著者抄録

研究機関や大学と社会をつなぐ科学コミュニケーションである科学技術広報は,国民からの理解や支援と同時に,国民の要望を取り込んだ研究活動を進めたり,海外の研究者や学生を獲得したりするうえで大事な業務を受け持っており,その重要性は年々増している。しかし,どのように目標設定をし,どのような手段で行えばよいのか,その実践はたやすくはなく,業務を担う広報担当者は模索を続けているのが現状である。そうした中,研究機関や大学などの広報担当者が,所属する組織の枠を超えて,広報活動における問題意識・問題点を共有し,それらを通して互いに助け合い,ともに成長していくことを目指して2007年に立ち上がったネットワークが,科学技術広報研究会(Japan Association of Communication for Science and Technology: JACST)である。設立以来,メーリングリスト(ML)での日常的な情報交換や意見交換,勉強会,実務協力,サイエンスアゴラへの参加,ワークショップやシンポジウムの開催など,活発な活動を続けてきた。本稿ではJACSTのこれまでの活動と今後の展望について紹介する。

1. はじめに

科学コミュニケーションである科学技術広報1)は,研究機関や大学と社会をつなぐ架け橋のような存在である。国民から理解や支援をいただくと同時に,国民の要望を取り込んだ研究活動を進め,海外の研究者や学生を獲得するうえで欠かせない情報の送受信を行う大事な業務であり,その重要性は年々増している。しかし,どのように目標設定をし,どのような手段で行えばよいのか,その実践はたやすくはなく,業務を担う広報担当者は模索を続けているのが現状である。

そうした中,研究機関や大学などの広報担当者が,所属する組織の枠を超え,広報活動における問題意識・問題点を共有し,それらを通して互いに助け合い,ともに成長していくことを目指して2007年に立ち上げられたネットワークが,科学技術広報研究会(Japan Association of Communication for Science and Technology,以下,JACST)注1)である。

JACSTは,原則として科学技術に関する広報活動に従事する実務者が参加し,生きたネットワークの中で互いに支え合い,向上の場とすることを目的としているが,最近は科学技術でない分野の広報活動に従事する方々の要望から,参加いただくケースも出てきた。発足当初の会員数は約50名,現在の会員数は,登録メールアドレス上では約160名となっている。

以下にJACSTの成り立ちから活動詳細までを記す(なお,各所属機関は当時のもので,会員は敬称略としている)。

2. 科学技術広報研究会の立ち上げ経緯

筆者(岡田)が2003年に東京大学理学部広報室で科学技術広報業務に従事し始めた当初,英国にStempra(Science, Technology, Engineering and Medicine Public Relations Association)注2)という科学技術,工学,医療関係の組織で働く広報担当者のネットワークがあるという情報を得,メンバーに登録するとともに,いつか日本でもそのような団体を設立したいと考えた。

そうした中,2007年,北海道大学のCoSTEP(Communication in Science & Technology Education & Research Program,科学技術コミュニケーション教育研究部門)が「研究機関の広報支援ワークショップ」を開催し,筆者も参加することとなった。ワークショップ(WS)では,いくつかの特徴的な活動報告があり,最後に筆者から「英国の広報担当者のネットワーク,Stempraの日本版を作りたい」と提案させていただいて,WSは終了した。

このWSに参加していた産業技術総合研究所(以下,産総研)の廣江真夏子が,当時の同僚,目代邦康を伴って筆者のもとを訪れ,打ち合わせをもった。その結果,その年のサイエンスアゴラにおいて,高エネルギー加速器研究機構(以下,KEK)の初代広報室長であり,現在多摩六都科学館の館長である高柳雄一氏を招き「研究機関の広報の役割」と題したミニシンポジウムを開催した2)。議論の出口として,全国の広報担当者のネットワークであるJACSTを立ち上げることとなった。

JACSTの運営については,明確な役職は設けず,嶋田庸嗣,浦野亜規,筆者(ともに理化学研究所,以下,理研),廣江真夏子(産総研),神野智世子(東京大学),目代邦康(自然保護助成基金)の発起人6人で分担して行うこととして始まったが,メーリングリスト(ML)を管理し,発足当初予算を措置してもらっていた理研に所属する筆者が実質的な代表者となり運営を続けた。また,JACSTのWebサイト運営は,森田洋平(KEK)が担当した。

発足当初は,5年間の期限付きと定めていたが,活動が軌道に乗り,有用なものであるという認識が会員間に根付いたため,発足後5年経った2012年以降も,同じ体制で活動を続けている。

