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オープンアクセスとクリエイティブ・コモンズ採用における注意点:開かれた研究成果の利活用のために
水野 祐
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2016 年 59 巻 7 号 p. 433-440

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著者抄録

公的資金を使った研究論文のオープンアクセス化が進んでいる。しかし,オープンアクセスといえるためには誰もが自由にアクセスでき,かつ自由に再利用できることが必要とされており,単に公開だけではなく,二次利用にも重点が置かれなければならない。本稿では,オープンアクセス化におけるライセンスとして,世界的にデファクト・スタンダードとなっているクリエイティブ・コモンズの基本的な仕組みや現況を概説する。そのうえで,オープンアクセス化の際にクリエイティブ・コモンズを採用するメリット・デメリット,採用の際の検討事項,ハードルとなりやすい点などを解説する。

1. はじめに

「オープンアクセス」の定義を定めたBudapest Open Access Initiative(BOAI)注1)によれば,オープンアクセスというためには誰もが自由にアクセスでき,かつ自由に再利用できることが必要とされている。重要なことは,単に公開だけではオープンアクセスとはいえず,二次利用にも重きが置かれているという点である。公開だけを考えれば,単に研究論文をインターネット上でアクセスできる形でアップロードしていれば足りるだろう。しかし,上記のような意味での「オープンアクセス化」を検討する際,単にネット上に公開するのみでは十分でない。なぜなら,何らの利用条件を示さない場合,その情報(ここでは研究論文)は,権利者に著作権が保持されており,無断で使用できないと推定され,二次利用には原則として権利者の許諾が必要となるからである。ここにオープンアクセスにおいてクリエイティブ・コモンズが注目されている理由がある。

本稿では,クリエイティブ・コモンズの仕組みおよび現況について簡潔に概説したうえで,オープンアクセスにおけるクリエイティブ・コモンズの採用の意義,採用例,そして実際に採用する際の注意点について解説する。

2. クリエイティブ・コモンズ

2.1 クリエイティブ・コモンズの仕組み

「クリエイティブ・コモンズ(Creative Commons: CC)」は,2001年,米国の憲法学者ローレンス・レッシグらにより提唱された。クリエイティブ・コモンズは,インターネット/デジタル技術が普及した時代における著作権に関する新しい考え方と仕組みである。その新しい考え方や仕組みを実現するライセンス(利用許諾)・ツールを「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)」という。文章,音楽,写真を含む画像,映像などの情報コンテンツの作者または権利者が,自分の作品について「この条件さえ守れば自分の作品を自由に利用してよい」ということを,わかりやすいマークとともに意思表示することができる。クリエイティブ・コモンズを利用することで,作者または権利者はより多くの人に自分の作品を知ってもらい,利用してもらう機会が増える。一方で,さまざまなコンテンツを利用したい利用者はより多くの作品を制約の少ない条件の下で自由に利用できる。このように作品の流通を合法的に促すことで,作者または権利者と利用者双方の便益を増大することがクリエイティブ・コモンズの役割である。

クリエイティブ・コモンズは,オープンソースの思想に大きな影響を受けている。まずソフトウェアの分野においてリナックス(Linux)注2)などのオープンソースの考え方が生まれ,普及した。クリエイティブ・コモンズは,このオープンソースという方法論を文章,音楽,画像,映像などの情報コンテンツの分野に応用した。著作権による完全な権利保護(All Rights Reserved)と,誰も権利を有さず自由に利用できる人類共有の財産であるパブリックドメイン(No Right)との間にある中間領域(Some Rights Reserved)に着目したのがクリエイティブ・コモンズである。

クリエイティブ・コモンズは,「表示(BY)」「非営利(NC)」「継承(SA)」「改変禁止(ND)」という4つの条件の組み合わせで,6つのライセンスとそれぞれのライセンスの内容をわかりやすく示すマークから成る(1)。

