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集会報告
集会報告 researchmap シンポジウム 2015 自らの強み・特色を知るために~これからの大学のIRとは?~
白石 淳子堀内 美穂
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2015 年 58 巻 9 号 p. 713-715

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  • 日程   2015年9月16日(水)
  • 場所   東京都千代田区一ツ橋2-1-2 一橋大学一橋講堂
  • 主催   科学技術振興機構,情報・システム研究機構
  • 後援   大学IRコンソーシアム

1. はじめに

researchmapは,科学技術振興機構(JST)が提供するサービスで,日本で研究活動を行っている研究者および海外で研究活動を行っている日本人研究者に業績情報を登録いただき,それらをインターネットを通じて提供している。JSTのReaDと国立情報学研究所(NII)のResearchmapを統合し,2011年11月にReaD&Researchmapとしてサービスを開始した。2014年4月に,現在のサービス名称であるresearchmapに変更し,現在に至っている。

今回,「自らの強み・特色を知るために」と題してシンポジウムを開催した。その背景として,現在,わが国の大学等では,研究マネジメント人材であるURA(リサーチ・アドミニストレーター)の育成が進められていること,また大学IR(Institutional Research)の重要性が今後さらに高まると思われる状況がある。本シンポジウムでは,前述の状況の全体像と,研究IRの方向性や各大学に配置されたURA活動など,今後のあり方について取り上げた。また,JSTが保有する情報資産を活用した新たな情報分析基盤,およびresearchmapを活用した融合研究促進・産学連携などのコーディネーション,研究力分析機能等の有効性などを紹介した。

後援いただいた大学IRコンソーシアム様には,この場を借りて厚く御礼申し上げる。

図1 JST理事長(現 特別主監)中村道治の挨拶

2. 発表内容

(1) 基調講演「IRの原本原理とその活用」:同志社大学 学習支援・教育開発センター所長,同大学社会学部教育文化学科 山田礼子教授

高等教育の質保証という観点から,IRの定義や世界のIRの状況,教学IRの日本での状況について発表があった。質の保証を行うには,エビデンスベースで評価することが必要であり,データの一元化と管理,学内の各部門が一体となって推進する必要があること,すでに世界ではさまざまな質保証の取り組みがなされていることを述べた。また,連携している大学間におけるIRネットワークシステムとして大学IRコンソーシアムについての紹介があった。

(2) 講演「大学IRに必要なこと-目的・体制・スキル」:東京工業大学 情報活用IR室 森雅生教授

大学でIRを進めていくうえで必要な実践的なスキルや知識,経験について語った。教育や研究活動の質保証については,データ分析に基づく評価と改善が必要であること,また大学のIRを進めていくにあたっては,情報処理,統計解析,行政論や教育学のスキルが必要ではないかと述べた。

(3) 講演「科学技術イノベーション政策の枠組みと政策マネジメント・システム」:文部科学省科学技術・学術政策局 企画評価課 赤池伸一分析官

科学技術基本計画と科学技術イノベーション総合戦略の成り立ちや方針について,4期20年にわたる科学技術基本計画からの政策マネジメント・システムの構築について発表があった。また,科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業(SciREX)の概要の紹介,情報基盤となる各種データベースの中核としてresearchmapが果たす役割について述べた。

(4) 講演「JSTにおける情報分析と活用について」:科学技術振興機構 情報企画部 調査役 黒沢努

JSTでは,日本の研究開発成果にかかわる文献,特許,研究課題,研究者情報を多数保有しており,これらの情報に基づいて戦略策定(政策,研究開発等),研究開発投資成果パフォーマンス把握,大学や企業等の研究活動に活用できる情報基盤の整備を進めていることを紹介した。また,企業の研究動向や異業種連携,萌芽領域の導出の分析事例を示した。今後,これらの事例を蓄積し政策研究者等の連携を行い,多様な分析ニーズに応える情報基盤の整備を進めていく予定である。

(5) 講演「researchmapの概要と分析ツールの紹介」:国立情報学研究所 社会共有知研究センター 新井紀子センター長

Researchmapおよびresearchmapの開発者としての立場から,これまでの歴史,何を基軸にどのような目標に向かって開発を行ってきたか,researchmapに研究業績を集約することで,どのようなメリットを受けるかを述べた。さらに,各機関が自学の研究者の業績をダウンロードし分析するための支援ツールについて発表があった。

(6) 講演「地方創生・産学連携への取組み事例について:情報基盤を活用した研究シーズと企業の求める研究ニーズのマッチングシステム」:徳島大学 研究支援・産官学連携センター 荒木寛幸特任准教授

荒木特任准教授の開発した産学連携支援マッチング情報システム「MATCI: Matching system for Academia Technology Collaboration with Industry,マッチ」は,四国地区国立五大学(徳島大学,高知大学,鳴門教育大学,愛媛大学,香川大学)の研究情報を集めて整理し,研究者の研究情報(研究シーズ)と,企業の求める研究ニーズ,技術をマッチングできること,研究者と企業をマッチングすることで,新規事業の展開や製品開発などに結びつけられることを発表した。MATCIを利用した企業との協働の取り組み事例として,すでに共同研究が3件成立していると報告があった。

(7) 総括セッション:モデレーター 国立情報学研究所 社会共有知研究センター 新井紀子センター長

総括セッションでは,質問票に基づく質疑応答が行われた。researchmapへの要望や外部データベースとの連携状況について,またIR,評価指標,分析ツールなどについて,講演者の先生方と質問者との間で至極活発なやりとりが続いた。さらに閉会後,講演者と自由に話すアフタートークの時間を設けたことが,参加者と講演者の交流促進につながった。

図2 会場内の様子
図3 JST執行役(現 副理事)加藤治彦の挨拶

3. おわりに

researchmapは,約24万人の研究者情報を有する情報基盤として,研究者総覧としての役割を超えて,分析基盤となる可能性をも秘めている。これらのデータの網羅性,正確性が向上することで,大学等はまさに「自らの強み・特色を知る」ことができる。本シンポジウムを契機として,より一層大学とresearchmapの連携が深まることが期待される。

2013年に開催した同シンポジウムでは,researchmapの活用方法に主眼を置いていたが,今回のシンポジウムでは,さらに一歩進んだ活用について紹介できたものと思う。IRをテーマとしたことで,機関の研究者情報の担当者のみではなく,IRやURAの担当の方にも多数参加いただくことができた。当日のアンケートによると,これまでresearchmapについて「使ったことがない」「知らなかった」方は合わせて44%だったが,本シンポジウムによりresearchmapおよびJSTの情報資産について知っていただけたことは主催者として喜びである。シンポジウム終了後,多数の反響を得ており,研究者や機関の方々の期待に応えるサービス提供について,引き続き努力していきたい。

(科学技術振興機構 白石淳子,堀内美穂)

 
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