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集会報告
集会報告 「研究データ利活用協議会」公開キックオフミーティング
余頃 祐介
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2016 年 59 巻 7 号 p. 490-493

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  • 日程   2016年7月25日(月)
  • 場所   国立研究開発法人 科学技術振興機構 東京本部(東京都千代田区)
  • 主催   研究データ利活用協議会

1. はじめに

「これまで,日本国内では,研究データの利活用について考える場は存在しなかったが,ジャパンリンクセンター(Japan Link Center: JaLC)が,2014年10月から2015年10月までの約1年間実施した「研究データへのDOI登録実験プロジェクト」において,分野を横断した実務レベルの研究データ担当者が顔を合わせて議論する貴重なコミュニティーが形成された。

JaLCでは,このコミュニティーを活用して,オープンサイエンスの実現に向けてさらなる検討を行うことを目的として,2016年6月3日に「研究データ利活用協議会」を設立した1)

2016年7月25日,JaLCは「研究データ利活用協議会」公開キックオフミーティングを科学技術振興機構(JST)東京本部で開催した。当日は,大学・研究機関,図書館,企業,官公庁・行政機関などから70名以上の参加者が集い,「研究データ利活用協議会」設立の趣旨の説明や,参加機関からの決意表明,グループディスカッションが行われた(1)。

本稿では,各報告について簡潔に紹介した後,グループディスカッションから得られた気付きなどを中心にまとめた。本会合のプログラムや講演資料についてはJaLCのWebサイト(http://japanlinkcenter.org/top/)を参照されたい。

なお,JaLCは,日本で唯一のDOI(Digital Object Identifier)登録機関(Registration Agency: RA)である。JST,物質・材料研究機構(NIMS),国立情報学研究所(NII),国立国会図書館(NDL)の4機関によって共同で運営されており,運営委員会(委員長:武田英明NII教授)が意思決定を担っている。研究データとDOIの関係やこれまでの活動については『情報管理』に掲載された集会報告等を参照されたい2)8)

図1 会場全体の様子

2. 「研究データ利活用協議会」設立の趣旨

本協議会の会長を務める武田英明氏(NII,JaLC運営委員長)から,以下のとおり,協議会の概要と設立の趣旨が説明された(2)。

本協議会は,オープンサイエンスの実現に向けて議論を継続していくため,JaLCによって設立されたものであり,幅広くコミュニティーを形成していくことを目的としている。参加形態には,「機関参加」と「個人参加」とがある。機関参加の会員は,機関として本協議会の企画・運営を担う一方,個人参加の会員は,本協議会の活動に自由に参加できる。

現在の機関参加の会員は,JaLC共同運営機関のJST,NIMS,NII,NDLと,本協議会の設立に携わった情報通信研究機構(NICT),産業技術総合研究所(AIST,参加準備中)の6機関である。個人参加の会員については,随時,入会を募集している。

会長は武田英明氏,副会長は村山泰啓氏(NICT)が務める。また,機関参加の会員から選出された機関のメンバーが運営グループを組織し,協議会の運営に関する意思決定を行う。運営グループには,設立準備から個人として参加している,科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の林和弘氏も加わっている。

図2 武田会長の概要説明

3. 参加者からの決意表明

本協議会に「機関参加」している機関の代表者7名と,個人参加の代表者1名から,決意表明が行われた。

JSTの小賀坂康志は,本協議会へのJSTの貢献について述べた。JSTは,ファンディング事業との連携や情報事業の強みを活用できることなど,多様な機能を持つ機関の利点を生かして,データ利活用促進に貢献するとともに,JaLC事務局としての立場から,協議会の運営を積極的に支援すると述べた。

NIMSの轟眞市氏は,論文に掲載したデータは研究者が亡くなった後もこの世の中に存続し続けるが,論文に掲載しなかった関連データは,宝が埋まっているかもしれないのに死蔵されてしまっていることを実例とともに紹介した。そのため,NIMSでは,imejiという独自サービスを展開し,NIMSにおける研究に由来する研究データの保存と公開を行っているとのことである。