注意しなければならないのは,クリエイティブ・コモンズは,著作権を「放棄」する仕組みではないという点である。あくまで「Some Rights Reserved」とあるように,著作権を保持しつつ,目的・用途にあった形で一部を開放する仕組みである。また,「非営利(NC)」ライセンスについては,企業活動など営利性を有する一切の活動に利用することが禁止されるわけではない。クリエイティブ・コモンズがいう「非営利」とは,商業的な利得や金銭的報酬を主たる目的とせず,それらに主に向けられていないことを意味する1)。また,CCライセンスは,あくまで権利者に無断で利用する場合のライセンス(利用許諾)なので,「非営利(NC)」ライセンスが付与されていても,別途権利者に連絡し,許諾を得たうえで営利利用することは可能である(もちろん場合によっては許諾料を支払う必要が出てくる)。「非営利(NC)」ライセンスが付与されているからといって,一切営利利用ができないわけではないことにも注意が必要である。

表1 クリエイティブ・コモンズの6種類のライセンス

2.2 クリエイティブ・コモンズの現況

CCライセンスは,数年おきにバージョンアップが図られるが,最新のバージョン4.0は2013年11月に公開された。このバージョン4.0の日本語による公式翻訳が公開されたのが2015年7月である(筆者はこの公式翻訳化を担当した一人である)。バージョン4.0の特徴は,(1)より国際的に標準化されたライセンスになった点,(2)著作権の範囲外の権利(データベース権や公共セクター情報(Public Sector Information: PSI))の取り扱いを明記した点,(3)表示義務が免除できるようになった点,(4)ライセンス本文がより読みやすくなった点,等が挙げられる2)

誌面の都合により,これらの点を詳細に説明することはできないが,特に(1)が重要である。バージョン4.0以前については,クリエイティブ・コモンズが国際的なライセンスだとうたっていても,実は国・地域ごとに微妙に異なる著作権制度に準拠する形でライセンスの本文を微妙に違えた各国版が存在した注3)。しかし,バージョン4.0では,真に国際的に標準化されたライセンスを志向すべく「国際(International)」という単一のライセンスのみを用意し,それを各国・地域の言語で「公式翻訳」することとなった。これによりクリエイティブ・コモンズは,真の意味で世界中の誰もが同じ条件で利用可能になったといえるだろう。

3. オープンアクセスにおけるクリエイティブ・コモンズの採用

3.1 学術誌におけるメリット

オープンアクセスを実現するために,学術誌においてクリエイティブ・コモンズを採用するメリットは,大きく2つある(12)。

1つには,クリエイティブ・コモンズの採用により利用条件が明確になることで,学術誌のアクセシビリティー(アクセスする機会)や再利用可能性が高まり,研究論文の伝播性を高める効果が期待できるという点である。また,著作権法上許容されている「引用」よりも,クリエイティブ・コモンズでのライセンスの方がより制約なく適切な量を引用することが可能になることや,翻訳や図・写真などの利用において用途が広がり,再利用を促しやすい。冒頭で述べたとおり,公開だけを考えればインターネット上にアップロードすれば足りるが,オープンアクセスの定義からすれば再利用性が重視される。ここでクリエイティブ・コモンズの真価が発揮される。

2つ目には,世界中のユーザーにとって利用条件がわかりやすい(ライセンスの標準化)という点が挙げられる。単体の研究論文あるいは学術誌のことだけを考えれば,さまざまな条件が個別に細かくカスタマイズされた利用規約・ライセンスがよさそうにみえる。だが,そのようなカスタマイズされた利用規約は,世界中のユーザーにとってはその都度利用規約を読み込まなくてはいけなくなり,誰が読んでも利用条件がわかりやすい状況にはならない(これを「ライセンスの氾濫」という)。結果としてその研究論文の再利用を阻害するおそれがある。このことから,クリエイティブ・コモンズの条件が簡潔になっていることには大きな意味がある。また,1つの学術誌内で異なるライセンスの研究論文が混在した場合,CCライセンスであれば他のライセンスと互換性が担保されていることも多いが,そうではない場合にはライセンス相互で矛盾が生じ,学術誌内での統一性が保てないおそれがある。

図1 学術誌のOA化
図2 学術誌のOA化とCCライセンス

3.2 採用例

クリエイティブ・コモンズの発表では,2015年12月の時点で,PLOS(Public Library of Science)とDOAJ(Directory of Open Access Journals)に登録されている学術誌におけるクリエイティブ・コモンズの採用が140万記事に達したとされる3)。PLOSでは,「CC表示(BY)」ライセンスの採用を原則としている。DOAJに登録されている学術誌のクリエイティブ・コモンズの採用例は40%程度ということであるが,そのうち「CC表示(BY)」と「CC表示(BY)-継承(SA)」がそれぞれ半分ずつ程度であるという。