そして,2014年秋の総会において,役職を会長と副会長,事務局長および事務局次長とする体制を決め,会長に筆者が就任し,副会長は国際担当として沖縄科学技術大学院大学(OIST)の名取薫と,業務協力担当として海洋研究開発機構の長谷部喜八が,また,事務局長に自然科学研究機構の小泉周,副事務局長に同機構基礎生物学研究所の倉田智子が就任し,会の運営にあたることとなった。

3. 主な活動

3.1 MLでの情報交換,意見交換

メーリングリスト(ML)では,開催イベントや,メディア対応が奏功して結実した報道など会員が企画運営する広報活動や,人材募集などのお知らせなどのほか,一般公開でSNSをどう使えばよいか,記事の訂正をどう求めたらよいか,など,具体的な業務に関する悩み相談なども寄せられ,会員同士で業務経験に基づく助言を与え合っている。

3.2 勉強会

不定期に,1のような勉強会を開催してきた。

勉強会の講師は,会員自身が行う場合と,外部の専門家に依頼する場合がある。また,2011年には,「『研究者のための科学コミュニケーションStarter's Kit』解説」を希望機関で共同購入している注3)

表1 JACSTで開催してきた勉強会一覧
2008年度 パブリックアウトリーチについて
2009年度 研究者とメディアのかかわりについて
2011年度 科学番組映像制作秘話
ウケる!見学対応
科学映画制作を研究機関合同で推進しよう!
2014年度 国際広報について
2015年度 クライシスコミュニケーションの傾向と対策(会員限定)

3.3 実務協力

勉強会で会員それぞれの特技や特色を他の会員に教え合う以外に,実務協力として「TV会社向けのPRプロジェクト」を年に何回か行っており,2014年6月時点で第11回を数えた。

これは,TV番組のコンテンツを探す制作会社,メディア企画担当者等を集め,コンテンツを提供したい研究機関,大学が一堂に会して合同プレゼンテーションを行い,番組化を促進する取り組みで,現副会長の長谷部喜八の発案で,2010年に始まった。

毎回,5~6社のTV番組制作会社と,5~6研究機関・大学が集い,プレゼンテーションとディスカッションを行っており,このプロジェクトによりいくつもの研究がTV番組化されてきた。

また,JACSTがモデルとした英国の広報担当者の団体,Stempraが発行した『Guide to being a press officer』を邦題『プレスオフィサーのためのガイドブック』として,会員の倉田智子,伊東真知子(理研),南崎梓(東京大学),筆者の4人で共訳(会員である筑波大学の渡辺政隆が監訳)した。会員内の回覧だけでなく,JACSTのWebサイトで一般公開している。

さらに,2015年4月25日には,会員の小泉周の提案で,幕張メッセで開催されたニコニコ超会議において,「研究100連発〜現実を超えた現実〜」を開催した。小泉と筆者が座長を務め,会員が所属する研究機関からも研究者が何名か参画した注4)

3.4 サイエンスアゴラへの参加

JACSTはサイエンスアゴラでのシンポジウムがきっかけで始まった会であり,2007年のキックオフシンポジウムをはじめとして,会員外の広報関係者との交流も目的とし,2のように参加してきた。

発足した翌年の2008年と2009年は,サイエンスアゴラもまだ立ち上げ期であり(2006年開始),参加者も企画も少なかった。そこで,科学技術広報について議論するイベントだけでなく,JACST会員の協力企画として,会員が所属する研究機関や大学のコンテンツを持ち寄った一般向けイベント(組織縦断的な講演会や子ども向けのアウトリーチイベントなど)も開催した。

表2 JACSTで開催してきたサイエンスアゴラ出展一覧
2007年度 シンポジウム「研究機関の広報の役割」
2008年度 複合イベント「シルク・ド・さいえんす~科学技術広報いろいろ~」 3.4の(1)参照
2009年度 複合イベント「シルク・ド・さいえんす II」 3.4の(2)参照
2010年度 ワークショップ「本当の科学のハナシ、誰から聞けばいいの?」/ブース出展(共催)
2011年度 ワークショップ「科学のハナシの届け方」 3.4の(3)参照
2013年度 シンポジウム「広報官というお仕事〜職業としての科学コミュニケーションはどこへ向かうのか」 3.4の(5)参照

