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情報界のトピックス
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2015 年 58 巻 8 号 p. 652-655

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米国の図書館でTorの使用を巡って混乱

ニューハンプシャー州西部に位置する,人口1万3,600人のレバノン市にある,レバノン市公共図書館(Lebanon Public Library: LPL)が今年7月に,図書館の自由を実現するためのイニシアチブ“Library Freedom Project: LFP”と提携して,Web閲覧のプライバシーと匿名性を保護する無料ソフトTor(The Onion Router)を,分館のキルトン公共図書館(Kilton Public Library: KPL)に導入したことが大きな波紋を広げている。米国にはTorをコンピューターにインストールし,利用者が匿名でブラウズすることが可能な図書館は,ニューヨーク市ブルックリン公共図書館など,既にいくつかあるが,Torに接続したサーバーを運営する最初の図書館としてKPLは注目を浴びることになった。しかしその直後に,国土安全保障省(Department of Homeland Security: DHS)から連絡を受けた州警察から,Torは犯罪者に悪用される可能性があるとして中間ノードの中断を迫られ,LPLは当面それに従うことを余儀なくされた。

この件は,プライバシー擁護者,コンピューター科学者,図書館専門家たちの注目を引いた。9月15日に開かれた図書館評議委員会には約50名が足を運び,電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation: EFF),米国図書館協会(American Library Association: ALA),地元のTorサポーターなどのグループの十数名がTorプロジェクト支持を表明した。それに対する反対意見は出ず,図書館評議委員会は導入の決定に至った7月の投票結果を守ることを総意で決定し,その夜のうちにTorの中間リレー(middle relay)は復活した。中間リレーは,サーバーが利用者からのトラフィックを受け付け,他の中間リレーに引き渡すことにより,所在を隠すものであるが,LPLは今後,Torのトラフィックが目的地に到着する前に通過する最終リレーである出口リレー(exit relay)へのグレードアップを計画している。出口リレーはその存在をTorネットワーク全体に公表するので,Tor利用者は誰でも利用することができることになる。

DHSが干渉したとされている件に関して,DHSのスポークスパーソンは,単に状況認識を提供しただけであって,レバノン市警察や図書館にTorサービス停止の要求などをしていないと言明しながらも,「Torブラウザーはそれ自体が非合法ではなく,利用には合法的な目的もある。しかし,Torが提供する保護は犯罪的な事業や行為者を引きつけかねず,DHSは不正活動を促進するために匿名テクノロジーを利用しようとする個々人を追跡し続ける」と述べた。

図書館は公的なインターネットサービスプロバイダーとして,デジタル・ミレニアム著作権法(Digital Millennium Copyright Act: DMCA)の免責条項によって守られており,図書館のコンピューターを通じて行われることに,必ずしも責任を負わされるわけではないと,LFPは説明している。LFPのAlison Macrinaディレクターによれば,DHSとの対決の後,十数の図書館からTorリレーの実施を望む声が寄せられている。

YouTubeでの公正使用に対する米国の控訴審判決

サンフランシスコの米国連邦第9巡回区控訴裁判所が9月15日,公正使用とコンテンツのテイクダウン(削除)の輪郭を変える可能性がある裁定を下した。YouTubeのような企業に著作権侵害の疑いのあるコンテンツの削除を要求する前に,著作権保有者は,公正使用を考慮しなければならないとする判断である。

“dancing baby訴訟”と呼ばれるこの裁判は,2007年,プリンスが歌う“Let's Go Crazy”に合わせて台所で29秒間踊っている幼児のビデオを,母親がYouTubeに投稿したことが発端となった。当時,プリンスの音楽を使用したビデオへのテイクダウン通知を出すため,職員にYouTubeを徹底的に監視させていたUniversal Music Group(UMG)は,デジタルミレニアム著作権法(Digital Millennium Copyright Act: DMCA)に基づき,著作権侵害として,YouTubeへテイクダウン通知を送った。これに対して,不当なテイクダウンに関するテストケースを探していた電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation: EFF)が母親に代わり,DMCAを悪用して法律上正当な公正使用を不当に標的にしたとしてUMGを提訴した。

控訴裁判所が略式裁判(正式事実審理を経ない判決)申し立てを拒否したことにより,母親は損害賠償を求める訴訟の審理を進め,UMGがテイクダウン通知を送ったことが行き過ぎの行為だったかどうかを,裁判所に判断させることが可能になった。3名の判事のうち2名は,UMGはテイクダウン通知を送る前に,ビデオが公正使用かどうかを十分に考慮すべきであったと明言した。またテイクダウンの誤用による被害者は,実際の金銭的損失を示せなければ権利を主張することはできないというUMGの主張も退けられた。

EFFのCorynne McSherry法律ディレクターは,「公正使用の無視が,コンテンツの権利所有者への損害賠償責任を生じさせることを裁判所が認めたことは喜ばしい」と語った。しかし,UMGは訴訟の審理の場で,ビデオが公正使用ではないことを証明する必要はなく,テイクダウン通知を送る前に公正使用を考慮したことを示さなければならないだけということになる。それができない場合,母親に対する名目的損害賠償責任が発生する可能性があるが,問題のビデオは短期間のうちに元に戻されて,現在も見られる状況にあるため,賠償金額は多額にはならないとみられている。UMGを代表して,全米レコード協会(Recording Industry Association of America: RIAA)のスポークスパーソンは,「われわれはDMCAに関する裁判所の結論と,テイクダウン通知を送る前に裁判所が著作権保有者に課す負担には賛成できない。」と述べた。

