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永続的識別子“DOI”の多様な活用状況:2015年DOIアウトリーチ会議in東京からの示唆
余頃 祐介
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2016 年 59 巻 1 号 p. 43-52

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著者抄録

2015年のDOIアウトリーチ会議は,ジャパンリンクセンターのホストにより東京で2015年12月3日に開催された。そこでは,「研究データへのDOI登録実験プロジェクト」の最終報告に加えて,海外のDOI登録機関から日本のコミュニティーに対して,そのユースケースを交えたDOI登録のメリット,DOI登録対象の多様性について紹介があった。

1. はじめに

DOIアウトリーチ会議は,国際DOI財団(International DOI Foundation: IDF)が,DOI(Digital Object Identifier)の普及を目的として,毎年冬季に,世界各地で開催しているイベントである。2013年は台北および北京で,2014年はイタリアのミラノで1)開催され,いずれも大成功を収めた。

そして,2015年のDOIアウトリーチ会議は,わが国で唯一のDOI登録機関(Registration Agency: RA)であるジャパンリンクセンター(Japan Link Center: JaLC)のホストにより,12月3日,JST東京本部(東京都千代田区)で開催された。日本国内の研究機関,大学図書館,出版社,システムベンダーなどから,100名を超える方々にお越しいただいた(1)。

JaLCは,2012年3月15日に国際DOI財団から,日本で唯一のDOI登録機関に認定された注1)。JaLCを設立した目的は,日本発の学術コンテンツの書誌情報を網羅的に収集することによって日本国内の利活用を促すとともに,世界から日本の研究成果へのアクセス環境を向上することにある2)。それ以来,国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST),国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS),大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII),国立国会図書館(NDL)の4つの学術機関が共同で運営しており,JSTがその事務局を務めている。

図1 2015年DOIアウトリーチ会議の様子

2. 講演概要

2.1 Introduction to DOI: Norman Paskin(IDF)

IDFは1998年に創設され,2000年頃からDOI登録に関して実質的に活動を開始した。現在,DOI登録件数は1億2,000万件に上り,DOI解決(レゾリューション)注2)数も年間20億回に達している。DOI登録はDOI登録機関によって行われており,現在,世界では9つのDOI登録機関が活動している。日本では,JaLCがその役割を担っている。

IDFは技術的なインフラ(Technical infrastructure),および社会的インフラ(Social infrastructure)を提供している。技術的インフラの提供とは,DOI解決や持続性を確保することである。また,社会的インフラの提供とは,永続性を確保するための義務などのポリシーの制定や,DOI登録機関における共通の問題の検討,ISOなど外部の標準化団体との調整,その他の識別子との連携などである。これらを取りまとめたDOI Handbook3)は,英語版の他に,中国語版,韓国語版,日本語版4)を用意している。DOI登録機関はこれにのっとってDOI登録実務を行う。これら共通インフラを運用するための経費は,DOI登録機関がIDFの年会費として負担している。

DOIはさまざまな分野に活用されている。DOIの第1のアプリケーションは,学術論文であり,現在,登録されているDOIの大半を占める。他方,後述する,EIDR(Entertainment Identifier Registry)は,映画やテレビ番組などのエンターテインメントのコンテンツに対してDOIを登録している。また,mEDRA(multilingual European DOI Registration Agency)では権利管理にも利用している。

講演は,3つのセッションにより構成された注3)注5)

2.2 Session 1

2.2.1 「研究データへのDOI登録実験プロジェクト」最終報告:武田英明(ジャパンリンクセンター運営委員会)

2014年12月にリリースしたJaLCの新システムでは,これまでのジャーナル論文に加えて,書籍,研究データ,eラーニングにもDOIを登録できるようになった5)。おのおののメタデータスキーマもシステム開発段階で用意した。しかしながら,研究データについてメタデータやデータの利活用にどのようなニーズがあるのかを考えるべく,2014年10月から2015年9月にかけて,「研究データへのDOI登録実験プロジェクト」6)を実施してきた。プロジェクトの成果物として,「研究データへのDOI登録ガイドライン」7)を取りまとめ日本語版と英語版8)とをJaLCのWebサイトで公開している。