また,オープンアクセス学術出版協会(Open Access Scholarly Publishers Association: OASPA)は,OASPA加盟機関の学術誌において,2015年に16万955本の論文が「CC表示(BY)」ライセンスを採用し,2000年以降の累計で70万7,798本の論文が「CC表示(BY)」ライセンスを採用したと公表している4)。ROAD(the Directory of Open Access scholarly Resources)注4)や米国国立衛生研究所(NIH: National Institutes of Health)においても,学術誌にはクリエイティブ・コモンズを採用することが推奨されている。

世界的な学術系出版企業であるNature Publishing Group(NPG)は「CC表示(BY)4.0」を推奨している。ただし,編集部のリクエストにより「CC表示(BY)-非営利(NC)-改変禁止(ND)」か,「CC表示(BY)-非営利(NC)-継承(SA)」を選択できる。

日本ではJ-STAGEが,別途利用条件を明示していない限り,発行機関ごとより,「CC表示(BY)」「CC表示(BY)-継承(SA)」「CC表示(BY)-非営利(NC)-改変禁止(ND)」を付与して公開することが推奨されている。ただし,J-STAGEでは,論文単位ではなく,ジャーナル単位でCCライセンスを採用することがシステム上必要となっている。

このように,オープンアクセス化されたいわゆる「OA誌」においては,「CC表示(BY)」と「CC表示(BY)-継承(SA)」がデファクト・スタンダード化しており,一部例外的に他のCCライセンスがオプションとして選択できるようになっている。

4. 学術誌に採用する際の注意点・ハードル

4.1 採用時の注意点

学術誌にクリエイティブ・コモンズを採用する際の手順としては,(1)クリエイティブ・コモンズの採否の検討,(2)ライセンスの選定,(3)利用・投稿規約の策定または修正,(4)著者への説明,(5)誌面あるいはWebサイトへの表示,に分けて検討することができる。

(1)クリエイティブ・コモンズの採否の検討については,当該学術誌の性質に鑑み,オープンアクセス化に踏み切るべきか,踏み切るとしてその場合のライセンスとしてクリエイティブ・コモンズがふさわしいのか,世界的な動向にも注視しつつ,慎重に判断する必要がある。

(2)ライセンスの選定については,6つのCCライセンスのうち,いずれを採用するか検討することになる。オープンアクセスのライセンスとして世界中でデファクト・スタンダード化しているのは,「CC表示(BY)」と「CC表示(BY)-継承(SA)」であることはすでに述べたとおりだが,これは本稿の冒頭で述べたBOAIのオープアクセスの定義を厳密に解釈する一部の資金支援機関が,これらのライセンスを付与することを著者あるいは学会に求めていることにも起因する。その他の4つのCCライセンスが付与された場合にオープンアクセスと呼べるか否かは議論があるが,NPGを含めた多くの採用例が「非営利(NC)」や「改変禁止(ND)」を選択可能としていることから,これらを選択したからといってすぐさまオープンアクセスとは呼べない,というわけではないだろう。

(3)利用・投稿規約の策定または修正は,クリエイティブ・コモンズを採用した場合,作業的には一番コストの高い部分である。著作権の帰属とクリエイティブ・コモンズの採用は,矛盾・抵触なく統一的に規定しなければならず,そのためには,著作権に詳しい法律専門家にアドバイスを求める必要があるからである。特に日本においては,研究論文の著作権を学会に譲渡する規約を定めている慣行が広く行き渡っている。その結果,研究論文の著作権を著者に保持させたまま,学会に広く利用許諾(ライセンス)を付与する形に修正するか,それとも従前通り学会への著作権譲渡を維持するのか,という点が議論になるケースが多い注5)。いずれを選択すべきか筆者に対しても相談が多い点であるが,いずれのスキームが優れているというものではない。この問題は,研究論文の利活用を著者と学会いずれが主導して,あるいは責任をもって行っていくのか,という点に帰結する。個人的には,学会が責任をもって研究論文の利活用を行っていかないのであれば,著作権法の原則に従い,研究論文の著作権は著者に帰属させるのが自然ではないかと考える。

