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日本分析化学会英文誌の情報発信強化策:プロモーション活動によるジャーナル基盤強化
小澤 岳昌
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60 巻 (2017) 1 号 p. 37-42

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著者抄録

日本分析化学会発行の国際分析化学論文誌である『Analytical Sciences』は,1985年に創刊された英文月刊誌であり,年200~300報の分析化学に関する科学技術論文を世界に発信してきた。2001年以来,本誌は完全なオープンアクセス誌として,誰もが自由に閲覧できるシステムを採用している。本稿では,本誌の情報発信強化戦略として取り組んでいるジャーナル内容の基盤強化,編集委員と学会事務局の協働的取り組み,そして国際分析化学誌との連携による強化策について概説する。

1. 日本分析化学会の概要

日本分析化学会注1)は,分析に関する情報の交換ならびに分析化学の進歩発展を図り,それを通じて科学,技術,文化の進展,人類の福祉に寄与することを目的とした学術団体である。1952年に設立され,現会員数は名誉会員や学生会員等を含め5,812名(2016年12月26日現在)を擁している。分析化学は横断的かつ学際的な学問であると同時に,産業界との関連が深く,アカデミアのみならず多くの企業会員が在籍していることを特徴とする。学術の交流を目的として,毎年春には分析化学討論会を,秋には分析化学会年会を開催している。また7つの支部ならびに17の研究懇談会が独自にシンポジウム,講演会あるいはセミナーなどを開催している。さらに学会独自の取り組みとして,分析試験所認定に伴う各種技能試験を行っている。学会の機関誌としては,正会員および学生会員に毎月配布する『ぶんせき』,一般投稿論文を扱う和文月刊誌の『分析化学』,英文月刊誌の『Analytical Sciences』そして『X-ray Structure Analysis Online』の計4誌を発刊している(1)。本稿では,Analytical Sciences誌の国際情報発信の強化策として現在の取り組みを中心に紹介する。

図1 日本分析化学会が刊行する雑誌の表紙

2. Analytical Sciences誌について

2.1 概要

『Analytical Sciences』は1985年に創刊された 英文月刊誌であり,2017年1月現在33巻目を刊行している。本誌は,5つのカテゴリー,「Original Papers」注2),「Rapid Communications」注3),「Notes」注4),「Reviews」注5),「Advancements in Instrumentation」注6)から構成されており,Reviews以外は一般投稿として受け付けている。投稿から査読,また受理した論文すべてについて英文校閲を行っているが,いずれも無料である。論文のすべてのコンテンツは,J-STAGEに登録されている。

編集委員会は,編集委員長を含む33名の編集委員から構成されており,横断的な学問であることを考慮して,広範な専門領域をカバーする委員構成となっている。また9か国20名の研究者にadvisory board memberを依頼して,雑誌のプレゼンス向上や特集号の企画における情報提供,また投稿論文の査読などに協力を得ている。さらに,学会事務局にAnalytical Sciences誌専門の事務員を1~2名配置して,論文の投稿受け付けから出版に至るまでの査読を除いたマネジメントを受け持ってもらっている。編集委員は非常に多くの投稿論文をさばかなくてはならないため,内容を注意深く精査することに時間を割くように努めている。このように事務局と編集委員のミッションを明確にして効率的なジャーナル編集を心がけている。

2.2 投稿・査読システム

研究者への投稿の利便性を向上すべく,論文は基本的に電子投稿でのみ受け付けている。投稿論文は,副編集委員長がまず論文内容を判断して,適任の編集委員に担当を依頼する。編集委員は内容をチェックした後に論文を査読にまわすか,編集委員の段階で却下するかを判断することになる。査読にまわした場合,原則2名以上の査読者からコメントをもらい,編集委員のコメントに基づき編集委員長の責任でDecision(判定)を決定することになる。投稿を受け付けてから最初の判定(受理,改訂の依頼,却下)を著者に伝えるまでの期間は,original papersの場合,およそ4週間,Notesの場合は3週間を目安にしており,査読プロセスを迅速に行うことを心がけている。