参加機関は公募によって募集し,14の機関から9プロジェクトが参加した(2)。日本国内で研究データにかかわる大部分の機関に入っていただいた。1か月半に1回程度,計8回ミーティングを行い,かなり密に議論をしてきた。さまざまな研究分野の方々に参加していただき,研究分野によってデータの取り扱いが多様であることがわかった。

研究データへのDOI登録については,機関内でのレビューを経て,必要なものだけにDOIを登録するべきと考える機関もあれば,研究者個人が自由にDOIを登録する機関もある。

誰が,いつ,どのようにDOIを登録するのかも研究分野により多様であった。これまでJaLCが取り扱ってきた学術論文の場合は,研究者が論文を書いて,出版社がメタデータを作りDOIを登録するという流れであった(3)。機関リポジトリであれば,同様に論文を執筆するところまでは研究者がやるが,その後のメタデータ作成とDOI登録は大学図書館が行う(4)。このように,学術論文へのDOI登録フローでは,研究者と出版社あるいは大学図書館との役割分担がはっきりしていた。他方,研究データとなると多様なステークホルダーが存在しており,それらが複雑に絡み合っている。たとえば,図書館がメタデータを作ってくれる場合もあるし,プロジェクトがメタデータを作ってその登録までやるかもしれない,あるいは,研究機関そのものが組織的に関与するケースもありうる。いろいろな関与の仕方があって,それぞれのステークホルダーがどの行為をするのかというのはプロジェクトによって違ってくる(5)。

また,研究データは,存続期間の定めのあるプロジェクトから生み出されることが多いので誰が責任をもってDOIの永続性(persistent access)を確保するのかということを議論した。JaLCの会員は,原則としては研究所や大学のような組織である。期間限定のプロジェクト自体が会員にはならない。プロジェクトを主催する機関が単体の場合は,その機関がJaLCの会員となり責任をもってDOI登録をすることとした。プロジェクト終了後は誰かが責任をもってほしい,それはプロジェクトが始まる前から決めておいてほしいという趣旨である。複数機関から構成されるプロジェクトの場合は,各構成機関のJaLCの会員資格でDOIを登録することとし,DOI prefixは,それぞれの機関に固有のものを払い出すこととした。これにより,プロジェクト終了後は,各構成機関固有のDOI prefixのままで管理し続けられるようになる。ただし,このようにプロジェクト由来の研究データにDOIを登録するためのDOI prefixを申請する際には,事務局にプロジェクト名と代表機関とを通知して,事務局が把握できる体制を構築した。

そのほか,DOIを登録する研究データの粒度,観測が継続的に行われる場合など,追加・更新が動的に発生するデータセットの取り扱い,DOIのlanding pageの記載事項などについても議論を重ねた。詳細は誌面の都合上,「ガイドライン」の記載に譲ることとする。

ここまで紹介してきたように,研究データへのDOI登録について,そのリコメンデーションをガイドラインとして提示した。どういうタイプのデータに,誰がいつどのようにDOIを登録するのかについて,JaLCとして持続性を確保できるように最小限の要求を定めるにとどまり,後は,それぞれのプロジェクトごとに検討をして,DOI登録ポリシーをそれぞれで決めることとした。各機関のデータマネジメントポリシーに連携して定めるものであって,データそのもののマネジメントポリシーとは別である。

図2 「研究データへのDOI登録実験プロジェクト」参加機関
図3 DOI登録フロー(学術論文の場合)
図4 DOI登録フロー(機関リポジトリの場合)
図5 DOI登録フロー(研究データの場合)

2.2.2 研究データにDOIを登録しているDOI登録機関によるショートトーク

1) 「DataCite」Patricia Cruse

DataCiteは,2009年に設立された国際機関である。正会員が24機関,準会員が8機関で,アジアからは,JaLCとKISTIが正会員となっている。

そのミッションは,研究データへの容易なアクセス,研究データの学術記録における正当な寄与,データのアーカイブ化支援,研究結果の検証可能化,将来の研究における研究データの再利用である。現在のところ,700万件近いデータセットにDOIを登録している。そのうち34%は,直近の1年間に登録されたものであり昨今,データ共有に関する理解が浸透してきたことの表れである。

研究者は,「時間がない」「データが整理されていないため他人が見てもわからない」「データ共有により,研究内容を誤解されてしまう可能性があるから共有できない」など,主張することが多い。そのため研究者に対しては,「データ出版をすることで世界中に名が知れ渡り有名になれる」「賞を受賞できるかもしれない」「引用を追跡することで,研究のインパクトの測定も可能になる」といったメリットを伝えている。