(1) 2008年度:複合イベント「シルク・ド・さいえんす~科学技術広報いろいろ~」

科学技術広報関係者向けのワークショップとして,会員がそれぞれのバックグラウンドと現在の仕事を紹介するセッションのほかに,イタリアのトレント大学教授で科学コミュニケーション研究を専門とするマシミアーノ・ブッキ氏を招き,「広報活動とマスコミ報道の新たな潮流」と題し,EUのメディアの現状を背景にした科学技術広報の課題を講演していただいた。また,東京大学・数物連携宇宙研究機構の機構長,村山斉氏を迎えた一般向け講演会「消えた反物質の謎」や,会員の目代邦康が進行を務め,所属する機関から分野の異なる研究者を招いて,それぞれの研究活動の違いや共通点をディスカッションした「サイエンティスト クロストーク」,社会人の研究施設見学イベントの番外編として,研究者と一般市民の対談「加速器の昼」といったトークセッションも開催した。さらに,「プラネタリウムをつくってみよう」「霧箱をつくろう」などの子ども向けアウトリーチや「ネタは地球だ! 地学おもしろ実験とトークショー」などのトークショーも開いた。

(2) 2009年度:複合イベント「シルク・ド・さいえんすII」

「サイエンティストクロストーク」を開催すると同時に,ブース出展を行い,プレスリリースや,外部講師による講評付きの広報誌の品評会,なかなか一般に広く閲覧される機会がない広報映像作品をもち寄って来場者とともに鑑賞する「発掘!!こんなお宝映像があった!!」を実施した。また,子ども向けアウトリーチとして,防災科学技術研究所の「Dr. ナダレンジャー」を招いた自然災害の実験教室と,産総研のアウトリーチ用実験装置「エキジョッカー」を使った液状化の実験教室を開催した。さらに大人向けアウトリーチイベントとして,サイエンスにまつわる音楽を会員の長谷部喜八のDJとともに楽しんだ「DJハセベのショータイム」,東大先端科学技術研究センター教授の伊福部達氏を招いた「伊福部教授の音と科学と音楽の世界」を開くとともに,広報関係者向けワークショップとして,Dr. ナダレンジャーこと納口恭明氏に,普及活動に取り組むようになったいきさつや意気込みを聞く「Dr. ナダレンジャーの誕生秘話」も実施した。

その後,所属する研究機関や大学独自のアウトリーチの場としてサイエンスアゴラを活用する会員が増えてきたため,JACSTとしての出展は,科学技術広報について論じるものに特化していった。

(3) 2011年度:ワークショップ「科学のハナシの届け方」

広報活動を4部門に分け,事前の会員投票によって選ばれたよい実践例について,各実践者が解説と工夫点などを話すワークショップを行った。ファシリテーターは濱亜沙子(日本科学未来館)が務め,「レクチャー型イベント部門」では「科学と音楽の夕べ-生命への視線-」を企画・運営した南波直樹(理研)が,体験・参加型イベント部門では「理科教材マッスルセンサーの開発と教育機関への広報アウトリーチ活動」について小泉周が,出版・Web制作部門では,一般公開のCMなどを商業作品レベルで制作・配信した小林隆司(物質・材料研究機構,以下,NIMS)が,報道・メディア対応部門では,「NHKニュースウォッチ9『NIMS 高度経済成長を支えた実験,世界一へ』」として番組化を実現した兵藤知明(NIMS)がそれぞれ選ばれ,制作の裏舞台を語り,最後に長谷部と筆者も入って総合討論した。

(4) 2012年度:ブース出展および「プロから学ぶ,科学を伝える映像術ワークショップ」

ブース出展では,会員の何名かのプロフィールを掲示し,あまり表に出ることのない広報担当者の実態を知ってもらう場とした。現在研究機関や大学で科学技術広報の仕事を担っているのは,一般事務職員であったり,研究者から転身してきた人であったり,企業広報やジャーナリスティックな仕事の経験がある,主に任期制で雇用されている職員であったり,それぞれの背景が異なる。また,NHKの番組ディレクターから転身した会員の小林隆司を講師に迎えて「プロから学ぶ,科学を伝える映像術ワークショップ」も開催した。

(5) 2013年度:シンポジウム「広報官というお仕事~職業としての科学コミュニケーションはどこへ向かうのか」

さらに一歩進めて,「広報官というお仕事~職業としての科学コミュニケーションはどこへ向かうのか」というシンポジウムをOISTと共催。広報する対象である専門分野についての理解力だけでなく,コミュニケーション能力,実務能力を併せもたなければならない特殊な仕事でありながら,現在は職能であり,職業として成立していない科学技術広報担当者の仕事の現状と行方について考えた。