2.3 学術的価値と質の確保

Analytical Sciences誌を発刊して今年で33年目を迎える。2015年の論文投稿数は678報と大幅に増加し,採択した論文は228報,採択率は約34%であった(1)。本誌は月刊誌であるため,毎月約20報の論文を掲載していることになる。投稿論文の国別内訳は,中国が32%と最も多く,日本が24%,イラン7%,インド6%,他タイや韓国や台湾など,アジアからの投稿が非常に多いことを特色としている。分析化学に関連する欧文誌では,米国化学会(American Chemical Society: ACS)は『Analytical Chemistry』を,英国王立化学会(Royal Society of Chemistry: RSC)は『Analyst』と『Analytical Methods』を刊行しており,欧米諸国の研究者の多くはこれらのジャーナルに投稿している。一方,Analytical Sciences誌はアジア諸国からの投稿を非常に多く受け付けている点で差別化されてはいるが,論文のクオリティーに関していえば,欧米諸国にはまだまだ及ばないのが現状である。しかし,アジア諸国とくに中国からの投稿論文は,投稿論文数のみならずその質の改善が顕著に進んでおり,論文採択率は日本がまだ優位な立場にあるものの,アジアにおける日本のリーダー的存在感は次第に薄れつつある。本誌の質の確保のため,どこの国・地域からの投稿でも,優れた論文内容になるという見込みさえあれば,編集委員が担当論文を育てるつもりで査読プロセスを進めることとしている。

学術誌の評価指標としては,論文のダウンロード数,被引用数,ならびにインパクトファクターが挙げられる。Analytical Sciences誌は,一人でも多くの研究者に閲覧してもらうために,2001年より完全なオープンアクセス誌としている。すなわち,ネットにつながる環境であれば誰でも論文を全文閲覧できる状況にある。2015年の論文のダウンロード数は55万8,107件あることから,非常に多く閲覧されていることがわかる。2015年の総論文被引用数は3,824件で,インパクトファクターは1.174であった。他誌のインパクトファクターと比較すると,Analytical Chemistry誌が分析化学分野で最高の5.886,Analyst誌が4.033であることから,Analytical Sciences誌のインパクトファクターは決して高くはない。今後改善すべき重要課題である。しかし欧米両誌は,原理・方法の革新性にフォーカスしたり,あるいはホットな領域にフォーカスした編集を行い,インパクトファクター向上戦略を明確に打ち立てている。一方,Analytical Sciences誌は学会誌であるがゆえに,日本分析化学会の会員にもメリットがあるような編集を心がけねばならない。たとえば,試料の前処理法や標準物質に関する内容など,研究者人口が非常に少なくても分析化学分野で重要な課題についての投稿は受け付け,世界に情報発信することとしている。この点は,欧米誌と本誌との大きな違いである。

表1 論文の投稿数と採択数の年推移(Analytical Sciences誌)

3. 学術情報発信のための強化策

Analytical Sciences誌編集委員会は,ジャーナルのクオリティーを向上させ,国際的情報発信力をさらに強化するために,科学研究費補助金の支援の下,以下に示す3つの強化策を遂行している。

3.1 ジャーナル内容の基盤強化策

国際的な情報発信基盤の強化策の概要を2に示す。Analytical Sciences誌の国際的なプレゼンスを高めるためには,まず内容そのものが読者に魅力あるものでなくてはならない。本誌は「Quality First(論文の質が第一)」をモットーとして査読,編集作業に取り組んでいる。一方,一般投稿論文をOriginal PapersあるいはRapid Communicationsとして受け付けているが,前記したとおりすべてがホットな話題ではない。そこで,年に2~3回,魅力のある特集号を組み,その一部は特定領域の先導的立場にある著名な研究者に,総説の執筆を依頼している。分野横断的な多くの研究者にとって魅力ある特集内容を編集委員会で決定し,アサインされた特集号編集委員が責任をもって論文を集め刊行している。また,世界に発信する英文誌として,英語のクオリティーを担保することは極めて重要である。本誌では論文がアクセプトされた段階で,すべての論文について無料で英文校閲を行い,英語のクオリティー維持に努めている。