最近の活動として注目すべきは,THOR(Technical and Human infrastructure for Open Research)プロジェクトで,DataCite,ORCID,PANGAEA,英国図書館(British Library),CERN,EMBL-EBI,ANDS(Australian National Data Service),DRYAD,Elservier,PLOSがメンバーとなりHorizon2020の下でEUにより設立されたプロジェクトである。研究データに対するPIDsであるDOIと,研究者に対する永続的識別子(Persistent Identifier: PID)であるORCID IDとの結合,論文著者へのクレジットの付与,研究の再現性のサポートを目指している。

現在では各プラットフォームの統合や,そのためのメタデータスキーマの作成といった課題の検討を行っている。その後ワークフローを定めて,ツールを作成する予定である。さらに組織や,プロジェクトにもDOIを登録して,プロジェクトに関係する研究データも一括して検索できるようにする予定である。そうすることにより,たとえば米国の資金配分機関であるNSF(National Science Foundation:米国国立科学財団)は,THORプロジェクトを通じて,研究資金提供をした研究に由来した研究成果(たとえば論文や研究データ,特許など)を調べられるようになる。

2) 「Wanfang Data」Development of Data DOI in China: Qiao Xiaodong

中国のDOI登録機関であるISTIC(Institute of Scientific and Technical Information of China:中国科学技術情報研究所)では,約2,300万件のDOIを登録しており,そのうち研究データへのDOI登録は2008年から開始し,国内の20の学術機関が現在約1万6,000件のDOIを登録している。研究データの種類としては,乳酸菌の種,環境データ,地学情報や,医薬データなどである。また,論文にひも付く写真や図表などにもDOIを登録している。

中国では政策レベルでデータシェアリングや再利用に力を入れている。研究機関もその推進のため,独自のデータセンターを構築しているが,研究者は自分の研究データを積極的には共有したがらない。なぜならば,それらに対する知的財産権による保護が不明確であったり,データ取得に対する寄与への評価が十分ではなかったりするためである。

3) 「Crossref」Registering DOIs for Research Data: Chuck Koscher

Crossrefでは,現在,データに約110万件のDOIを登録している。しかしここでは,「研究データ」と,「その他のデータ」との違いを意識する必要がある。「研究データ」は,生の研究をするための,いわば原材料であり,論文を書くための基盤となるものである。一方「その他のデータ」は,研究のための原材料ではない。Crossrefでは,「その他のデータ」を中心に,DOIの登録を行っている。

たとえば,OECDのStatLinkという経済・財務のデータベースにDOI(10.1787/OECDStatlinks)が登録されていたり,個々の統計データそのものにもDOI(10.1787/888933292750)が登録されていたりする。また,米国のNamesforLifeでは,生物の種別に対するIDとしてCrossref DOIを活用している(例:10.1601/tx.25474)。このようにCrossrefでは,書籍でもジャーナル論文でもないものについて,データとしてDOIの登録を行っている。

2.2.3 質疑応答

15分間の質疑応答が行われた。まずは,「諸外国のDOI登録機関における,データを登録する人へのインセンティブ提示の状況について」の質問があった。これに対してDataCiteからは,xmlによる登録だけでなくWebフォーム入力による登録も可能とするなどDOIを容易に取得できるようにしている。またElsevier社のScienceDirectなどのジャーナルプラットフォームと連携して,論文に引用されるデータセットの情報(海洋データの場合,そのデータが取得された場所の地図)を表示するなど,雑誌論文とデータセットとをつなぎ,パーツをまとめることにより引用されやすくなり,研究者の功績が認められやすくなると説明をしているとの回答があった。

第2に,Crossrefから紹介されたデータへのDOI登録について,「DOIの解決先がDOIのlanding pageではなく,いきなりExcelファイルという例があり,DOIの解決先について,IDFでの取り決めやDOI登録機関ごとの決まりがあるのか」といった質問があった。Crossrefからは,IDFとして確立されたルールはなく,データを登録する人がどのように使ってもらいたいかによると回答があった。また,DataCiteからは,そのデータの使い方をそのコミュニティーがどのように考えているかによるが,そのDOIが削除された場合には,このDOIは削除されましたというDOIの削除ページ(tombstone page:墓石ページ)に飛ばすようにし,ユーザーが共通の経験をできるようにしているとの回答があった。さらに,JaLCからは,研究データへのDOI登録実験プロジェクトの中で,landing pageを作るように強く推奨をすることにしたとの回答があった。