(4)著者への説明は,丁寧に行うべきである。学会が著作権の譲渡を受けている場合には,法的にはクリエイティブ・コモンズの採用を学会側の裁量により判断でき,著者の許諾は不要である。だが,世界的には研究論文の著作権は著者に留保されているケースも多く,著者あっての学術誌であるので,この場合でも著者のクリエイティブ・コモンズ採用に対する理解を得ることは重要である。学会によっては,著者の理解を得る連絡書面を送付するのみならず,著者に向けてクリエイティブ・コモンズに関する説明会を開催するところもある。

(5)誌面あるいはWebサイトにおけるクリエイティブ・コモンズのライセンスまたはマークの具体的な表示方法は,単にクリエイティブ・コモンズのマーク,ライセンスの種類,URI/URL(Web上であればリンクも可)を掲載すれば足りる。クリエイティブ・コモンズは,ライセンス・ツールを提供するのみで,具体的にコンテンツの著作権等を管理しているわけではないので,クリエイティブ・コモンズの採用について団体としてのクリエイティブ・コモンズへの許可申請や届け出は不要である。

多く相談を受けるのが,「クリエイティブ・コモンズを採用したいが,第三者が著作権を有するコンテンツが含まれる」場合の記載方法である。この場合,筆者は「特に記載がない限り,本誌の研究論文を含むコンテンツはクリエイティブ・コモンズ・ライセンス【表示4.0国際】の下で公開されています」等という書き方もおすすめしている。これにより,第三者が著作権を保持しているコンテンツには,当該コンテンツの下などに「ⓒ●● All Rights Reserved.」等と記載しておけば,当該コンテンツはCCライセンスの下で利用許諾されていないことを明確化できる注6)。なお,ケースごとのおすすめの表示方法については,クリエイティブ・コモンズが公表している資料があるので参照していただきたい注7)。 作品名(Title),作者(Author),作品へのリンク(Source),ライセンス(License)を表示するのが理想的な表示方法だとされている(それぞれの頭文字を取って「TASL」といわれる)。

4.2 採用時のハードル

OA誌におけるクリエイティブ・コモンズの採用については,いくつかのハードルもある。

1点目は,クリエイティブ・コモンズはオープンアクセスに特化したライセンスではないという点である。学術誌にクリエイティブ・コモンズを採用しようとすると,どうしてもいろいろ条件を付加したくなる。しかし,上述のとおり,クリエイティブ・コモンズの「表示」「非営利」「継承」「改変禁止」という4つの条件は,さまざまな情報コンテンツに最低限必要なカスタマイズの条件として定められている。オープンアクセスのことだけを考えれば,他の条件を設定することはありえるが,クリエイティブ・コモンズは世界中に存在する学術分野以外の誰もがそのマークを見れば利用条件がわかるように標準化されており,他の分野に開かれていることにこそ意味がある。ここでそれぞれの学術誌が固有の利用条件を定めてしまえば,クリエイティブ・コモンズが多分野に拓(ひら)くためにあえて標準化されていることが無意味になってしまう。

2点目は,学会への著作権譲渡という日本特有の問題である。日本では,研究論文の利活用という観点から,著者からの学術論文の著作権譲渡を規定している学会が多い。したがって,著者がクリエイティブ・コモンズを採用したい場合でも,著作権を譲渡してしまっており,学会においても一部の著者のみの一存で学会の規約を変更することはできない等の理由により,採用に踏み切れないケースを筆者も多数見てきた。一方で,学術誌における著作権譲渡の慣行は,学会レベルでクリエイティブ・コモンズを採用すれば,掲載論文すべて(過去分も含む)にクリエイティブ・コモンズを付与することも(法的には)可能である。かかる日本特有の慣行は,クリエイティブ・コモンズの採用・導入という観点だけからすれば,むしろポジティブにとらえることができよう。学会への著作権譲渡は,学会による研究論文の利活用という観点からなされているにもかかわらず,学会としては単に著者から「預かっている」くらいの感覚であり,クリエイティブ・コモンズの採用など利活用に向けて大きくかじを切る判断ができないことも多い。厳しいことをいえば,学会としては,そのようなマインドから脱却し,研究論文の利活用に向けてマインドを大きく変更する必要があるというのが筆者の見解である。日本における学術誌のクリエイティブ・コモンズの採用は,学会のこのようなマインドの航路変更にかかっているといってもよいだろう。

