2016 年 59 巻 2 号 p. 132-135
科学技術振興機構(JST)は2016年3月にJ-GLOBAL(http://jglobal.jst.go.jp)をリニューアルした。日本化学物質辞書Web(日化辞Web)とJST資料所蔵目録Web検索システム(JST-OPAC)をJ-GLOBALに統合し,検索機能や登載情報をさらに拡充させた。ここでは,J-GLOBALの概要,およびリニューアルのポイントについて説明する。
J-GLOBALはJSTが体系的に整備してきた10種類の科学技術情報(研究者,文献,特許,研究課題,機関,科学技術用語,化学物質,遺伝子,資料,研究資源)を統合的に検索できるWebサービスである(図1)。
現在,研究や開発に携わる多くの方は,Googleをはじめとした検索エンジンによって必要な情報を検索する場合が多いと思われる。しかし,検索エンジンの結果はノイズが多く,信頼性を確保できない場合もある。一方,文献や特許などの専門データベースサービスは利用者にとって敷居が高く,文献や特許など情報をまたいだ横断的な情報検索も難しい。そこで,J-GLOBALでは科学技術に関連する10種類の情報をリンクでつなぐことで,たとえば,ある文献に着目し,その著者名をキーに研究者の情報をたどり,今度はその研究者名をキーに出願した特許にたどり着くなど,情報間の関係性をたどることで,アイデアや発想を導き出すサービスである1),2)。
2009年3月に試行版が,2012年9月に正式版が公開され,すべての機能を無料で利用することができる(一部機能には無料の会員登録が必要)。J-GLOBALの10種類のデータ構成を表1に示す。
収録内容 | 収録件数 | |
---|---|---|
研究者 | 国内の大学・公的研究機関・研究所に所属する研究者情報 | 約24万件 |
文献 | 国内外の主要な科学技術・医学・薬学文献情報 | 約3,743万件 |
特許 | 特許庁が作成する公開公報,公表公報,再公表公報,特許公報 | 約1,185万件 |
研究課題 | 過去にReaDに登録された情報,およびJST実施の主な研究課題 | 約6万件 |
機関 | 国内の大学・公的研究機関・研究所の情報,各機関より登録のあった情報,およびランドスケイプ社機関情報 | 約34万件 |
科学技術用語 | 科学技術用語に関する同義語や関連語情報等 | 約32万件 |
化学物質 | 日本化学物質辞書収録の有機化合物情報 | 約347万件 |
遺伝子 | HOWDY-R収録のヒト遺伝子情報 | 約6万件 |
資料 | JSTが収集・所蔵する国内外の科学技術系資料 | 約23万件 |
研究資源 | 国内の大学・公的研究機関等に関する研究資源情報,およびIntegbioデータベースカタログ | 約5,000件 |
今回のリニューアルでは,日化辞WebとJST-OPACというJSTで提供をしていた2つの個別サービスを,J-GLOBALに統合した。日化辞Webとは2016年3月現在,約347万件の化合物が登録されている国内最大級の有機化合物データベースである「日本化学物質辞書」のWeb検索サービスである3)。化合物の名称(日本語,英語表記),分子式,分子量,法規制番号,化学構造,用途語などを収録している4)。今後も日本化学物質辞書(日化辞)の整備は継続し,その情報はJ-GLOBALにてこれまでの検索機能とともに提供を行う。
また,JST-OPACはJSTが文献情報提供事業のために収集している国内外の学術論文誌などの資料所蔵目録を検索するシステムであり,一般の図書館のOPACと同様のものである。複写サービスの終了,情報資料館の閉館に伴い,これまでのJST資料所蔵目録(JST-OPAC)は2016年2月末にサービスを終了したが,今後はJ-GLOBALで情報提供を行う。
日化辞Web,JST-OPACはそれぞれ個別のサービスを終了したが,これまでのサービスに相当する情報や機能はすべてJ-GLOBAL上で提供される。サービスを統合することによって,たとえば化学物質を構造で検索し,該当物質が取り上げられている文献情報へアクセスしたり,逆に文献情報のリンクをたどって化学物質の詳細情報を参照したり,といったシームレスな情報収集が行えるようになった。