第3に,「DOIを削除する場合や,データを統合して新たなデータセットを作成した場合のDOIの取り扱い」について質問があった。DataCiteから,DOIは永続性が必要であるので,登録したDOIは原則として削除しないとしており,たとえデータを削除したとしても,landing pageは残しておき,データが削除された旨を記述しておくことにしているとの回答があった。加えて,どうしても消さなければならない場合は,DOIの削除ページに導くこととしているとのことであった。

2.3 Session2 DOIを登録することによるメリット:海外のDOI登録機関によるユースケースの紹介

2.3.1 「Crossref」Advantage of registering DOIs: The key to metadata applications: Chuck Koscher

Crossrefの最大の特徴は,世界中から多くの出版社等が参加し,Crossrefを介してさまざまなコミュニティーに対してメタデータを提供していることである。当初から収集してきた著者名やタイトルなどの基本的なメタデータが,現在のCrossref発展の礎となっている。時代が進み,引用文献や研究資金提供者,ORCID,CrossMark,ライセンス情報などの新しい態様のメタデータも収集しはじめた。これらのメタデータを活用し,引用文献リンク,被引用文献リンク,研究資金提供者情報の提供,ORCIDのbiography情報への自動アップデート,DOI Event Trackingなど,さまざまな付加的なサービスも提供している。

2.3.2 「EIDR」Overview: Raymond Drewry

EIDRは,映画やテレビ番組を専門にDOIを登録する機関である。オーディオビジュアル業界で効果的・効率的なコンテンツ配信の支援を目的としている。会員としては,Disneyなどのコンテンツ制作者,NETFLIXなどのコンテンツ配給者,Adobeなどの技術的なインフラ提供会社,映像コンテンツに関する標準化団体などである。

データモデルについては,まずは映画のタイトルそのものにDOIが登録され,その劇場版(Theatrical),地域によった検閲版(Regional Censored Cut),短編・長編などのDirector's Cutさらに,それぞれの言語バージョンごとに固有のDOIを登録している。この情報や,関連コンテンツの情報はメタデータに記述され整理されている。6は,『となりのトトロ』の例である。1つの『となりのトトロ』でも,4種類のDOIが登録されていることがわかる。

これまでワーナー・ブラザース(Warner Bros.)のコンテンツをXboxに配信する際の手続きは,電話やeメール,Excelシートなどで行われてきたが,膨大に時間がかかるうえにミスも頻発していた。そこで,信頼できる識別子であるDOIで,対象を一意に定めることにより,ミスを起こすことなく着実・効率的に業務を行えるようになった。従来は50時間ほどかかっていた仕事が15分程度で済むようになった。

図6 『となりのトトロ』に対するDOI登録

2.3.3 「mEDRA」Advantages of registering DOIs: rights management, Context Aware Multiple Resolution: Paola Mazzucchi

mEDRAは,イタリアのミラノに所在し,欧州をマーケットにして活動をしている。母体はイタリア出版社連盟であることもあり,DOIを利用した権利管理のドメインでのサービスに特徴を有する。mEDRAでは,メタデータの収集の際に,権利情報も収集し,コンテンツとライセンシングサービスとをDOIにより結び付けている。ユーザーがDOIをレゾリューション注2)すると,そのlanding pageにおいて,コンテンツを閲覧するか,書誌情報を含んだメタ情報を閲覧するか,ライセンシングサービスを利用するかを選択することができる。これはmEDRAが提供している最新のサービスであり,Rights aware resolutionと呼んでいる。ライセンシングサービスは独占的なものではないので,ユーザーは複数のサービスの中から,インターネット上でライセンスを取得(購入)することができる。

2.4 Session3 多様化するDOI登録対象

2.4.1 国立国会図書館におけるDOI付与の取り組み:伊東敦子(国立国会図書館)