第1部では,基調講演として,CERN(欧州原子核研究機構)やSLA(スタンフォード線形加速器センター),ITER(国際熱核融合実験炉)という欧米の大型研究施設の広報室長を歴任し,現在OISTで広報担当の副学長を務めるニール・コルダー氏が「サイエンスを伝える―いかに信頼関係を構築するか」と題して,科学技術広報の基礎と概要を語り,英国のサイエンスメディアセンターでプレスオフィサーを務めていたナターシャ・リトル氏が同国のメディア対応事情について話した。続いて,JACSTの会員の中から,長谷部喜八(レコード会社,広告代理店より転身),倉田智子(ポスドクから転身),笹川由紀(農業生物資源研究所,研究支援企業から転身),白井久子(筑波大,一般事務職),助川友之(産総研,一般事務職で広報マネジメント)が,それぞれのバックグラウンドに基づいて,どのように科学技術広報の仕事を実践しているか,また課題や抱負をもっているかについて語った。さらに,事前に科学技術振興機構(JST)科学コミュニケーションセンターと共同で,JACST会員を対象に行ったアンケート調査を筆者が紹介した。このアンケート調査は,当時の会員約100名中44名が回答したものである。性別・年代・年収といった基本的バックグラウンドから,会員の職務形態(トップ3は定年制事務職員,任期制事務職員,定年制研究職員/任期制技術職員・研究補助員),主なキャリア(研究者あるいは事務職がもっとも多い),広報担当になった理由(広報担当を目指してきた人と,たまたま配属された人がほぼ同数で一番多い)のほか,広報以外の仕事もしている人も多く,専門職として確立していないことが明らかになった。また,広報業務の中でもっとも課題が多いと感じているものは国際情報発信であることがわかったため,国際広報についても力を入れて活動していく方向となった。

続く第2部では,広報する人(メディア),広報を依頼する人(研究者),科学コミュニケーションを推進する人がどのように科学技術広報を見ているかを述べてもらうセッションを開催した。ファシリテーターに,研究者とメディアをつなぐ仕事を担うサイエンスメディアセンターの田中幹人氏を,パネリストに,メディアの立場から朝日新聞の勝田敏彦氏,科学技術政策の立場からJST社会技術研究開発センターの渡辺泰司氏,研究者の立場からKEKの千田俊哉氏を迎えて議論を行い,最後に筆者も加わって全体討論を行った。

3.5 ワークショップやシンポジウムの開催

サイエンスアゴラという外部団体の枠ではなく,ワークショップやシンポジウムを自主的に開催する試みも行っている。

まず,2013年に行った調査で,会員間で最大の懸案事項という認識のあった国際科学広報について,2014年の総会で副会長に選出された名取薫を中心とし,2015年3月,OISTにおいて2日間にわたるワークショップを開催(協力:大学研究力強化ネットワーク)した。副学長のニール・コルダー氏の基調講演後,『New Scientist』誌のヴァレリー・ジェイミーソン氏が「What do journalists really want?」,米カリフォルニア大学サンタクルーズ校教授のロブ・イリオン氏が「Training Science Writers: The Professional Pipeline in America」と題して,欧米のメディア事情や科学ライターの育成状況について講演した。続いて,会員の小泉周がモデレーターを務め,会員のユアン・マッカイ(東大),倉田智子,筆者に,大学研究力強化ネットワークから三代川典史氏(広島大学)を迎えて,国内の国際科学広報の現状と課題を討論した。さらに,間接的な広報の手法に関して,まず英文プレスリリースの書き方について会員の今羽右左デイヴィッド甫(京大)が解説し,海外の情報配信サービスを使った経験や広報誌による配信について,会員の平松正顕(国立天文台)と名取薫,理研の大須賀壮氏,ジェンズ・ウィルキンソン氏が語り,情報の受け手である海外メディアから,『Science』誌のデニス・ノーマイル氏がどのように記事を作っているかを語った。直接的な広報手段として,海外イベントの活用やジャーナリストへの個別の訴求について,筆者の経験を話した。最後の総括セッションでは,提言として,国内の広報担当者が戦略的に協働すること,具体的には,実績のある国内外の有識者を招聘(しょうへい)し,年2回進捗(しんちょく)を確認するための会合や実践的なサマースクールの開催,国内の他の科学コミュニケーションの団体との協働などを定めた3)