リニューアルではユーザーのニーズに応え,登載情報の拡充や,ユーザーインターフェースの改良など機能拡張を行った。
(1) 化学物質情報を日化辞相当に拡充前述のとおりサービスの統合に伴い,登載情報を大きく拡充した。これまで日化辞WebにはなかったKEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)の各種番号なども追加している。日化辞Webで提供していた文字列検索や化学構造検索(構造スケッチャー・構造ファイルによる検索)も実装し,目的の物質に素早くたどり着くことができる(図2)。
資料情報に関しても,JST-OPACで提供していた情報相当に拡充した。J-GLOBALの資料情報には,現状JSTで所蔵していないものも含まれるが,「JST所蔵有無」を「あり」で絞り込み検索を行うことで,所蔵目録検索システムとして利用することが可能となっている。
(3) Sciterm用語の追加「Sciterm(オンライン学術用語集)」は文部科学省が20を超える国内学会の協力を得て作成した,さまざまな分野の学術用語集である。このScitermを,J-GLOBALでこれまで提供していた科学技術用語に統合し,全件登載した(図3)。JSTの科学技術用語のうち,Scitermの用語と合致する語にはSciterm由来の同義語等が追加され,そうでないものは新たな語として登録した。「出典」欄で「学術用語集」を選択し,Sciterm由来の語のみに絞り込み検索を行うこともできる。
論文や特許のデータベースでは,同一の著者や発明者であるにもかかわらず,略記などの表記揺れのため同一として検索することが困難な場面が多くある。JSTでは独自のアルゴリズムによる機械処理によって文献,特許,研究課題情報について名寄せ(表記が揺れている同一人物,同一組織に対して一意に識別できるIDを付与すること)を実施5)しており,J-GLOBALでは文献の著者,特許の発明者,研究課題の実施研究者を名寄せした人名IDを提供してきた。
今回のリニューアルで,新たに著者の所属機関,特許の出願人・特許権者,研究課題の実施機関を名寄せした機関IDを登載した。機関IDは,たとえば○○大学××学部は,すべて○○大学のIDに統一するなどトップレベルで名寄せが行われるようチューニングをした。これによって法人・団体レベルでの網羅的な検索・分析に利活用できるようになった。
(5) 詳細検索(目的別検索)機能を追加化学物質・資料情報の他にも,研究者,文献,機関情報に詳細検索機能を追加した。研究者や文献を,所属や発行年,各種IDなどの項目を指定して検索することができる(図1)。
(6) 可視化機能の追加J-GLOBALはユーザーが直接操作できるWebサービスとしての側面だけでなく,Web APIを通してJSTの保有する膨大な科学技術情報を提供するインフラとしての機能も持つ。このWeb APIを用いて,共著関係のネットワーク図を描画する機能を実装した。研究者,機関を検索したときに検索結果一覧に表示される。また,Web APIを利用したさらに高度な可視化や分析が可能な「分析ツールβ版」6)も試行的に公開している。こちらはJ-GLOBALのトップ画面から「分析をする」というボタンで遷移することができるので,データの可視化,分析に興味のある方はぜひ触れてみていただきたい。
(7) 英語化これまでJ-GLOBALのインターフェースは日本語画面しか用意されていなかったが,英語画面を追加した。ただし,表示されるコンテンツそのものを翻訳しているわけではないので,特許等もともとの情報が日本語由来のものは日本語で表示されることをご了承願いたい。
以上,2016年3月28日にリニューアルしたポイントを中心にJ-GLOBALについて紹介した。今後もJSTはJ-GLOBALに登載する情報の充実や外部Webサイトとの連携を強化し,質の高い科学技術情報をより効果的に流通させることで,日本のイノベーション創出に貢献することを目指していく。
(科学技術振興機構 木村考宏,渡邊勝太郎)