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集会報告
集会報告 Code4Lib JAPAN カンファレンス 2015
稲永 晶子
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2015 年 58 巻 9 号 p. 716-718

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  • 日程   2015年9月5日(土)~6日(日)
  • 場所   リクルート本社 アカデミーホール
  • 主催   Code4Lib JAPAN
  • 協賛   DAYPLA株式会社,株式会社アイキューム,アカデミック・リソース・ガイド株式会社,Project Next-L
  • 後援   公益社団法人 日本図書館協会,情報知識学会,大学図書館問題研究会

はじめに

Code4Libは,米国を中心に活動する図書館関係のプログラマー,システム技術者を中心としたコミュニティーであり,Code4Lib JAPANはその日本支部となることを目指す団体である。カンファレンスの開催は2013年度の南三陸,2014年度の鯖江に続き,3回目の開催となる。今回のカンファレンスのイントロダクションで,本カンファレンス実行委員の1人である江草由佳氏より日本でのカンファレンス開催の動機について話があり,米国で参加したCode4Libがとても有意義で,活気にあふれるものであったことから,ぜひ日本での開催を熱望したと語った。

アメリカのCode4Libは,図書館の情報技術活用に関するエキスパートたちの集まりであるが,Code4Lib JAPANでは,エキスパートに限らず,一般のライブラリアンに広く門戸を開放している。その目的は図書館における情報技術活用を促進しつつ,最終的に目指すところは図書館の機能向上と利用者の図書館に対する満足度向上である。

1. 基調講演

基調講演は有限会社スコレックス取締役の小林龍生氏による「未来の書物への夢想またはもうひとつのハイパーテキスト論」であった。

『現代思想』『エピステーメー』などを創刊した伝説の名編集者中野幹隆の功績を通して,今後の電子書籍の在り方について講演があった。前半は中野氏と小林氏のかかわりと,2人が手掛けた新約聖書のハイパーテキスト化による電子聖書の作成を語った。電子聖書の作成を一つの研究として発表する際に,芥川龍之介の『藪の中』もハイパーテキスト化した経緯について述べた。ハイパーテキスト化することで,テキストは立体化され,物語を構造的にとらえ直すことができる。

後半はEPUB等の電子書籍の様式の定義から始まり,小林氏にとっての本を書く,本を作るということについての持論が展開された。制作者の村田真氏によると,EPUBは「HTMLとCSSをzipで固めたもの」である。EPUBとWebの違いは「spine情報」であるが,この「spine情報」が本における「製本」の役割を果たしている1)。現在においては「書く」ことの特権性は薄まりつつあり,本を「書く」ことは「読む」と同じになってきており,テキストを「読む」軌跡が本を「編む」ということになるのではないかと述べた。本とは,ある読者が複数の記事を読んだ軌跡であり,つまり誰でも本が書ける,書いているということである。最後に小林氏が,現在執筆中の「EPUB戦記」についても触れ,質疑応答での「ぜひCC BYで公開してほしい」との声に,紙媒体で発行後,差し障りのある部分のみ変更したうえで電子版として公開予定であると答えた。

2. その他のプログラム

基調講演に次ぐ協賛団体のセッションの後,20分程度のプレゼンテーションに続き,ライトニングトークと呼ばれる,5分程度の短いプレゼンテーションが多数行われた(12)。1日目と2日目の発表題目については12のとおりである。プログラムの合間の休憩時間は昼食時間も含めてすべて長めに設定されており,実行委員側から休憩時間に周りの人と名刺交換をしてほしいと声掛けがなされ,今回のカンファレンスが発表の場だけでなく,交流の場にもなっていた。

また,ライトニングトークはあえてかなり余裕をもったタイムスケジュールが組まれていて,当日も申し込み可能な状態にしてある。発表者のライトニングトークを聞いてその気になった参加者(実行委員いわく「ムラムラきた」参加者)はその場で手を挙げ登壇できるので,当日はどんどん手が挙がり,大変活気があった。海外からの登壇者や,1日目に発表されたシステムを使い試してみたことを2日目に発表する登壇者もおり,参加者が聞いているだけではないインタラクティブなカンファレンスになっていた。

個人的に気になったのは共立女子大学の森美由紀氏の「LINE@活用事例」のライトニングトークである。誰もが知っているなじみのあるツールでのユニークな広報手段に関する報告発表で,自機関でも利用できそうな事例だった。また,山中湖情報創造館の新人スタッフロボット,ペッパー図書館員の挨拶動画には参加者の中から歓声が上がっていた。9月のシルバーウイークから勤務予定とのことで,ぜひ会いに行きたい。その他にもWikipedia Town,Linked Dataについての話題は旬で,ライトニングトークにも何度か登場していた。