さらに,2014年に科学技術研究に携わる関係者を震撼(しんかん)させたSTAP問題を受け,研究発表倫理や,広報と報道の在り方を考える場をもつこととし,同年11月に北海道大学物質科学リーディングプログラム(ALP)とともに「研究成果発表のあり方と倫理に関するクローズド・ワークショップ」を主催(共催:北大CoSTEP,筑波大学)。ファシリテーターは,会員の藤吉隆雄(北大ALP)と筆者が行い,前半では発表の在り方を主軸に論じ,「研究発表の倫理:そもそもルールはどうなっているのか」と題して愛知淑徳大学の山崎茂明氏が,「広報方法:なぜクライシスに至ったのか~現場からの考察~」として会員の南波直樹が,「科学技術ジャーナリズム:番犬機能と議題設定機能」として北大CoSTEPの内村直之氏が話題を提供した。後半では,研究倫理に主軸を置き,「研究者の自由:外部から情報提供や見解を求められたら」と題して近畿大学の榎木英介氏,「研究者を育てる:若い研究者への研究指導,発表指導」として早稲田大学の岩崎秀雄氏,「研究機関のガバナンス:独立した研究者の立場と組織の一員の立場」として大阪大学の中村征樹氏が話題提供し,それぞれ総合討論を行い,続く公開シンポジウムに向けた論点を抽出した。公開シンポジウムは2015年の4月に北大で行われ,北大理事・副学長でALPの責任者である新田孝彦氏による基調講演に続き,ファシリテーターとして会員の渡辺政隆を迎え,ワークショップで登壇した中村氏が「事例紹介:研究成果の発表と研究倫理」,会員の南波が「STAP問題から何を学ぶか~広報の視点から~」,榎木氏が「科学の事件は社会からどう見られているか」,岩崎氏が「科学事件と研究現場~一研究者/表現者の立場から~」と題して話題提供,さらに毎日新聞の永山悦子氏が「研究成果を報じる『喜び』と『苦しみ』」について語った。続いて総合パネル討論「研究成果発表を『なぜ』『どのように』行うかを問い直す」では,ファシリテーターの日本科学技術ジャーナリスト会議の小出重幸氏を中心に,岩崎,榎木,永山,南波の各氏に筆者も加わり,研究発表の新たな形や研究者とメディアのかかわり方,広報の役割などについて総合討論し,最後に内村氏が総括した。

4. 今後の展望

JACSTは,会員が所属する研究機関でデザインを仕事としている専門家に依頼して作ったロゴをもっている。科学技術系でよく使われる青ではなく,コミュニケーションを表すというオレンジと,前進を表すという赤を使い,5人の人影を重ねた。科学技術広報担当者として,さまざまな人々をつなぎコミュニケーションを活発にするような仕事をしていきたい,という願いを込めたロゴデザインなのである。

2007年のキックオフシンポジウムにおいて,高柳氏は,広報室を細胞の外と中をつなぐ生体膜のイオンチャンネルにたとえた。研究機関や大学の内外をつなぎ,柔軟に情報の出し入れをするのが広報の仕事なのである。また同氏は,広報の仕事はチームワークであり,チーム全員が自分の作品だといえることが肝心であるとも語っていた。これは,私たちが所属する機関での仕事にも,JACSTの運営にも共通することである。広報担当者が研究活動を下支えする,なくてはならない存在として科学技術の研究活動に貢献できるよう,今後もJACSTの活動を促進していきたい。

謝辞

本会の活動は,立ち上げ人である嶋田庸嗣,浦野亜規,廣江真夏子,神野智世子,目代邦康の各氏,現事務局の長谷部喜八,名取薫,小泉周,倉田智子の各氏,そして本文中に掲載された会員,本文に書ききれなかった多数の会員や関係者の方々に支えられて実現しているものであり,それらの皆さまに深く感謝の意を表する。

執筆者略歴

  • 岡田 小枝子(おかだ さえこ)

日立製作所基礎研究所,医療ライター等を経て,2003年に東京大学理学部広報室で広報担当者としてのキャリアをスタート。2004年に理研に移り,広報誌制作,メディア対応,イベント企画運営など,国内外の種々の広報業務に携わる。2012年に高エネルギー加速器研究機構広報室に移り,2014年より広報室長。

参考文献
 
© 2015 Japan Science and Technology Agency
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