3点目は,CCライセンスと学会やジャーナルが独自に定めている利用規約との矛盾・抵触の問題である。クリエイティブ・コモンズは,その規定している対象についてクリエイティブ・コモンズよりも制限的な条項が加わるとライセンス違反になってしまう可能性がある。すなわち,クリエイティブ・コモンズは,あらゆる分野に適用するために,あえてその条件や文言をシンプルにして標準化させており,個別の細かいオーダーには応えにくい。上記1点目,2点目とも関連してくるが,学会としては,著者から論文を「預かっている」感覚が強いため,著者のために研究論文の価値を損なうことに慎重になり,研究論文の公開においてより慎重に,あれこれ条件を付した利用規約を作りたくなってしまう。このギャップが利用規約とクリエイティブ・コモンズとの矛盾・抵触という形で表出する。この点は,利用規約の定め方について,海外の事例も参考にしながら,関係各専門家とも話し合い,矛盾・抵触しない規約を作成するしかない。

4点目は,最新バージョンへの対応である。クリエイティブ・コモンズはバージョンごとに微妙に内容が異なるため,たとえば,バージョン3.0において著者に許諾を得ていたところで,バージョン4.0でも許諾が得られているというわけにはいかない。この点については,「本記事は,CCライセンス【表示4.0国際】の下で公開されています。なお,CCライセンスのバージョンがアップデートされた場合には最新のバージョンの下でも公開されているものとみなします」等として,著者に最新バージョンへのアップデートまであらかじめ許諾を得ておくことが望ましい。この点,学会が著者から著作権譲渡を受けている場合にはバージョンの変更についての許諾は法的には不要であるが,可能な限り,著者に丁寧に説明することがトラブル防止の観点からは重要である。

5. おわりに

日本政府は,第5期科学技術基本計画の期間(2016~2020年)中に,公的資金を使った研究について,学術論文やその根拠となるデータを原則としてネット上で公開させる方針を示した。今後,公的資金を使った研究論文の公開義務化はますます進むだろう。その際,すでに欧米でデファクト・スタンダード化しているクリエイティブ・コモンズの採用,あるいはその検討は避けられない。

本稿で概観してきたように,オープンアクセスにおけるクリエイティブ・コモンズの採用にはいくつかのハードルがあるものの,研究の成果である研究論文の利活用と研究の透明性の確保の観点からはメリットが多い。そして,このような流れは他分野も含めた時代の必然でもあり,もはや止めることはできない。一方で,クリエイティブ・コモンズも万能ではなく,その都度バージョンアップを果たしているように進化の途上にある。学術情報関係者には,国際的な動向に目を配りつつ,日本らしいオープンアクセスのあり方をライセンスの観点からも模索すべく,不断に努力することが求められている。

執筆者略歴

  • 水野 祐(みずの たすく) tasukumizuno@citylights-law.com

弁護士(シティライツ法律事務所)。クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(特定非営利活動法人コモンスフィア)理事。Arts and Law代表理事。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。

本文の注
注2)  Linuxとは,コンピューターのオペレーティングシステムの一種。パソコンだけでなく,インターネットのサーバーや,携帯電話などにも利用されている。

注3)  バージョン3.0から,どの国・地域にも準拠しない「Unported」が用意されていたが,バージョン3.0には日本版が存在しない。

注4)  ROAD:ISSN(International Standard Serial Number:国際標準逐次刊行物番号)国際センターが提供するサービスで,オープンアクセスの学術雑誌等の書誌データを無償で公開している。

注5)  なお,著作権法第61条第2項には,同法第27条(翻訳・翻案権等)および第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)に規定する権利が特掲されていない場合にはこれらの権利は留保されている(譲渡されない)と推定されていると規定されているにもかかわらず,利用・投稿規約に特掲がなされていないケースも散見され,余計に混迷するケースも少なくない。

注6)  クリエイティブ・コモンズのWebサイト(https://creativecommons.org/)の表記も,“Except where otherwise noted, content on this site is licensed under a Creative Commons Attribution 4.0 International license.”の文言を採用している。

参考文献
 
© 2016 Japan Science and Technology Agency
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