日本国内の博士論文は国立国会図書館(NDL)の他,学位を授与した大学の図書館などに所蔵されている。NDLでは,1923年9月以降の国内博士論文の約57万人分を所蔵している。2013年3月までは印刷物で収集してきた。2013年4月に博士における学位授与のルールを定めた学位規則が改正され,博士論文は原則として学位を授与した大学によりインターネット等によって公開されることとなった。それに伴ってNDLでも電子版博士論文の収集を行うことになり,これまでに約1万点を収集した。これらに対するDOI登録は大学が行っている。一方,1991年から2000年までにNDLが収集した博士論文の約14万件をデジタル化し,DOIを登録した(例:http://doi.org/10.11501/3162461)。

国立国会図書館は,江戸時代以前(~1868年)の和古書,清代以前(~1911年)の漢籍,1830年以前の洋古書を古典籍資料として,約28万点を所蔵している。現在では,このうち約9万点のデジタル化を終了しており,それらにDOIを登録している。この中で最も古い資料は,天平12年(740年)に出版された『集一切福徳三昧経(じゅういっさいふくとくざんまいきょう)』である(http://doi.org/10.11501/1286980)(7)。

古典籍資料では,紙に書かれた情報だけでなく箱書きも重要な情報となる。蘭山(らんざん)翁画像(国指定重要文化財)では,箱のデジタル画像データとともにDOIを登録している(http://doi.org/10.11501/1288400)。このように古典籍資料にDOIを登録することにより,発表論文の参考文献にDOIとともに記載してもらえ,他の研究者がそのDOIで目的の古典籍資料を一意に探せるようになるうえ,メタデータに記された付加的な情報も入手することができる。コンテンツの利活用を促進し,研究活動の活性化・高度化に寄与するものとなる。

図7 DOI登録された,740年に出版された資料

2.4.2 「博物資料情報へのDOIの付与について」:堀井洋(一般社団法人学術資源リポジトリ協議会,合同会社AMANE)

一般社団法人学術資源リポジトリ協議会では,文献ではない資料,とりわけ,博物資料へのDOI登録を行っている。博物資料とは,今から100年以上前に教育で使用されたロールフィルム資料,天文関連科学実験機器資料,近世~近現代の古文書資料,江戸時代に輸入された象の骨格標本(8)などを指す。

2015年12月から,科学実験機器資料と教育掛図資料に関するサブジェクトリポジトリを公開し,科学実験機器資料リポジトリでは126,教育掛図資料リポジトリでは815の資料にJaLC DOIを登録している。なぜ,このようなサブジェクトリポジトリを構築しているのか。明治・大正期に輸入または国産された科学実験機器(例:天文上望遠鏡http://doi.org/10.18876/00000344),および教育掛図は,日本の科学技術振興の歴史を知るうえで重要な学術資料であるためである。それらは,戦災や自然災害・劣化・摩耗などによって,これまで,その多くが失われてきた。今後も喪失の可能性がある。また複数の大学・博物館に所蔵されている資料を俯瞰(ふかん)的・網羅的に分析することにより,新たな学術的な知見の獲得が期待される。当時の科学技術教育の実態を明らかにするためには,資料情報の集約やそれらに対する参照など,“研究実施環境”の充実が重要であるためである。

さらに,単に科学実験機器や教育掛図のImage Dataをメタデータとともに保存するだけではなく,より付加価値を高めるためにDOIの登録も行っている。これにより,論文や書籍等から引用されることによる博物資料情報に対する参照関係の明確化を図ることができるほか,今後は博物資料の“存在肯定”の手段としてDOIを利用できるのではないかと考えている。

博物資料情報にDOIを登録するにあたり,特有の悩みもある。“非Born-Digitalな”博物資料の場合,これまでの論文へのDOI登録の場合と異なり,creator,publisher,descriptionをどのように定義するのかが,コミュニティー内で問題となっている。現状では,creatorにはImage Dataのデジタル化を行った人,publisherには学術資源リポジトリ協議会,descriptionには箱張紙,本体注記,箱注記,虫挟玉入包紙注記,状態などの博物資料にとって大切な付随情報を載せている。

図8 DOI登録された,江戸時代に輸入された象の骨格標本

2.4.3 Constructing Bibliographic Relationships through DOI for Asian Studies: Estelle Cheng(Airiti)

Airitiは2000年に台湾で設立され,2011年からDOI登録機関として活動している。Airitiでは,DOIを単なる識別子として用いるだけではなく,メタデータを活用し,関連するコンテンツの結び付けを促進している。たとえば博士論文とそれに関連した雑誌論文とを結び付け,各landing pageで案内している。また,『ノルウェイの森』のショートストーリー版,小説版,映画版のように同じ作品でも表現の異なるものにはそれぞれに固有のDOIを登録し,その関係性をlanding pageで案内している。