NIIの山地一禎氏は,図書館との連携施策として,次期メタデータスキーマ「junii3」を研究データや助成機関情報に対応させることを紹介した。また,同じくNIIの北本朝展氏は,地球環境情報プラットフォーム構築推進プログラムであるDIASプロジェクトの概要を紹介し,本協議会において,研究データコミュニティーの存在感の強化を目指すと述べた。

NDLの伊東敦子氏からは,「第四期国立国会図書館科学技術整備基本計画」に基づいた国立国会図書館の取り組みが紹介された。オープンサイエンスにおいて同館が果たすべき役割として,研究データと論文とのリンクを可能とする環境整備のため,DOI付与に係る普及活動を進めるとのことである。

NICTの村山泰啓氏は,研究データ利活用のためのコミュニティーづくりの大切さについて言及した。G7の枠組みでオープンサイエンスのワーキンググループを設立することになったことに触れつつ,これにより各国・地域のレベルで大臣等が政策や予算等について検討するとともに,本協議会のようにコミュニティーレベルで議論をするという場ができ,こういった場の中で議論をする仲間をつくっていくことが重要と述べた。

AISTの小島功氏は,AISTは産業界に近い領域の研究を行っていることから,研究データの公開そのものよりは,むしろ研究データの利活用によるイノベーションの創出に重きを置いていると述べた。そのため,本協議会においては,利活用を促進するためにはどうしたらよいかについて議論していきたいということである。

NISTEPの林和弘氏は,今般のわが国におけるオープンサイエンスの潮流は,グーテンベルクによる活版印刷技術の発明や,インターネットによる情報流通といった技術革新と同様という見解を示したうえで,「研究データの利活用の先にみえてくる西洋科学の輸入と改善ではなく次世代科学の創出に携わる世紀のチャンスを楽しもう!」と,決意表明を締めくくった。

4. グループディスカッション

決意表明を行った8名の講演者をグループリーダーとして,参加者を8つのグループに分けてディスカッションを行った。テーマは,「研究データ利活用の素晴らしい未来とは」「研究データ利活用の推進で困っていること」「みなさんの取り組んでいること,取り組もうとしていること」の3つであり,テーマごとに席替えをして,さまざまな人の話を聞くという方法で行われた。最後に各リーダーが,それぞれのグループでの議論をまとめて,壇上で発表した。以下に主な意見を紹介する。

4.1. 「研究データ利活用の素晴らしい未来とは」

  • •   共通のメタデータが付与されて分野を横断した活用がされることにより,これまでは物理的に難しかったような分野間連携が活発化する。
  • •   誰もが自由にいろいろなデータを集められることにより,思いもよらぬ人にデータが利活用され,新しい産業につながっていく。
  • •   研究データを利活用することにより,研究サイクルが高速化する。
  • •   データを公開した研究者も評価されるという新たな評価のしくみが定着することにより,研究者の活躍の場が多様化する。

4.2. 「研究データ利活用の推進で困っていること」

  • •   データシェアリングの青写真を日本全体で議論する場がない。
  • •   研究データの引用に関して,研究者間や出版社間などで共通のビジョンがない。
  • •   研究分野によっては,何をID付けの対象とするのかという理解が進んでいない。
  • •   ひとつの機関内でまとめてデータを管理しているところがない。また,それらのメタデータの付け方もさまざまである。
  • •   誰がどのようにメタデータを付けるべきかがわからない。
  • •   研究データの利用条件の明示について,データを創出した研究者,データを公開するプラットフォーム,利活用する研究者で,同じレベルでの理解が進んでいない。
  • •   不正使用等に対する法的救済の検討が不十分なため,研究者はデータ共有に躊躇(ちゅうちょ)する。