表1 Code4Lib JAPAN カンファレンス 2015 発表一覧(1日目)注1)
1 基調講演
 1.1 基調講演「未来の書物への夢想またはもうひとつのハイパーテキスト論」(小林 龍生氏(有限会社スコレックス))
2 協賛団体セッション
 2.1 Project Next-L 「Next-L Enju Leaf 1.1.0 リリースに向けて」(田辺 浩介(物質・材料研究機構))
3 通常発表
 3.1 NDLラボサーチ ~軽快なディスカバリーサービスと実験的機能の紹介(池田 光雪(国立国会図書館))
 3.2 NDCのLinked Data、あなたならどう使う?(福山 樹里(国立国会図書館))
 3.3 電子ジャーナルリスト徹底活用法 - 楽しい電子ジャーナル管理のために(田辺 浩介(物質・材料研究機構))
 3.4 学生からの回答を元に誤りパターンを蓄積することで成長する自習用教材の開発(原田 隆史(同志社大学))
4 ライトニングトーク
 4.1 ライブラリアンによるWikipedia Town、Wikipedia ARTSへの支援(是住 久美子)
 4.2 デジタル化されていないアナログなマイクロ資料が、あたかもデジタル資料のごとく利用できる「マイクロ資料遠隔閲覧サービス」の紹介(安東 正玄(立命館大学))
 4.3 フロアガイドに記されるテキストの分析―都道府県立図書館編(阿児 雄之(東京工業大学))
 4.4 動画ベースのナレッジ集積システム(VIOCK)を応用した学習支援サービスについて(田邊 稔(エムエムツインズ))
 4.5 地域資料収集システムについて(粟津 美晴(福生市立中央図書館))
 4.6 SLiMS : Integrated Library System with style! (Arie Nugraha (University of Indonesia))
 4.7 こんにちは、山中湖のペッパーです。(丸山 高弘(山中湖情報創造館))
 4.8 第3のCiNii、そして...(大向 一輝(国立情報学研究所))
 4.9 フリーソフトで高精細画像公開+IIIF(永崎 研宣)
 4.10 NDC Linked Dataプロジェクトを熱烈に応援しよう(原田 隆史(同志社大学))
表2 Code4Lib JAPAN カンファレンス 2015 発表一覧(2日目)注1)
3 通常発表
 3.5 図書館の大規模データ処理に「Google BigQuery」を使ってみよう(吉本 龍司(カーリル))
 3.6 ウィキペディアを介してまちと図書館をつなぐ試み「ウィキペディア・タウン」(小林 巌生(リンクト・オープン・データ・イニシアティブ))
 3.7 ビブリオバトルLOD : ビブリオバトルイベント情報と書誌情報のリンキング(常川 真央(筑波大学))
 3.8 Yet Another IRDB: 新たな機関リポジトリ分析システムの提案(吉川 次郎(筑波大学))
 3.9 図書館での全文検索サービスに向けての点描とそれがもたらし得る可能性(永崎 研宣)
 3.10 iBeaconを用いた大学図書館の利用者行動調査:千葉大学附属図書館での実証実験(小野 永貴(千葉大学))
4 ライトニングトーク
 4.11 OSS資料管理システムkassis orangeのご紹介(中村 晃史)
 4.12 全国の図書館イベントが一括で見られるWebサイトの構築について(北村 志麻(図書館パートナーズ))
 4.13 時代を翔ける曲と風景を流せるソフトの開発(山島 一浩)
 4.14 コードを一行も書かないでオープンソースプロジェクトに貢献する方法 -- オープンソース図書館システムNext-L Enju の経験から --(江草 由佳(国立教育政策研究所))
 4.15 紙/電子和雑誌 所蔵雑誌評価分析支援ツール 構想(伊藤 民雄)
 4.16 LINE@活用事例(森 美由紀(共立女子大学))
 4.17 あのデータベースは今(天野 絵里子(京都大学))
 4.18 Pustakawan: Web-based Pathfinder (Arie Nugraha (University of Indonesia))
 4.19 Linked Data Cloudの話(加藤 文彦(情報・システム研究機構))
 4.20 JuNii2 Validator(高久 雅生(筑波大学))
 4.21 オープンソースの図書館システムSLiMSをインストールして、Haikaと連携してみた(吉本 龍司(カーリル))

3. 全体としての個人的所見

カンファレンスに参加する前に感じていた大きな不安の1つとして,「Code4Libってプログラミングする人が行くものだ」「システム系でない図書館員が参加してよいのだろうか」というものがあった。だが,1日目から周りの人に聞いてみたところ,システム構築や運営が主業務ではない図書館職員が多く参加しているようだった。またプレゼンテーション,ライトニングトークの内容もシステムに終始した話題というよりは,システムを通して図書館の機能向上のために何ができるのか考えさせられるものが多く,プログラミングができない,コードが書けない参加者にも有意義なカンファレンスになっていたと感じた。

特に江草氏のライトニングトーク「コードを一行も書かないでオープンソースプロジェクトに貢献する方法――オープンソース図書館システム Next-L Enju の経験から――」は,今回,プログラムが書けなくても参加した方々への仕事のやり方についての応援メッセージで,プログラマーにみられる性質に途中で笑いが起きていたが,非プログラマーの参加者にとってこれは一番勇気付けられる内容だったかと思う。

今回の講演,発表内容のほとんどはスライド,動画が公式Wikiページ上で公開されている。参加を希望しつつも二の足を踏んでいる方は,ぜひ記録をチェックして来年の参加に備えてみてもよいかもしれない。

(九州大学附属図書館伊都図書館 稲永晶子)

本文の注
注1)  Code4Lib JAPAN カンファレンス 2015 発表プログラム http://wiki.code4lib.jp/wiki/C4ljp2015/program

参考文献
 
© 2015 Japan Science and Technology Agency
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