電子書籍の返却を可能にする英国の消費者保護法

英国が既存の消費者保護法を拡大し,初めてデジタルコンテンツを含めた新しい法律を制定した。新しい消費者保護法(Consumer Rights Act)の下で,10月1日以降に英国でDVDやオンラインフィルムやゲーム,音楽のダウンロード,電子書籍などのデジタルコンテンツを購入した場合,それらに欠陥があることが証明されれば,そのコンテンツを返却し払戻金を受けられる。

払戻金を得られる期間は,購入後30日以内に限られる。しかし,その30日が経過した後に欠陥のあるデジタルコンテンツを,たとえばソフトウェアパッチによる修正,交換を業者に申し入れる期間として,消費者にはさらに5か月与えられている。修正・交換が不首尾に終わった場合,そのコンテンツの利用継続を望む消費者は,払戻金あるいは割引の請求が可能だ。消費者保護法には,公正でない売買条件や,小さな字で書かれた細則の中に隠された売買条件に対して,異議を申し立てるオプションを消費者に与える条項も含まれている。紛争が解決しない場合は,小売業者を裁判に訴えるよりも,裁判外紛争解決手続(Alternative Dispute Resolution: ADR)の手続実施者に調停を依頼することも可能である。

OCLCが目録カードの印刷を終了

世界の17,000図書館をメンバーに持つOCLC(Online Computer Library Center, Inc.)がついに,図書館目録カードの印刷終了を決定した。10月1日午後3時少し前,オハイオ州ダブリン市にあるOCLCの地下作業室で,会長兼CEOのSkip Prichard氏以下,十数名の職員が見守る中で,最後の目録カードが印刷された。OCLCは1971年に世界で初めてオンライン共同分担目録システム(shared cataloging)を構築して,機械可読目録カードの生産を始めた。その後,カードの生産は増加を続け,ピークの1985年には印刷数は1億1,300万枚に達し,4,000パッケージ,重さにして8トンの印刷カードが毎週発送されていた。その後多くの図書館が電子目録に切り替えたため,印刷カードは徐々に減少し,2014年のカードの注文は100万枚以下になっていた。1971年以降に印刷されたカードの総数は19億枚を数える。現在では,圧倒的多数の図書館がOPACか,クラウドベースの図書館管理システムを利用している。最後の印刷カードの発送先はニューヨーク市のConcordia College図書館で,ここではOPACを使用しながらも,これまでの印刷カードをバックアップとして持ち続けてきた。

Google,国立精神衛生研究所所長を招へい

Googleが米国立精神衛生研究所(NIMH)のトーマス・インセル氏を迎えることが,9月15日のNIMHのWebサイトに掲載された同氏の声明で明らかになった。2002年からNIMH所長を務めてきたインセル氏は11月に退任し,Google(厳密には持ち株会社のAlphabet)のライフサイエンスチームに加わる。Googleのライフサイエンスチームは現在,血糖値モニターを内蔵したコンタクトレンズなど,病気の早期発見や予防,病状の改善などを可能にするテクノロジーの開発を行っており,インセル氏はこの取り組みをメンタルヘルスの分野に広げる予定だ。

「コンテンツ緊急電子化事業」未配信書籍が問題に

会計検査院は10月2日,経済産業省が「コンテンツ緊急電子化事業」で電子化した書籍約6万5,000冊のうち少なくとも約1,700冊が配信できない状況になっているとする調査結果を公表し,改善処置を要求した。「コンテンツ緊急電子化事業」は電子書籍市場の活性化とともに,被災地域における知へのアクセスの向上,新規事業創出や雇用促進などを目的とするもので,復興予算から約10億円の補助金が交付されている。日本出版インフラセンターが受託し,出版社からの事務手続きの窓口となっている。会計検査院によると,同事業では電子書籍の配信が要件とされていないため,電子化された書籍6万4,833件の配信状況が把握されていなかった。調査を求めた結果,1,687件は出版社が著作権者の許諾を得ていないなどの理由で,配信ができない状態になっていることが明らかになった。さらに電子化した書籍の7割に当たる,4万6,350件は出版社からの回答がなく,配信状況が確認できていない。会計検査院は経済産業省に対して,著作権の許諾を得るなどして配信が可能になるように日本出版インフラセンターへ指示し,電子書籍の流通の促進が図られるよう改善処置を要求している。

Facebook,「いいね!」以外のボタンを検討中

Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOは9月15日,「いいね!」(Like)以外のボタンに取り組み中であると初めて明らかにした。これは同社で開催された「Q&A with Mark」というイベントで,「『いいね!』ボタン以外のオプションも付けてくれませんか」という一般ユーザーからの質問に答えたもの。そうしたボタンへの要望は多くのユーザーから寄せられており,単に「いいね!」の反対の「Dislike(よくないね)」ではなく,悲しい投稿やつらい投稿に共感を示すためのボタンになるとしている。

 
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