4.3. 「みなさんの取り組んでいること,取り組もうとしていること」

  • •   研究者にデータを登録してもらえるように,ツールをつくって提供している。
  • •   オープンにされたデータから,材料の新たな物性を発見し,そこから新たな産業を興すといったモデルケースを考えている。
  • •   データやメタデータが共有されるだけでは不十分なので,メタデータだけでは表現できないような暗黙知に属するデータ利活用のコツを共有するようにしている。
  • •   NDLのインターネット資料収集保存事業(WARP)では,定期的なクローリングにより,国の機関や大学のインターネット上のすべてのコンテンツのアーカイビングを行っている。そのため,研究データがWebサイトに載っていればアーカイブはされる。

5. おわりに

今回の公開キックオフミーティングでは,研究データの流通の仲介などを行う民間企業など,今までにない新たなセクターからの参加もあり,公的機関だけでなく民間企業とともにオープンサイエンスを推進していく機運の高まりを感じ取れた。一方,実際に研究データを公開し,それらを利活用して研究を行う主体である「研究者」自身の参加は多くはなかった。今後,JSTにおいてはファンディング部門と連携して,研究者の参画を促していく必要がある。

グループディスカッションにおいては,特に「研究データ利活用の推進で困っていること」について,多くのコメントが挙げられた。先例のない新たな取り組みであるが故に,その推進についてみんなが模索中であるという事実が明らかになるとともに,本協議会に対する期待の大きさも感じ取れた。

当面の活動としては,研究データ利活用,研究データにおけるID登録・活用をスコープとして,年3~4回程度の研究会,年1回程度の報告会,メーリングリストによる情報交換を行う予定である。多くの方々に参画いただけることを期待している。

(科学技術振興機構 余頃祐介)

参考文献
  • 1)  中島律子. “研究データ利活用協議会の設立”. カレントアウェアネス・ポータル. http://current.ndl.go.jp/e1831, (accessed 2016-08-23).
  • 2)  中島律子. ジャパンリンクセンター活用の為の対話・共創の場(第1回):機関リポジトリのコンテンツへのDOI登録. 情報管理. 2014, vol. 57, no. 8, p. 591-595. http://doi.org/10.1241/johokanri.57.591, (accessed 2016-08-23).
  • 3)  中島律子, 武田英明. DataCite2014年年次会議:データに価値を与える. 情報管理. 2014, vol. 57, no. 9, p. 686-689. http://doi.org/10.1241/johokanri.57.686, (accessed 2016-08-23).
  • 4)  火口正芳, 余頃祐介. 第16回図書館総合展フォーラム 識別子ワークショップ:JaLC, CrossRef, DOI, ORCID, そして.... 情報管理. 2015, vol. 57, no. 10, p. 776-780. http://doi.org/10.1241/johokanri.57.776, (accessed 2016-08-23).
  • 5)  福山樹里. ジャパンリンクセンター活用の為の対話・共創の場(第2回):研究データへのDOI登録. 情報管理. 2015, vol. 58, no. 2, p. 145-147. http://doi.org/10.1241/johokanri.58.145, (accessed 2016-08-23).
  • 6)  小林賢. ジャパンリンクセンター「研究データへのDOI登録実験プロジェクト」中間報告会. 情報管理. 2015, vol. 58, no. 6, p. 485-488. http://doi.org/10.1241/johokanri.58.485, (accessed 2016-08-23).
  • 7)  余頃祐介. 永続的識別子“DOI”の多様な活用状況:2015年DOIアウトリーチ会議in東京からの示唆. 情報管理. 2016, vol. 59, no. 1, p. 43-52. http://doi.org/10.1241/johokanri.59.43, (accessed 2016-08-23).
  • 8)  武田英明, 村山泰啓, 中島律子. 研究データへのDOI登録実験. 情報管理. 2016, vol. 58, no. 10, p. 763-770. http://doi.org/10.1241/johokanri.58.763, (accessed 2016-08-23).
 
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