3. おわりに

2015年のDOIアウトリーチ会議を東京に招致することは,2014年11月,「研究データへのDOI登録実験プロジェクト」が発足した頃に決まった。東京への招致が決定し,IDFへの具体的なプログラム提案の検討にあたっては,ジャパンリンクセンター運営委員会(武田英明委員長 国立情報学研究所教授),同普及分科会(堀切近史主査 トムソン・ロイター・プロフェッショナル株式会社アカデミックマーケット シニアセールスマネジャー)の力も借りつつ議論を重ねた。この提案は,ほぼそのままIDFに受け入れられた。ジャパンリンクセンター運営委員会および同普及分科会の委員の方々には,ご多忙の中親身になってプログラムの検討にご尽力いただいたことをこの誌面をお借りしてお礼を申しあげる。

このプログラム構成は日本のコミュニティーにおいて目を引いたためか,想像以上の多くの方々にご参加いただいた。質疑応答やTea Breakの際には積極的な意見交換やネットワーキングが交わされ,多くの参加者に満足いただけた模様であった。また,IDFメンバーにも日本での今後のDOIの普及について,大きな手応えを感じていただけ,メンバーの中でのJaLCのプレゼンス向上にも幾ばくか寄与したのではないかと考えている。

JaLCが固有のDOI(JaLC DOI)の登録を開始してから,2016年2月でちょうど4年目を迎えた。途中,DOI登録対象コンテンツの拡大などを伴った新システムのリリースを経て,DOI登録自体は,ほぼ安定して行えるようになった。

このタイミングで,東京でDOIアウトリーチ会議を開催したことにより,今後もJaLCが持続的な発展を遂げていくための重要な示唆を得た。たとえば,DOI登録の際に収集したメタデータの活用,諸外国のDOI登録機関との連携を効果的に行うためのメタデータスキーマの設計,DOI同士(論文とそれに付随する研究データなど)だけでなく他のPIDsや研究者IDなども含めてつなげていくこと,コミュニティーとともにID化のマインドを醸成していくことなどにより,オープンサイエンスを加速させ,JaLCが,わが国におけるオープンイノベーションのためのインフラとなることである。

今回のアウトリーチ会議では,日本のコミュニティーに対して,この業界における世界のフロントランナーの方々にご講演をいただき,大変含蓄深いものがあった。今後もこれらを反芻(はんすう)し続け,ここに込められた含意を看取することにより,長期的には,上述の得られた示唆のように大局観をもって,今後,JaLCが飛翔すべき航路について検討をしていきたい。

執筆者略歴

2003年に半導体材料系で大学院博士前期課程を修了後,民間定期運航航空会社,半導体製造装置メーカーを経,2006年より科学技術振興機構に所属。技術者向けeラーニング,失敗知識データベースの企画・運用業務,経営企画部門を経て,2012年よりJapan Link Center (JaLC) の企画・運用に携わる。DOI関連の会議・集会に多数参加。

本文の注
注1)  2013年2月にジャパンリンクセンター固有のDOI(JaLC DOI)登録を開始し,約150万件のJaLC DOI登録を行っている。

注2)  DOI名の前に「http://doi.org/」を付してインターネットで検索されたとき,DOI名とともに管理されている所定のlanding pageにリダイレクトを行うこと。

注3)  Session1

Report on "Experiment Project to register DOIs for Research Data" (Hideaki Takeda, JaLC), Registering DOIs for Research Data: updates from DOI Registration Agencies (DataCite, ISTIC, CrossRef)

注4)  Session2

Advantages of registering DOIs, including use cases from CrossRef (metadata feeds, funder identification, text and data mining, DOI event tracking, collaboration with ORCID); EIDR (movie and entertainment industry); mEDRA (rights management, Context Aware Multiple Resolution)

注5)  Session3

Diversification of Content, including speakers from National Diet Library (NDL), Institutional Repository (AMANE) and Airiti

参考文献
 
© 2016 Japan Science and Technology Agency
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