2つ目の強化策は,本誌が学会誌であることを活用して,学会賞受賞者や論文が数多く引用された著者を表彰し,表彰を受けた研究者に寄稿を依頼して優れた論文を集めることである。このような研究者が執筆する論文の被引用数は高い数値が期待できる。また執筆した研究者がリピーターとなって,Analytical Sciences誌へくり返し投稿するよう依頼している。

3つ目は,日本分析機器工業会との連携による機器分析論文の強化である。分析化学会には企業会員が多く在籍しているので,企業と学会事業との連携の強化は学会運営のみならず,ジャーナル編集でも積極的に活用すべきであろう。企業会員へは,学会参加のみならず論文投稿を積極的に行うようお願いをしている。

図2 学術情報発信のための強化策(Analytical Sciences誌)

3.2 編集委員と学会事務局の協働による情報発信強化策

先にも述べたとおり,編集作業は学会事務局のサポートに大きく依存しているため,編集委員と事務局と学会本体が一体となったジャーナル強化策に取り組んでいる。その一つが投稿者への利便性の強化である。Analytical Sciences誌は独自のWebサイトを運営しており,2012年3月から投稿論文はすべて電子査読システムで投稿することになっている。独自のWebサイトをもつ強みは,ニーズに応じてシステム変更が自由に行える点にある。正副編集委員長はリアルタイムで審査状況を把握することができるため,査読の遅延などはすぐにわかるようになっている。一方,論文審査の候補者に関するデータや投稿フォーマットの柔軟性など,まだまだ改善しなくてはならない要素もあり,今後の改善すべき重要課題に位置付けている。

2つ目は海外からの編集委員参加によるアジア戦略である。先に述べたように,本誌の大きな特徴はアジア諸国からの投稿を多く受け付けている点にある。今後も投稿数および論文の質ともに向上することが見込まれ,優れたリピーター研究者の確保は重要な課題である。そのため,特に中国や台湾からの編集委員を優先して,海外board memberとしてアサインし,各国・地域からさらに優れた論文投稿を促すよう依頼している。今後はさらに,海外からのboard memberの積極的活用に努めていく予定である。

3.3 国際分析化学誌と組んだ強化策

Analytical Sciences誌のみならず,欧米の分析化学関連誌は,インパクトの高い論文を集めるために,さまざまな手段を講じている。ジャーナル戦国時代とも例えられるように,おのおののジャーナルが競い合って,論文獲得競争に躍起になっている。一方,ジャーナルのプレゼンスならびにビジビリティーの向上は,各編集委員長の共通の課題である。このような課題解決の方策は,ジャーナル単独で行うより,相互に情報交換を行い,連携を有機的に強化しながら進める方が効果的であろう。Analytical Sciences誌の編集委員は学会事務局と連携を図りつつ,海外ジャーナルの編集委員と個別に会合を行っている。たとえば,毎年9月は幕張メッセ国際会議場で開催されるJASIS(国際シンポジウム)にて,英国王立化学会の編集委員と会合の機会を設け,インパクトファクターの解析やプレゼンス向上に向けた共同的広報活動の戦略などについて協議を行っている。

2つ目の取り組みは,世界をリードする分析化学研究者へのメール配信によるプレゼンス強化と投稿の呼びかけである。2014年は分析化学に携わる研究者5,000人を対象に,旧トムソン・ロイター(現クラリベイト・アナリティクス)からメールを配信し,特集号の内容を紹介するとともに,本誌への投稿の呼びかけを行った。その結果,2015年のPDFダウンロード数は,2013年に比べて約1.33倍増加したデータを得ている。また2015年度は分析化学研究者5,000人に加えて,特集号に関連するマイクロ・ナノデバイスの研究者5,000人にメールを配信し,新しい学際領域に携わる研究者へ本誌の魅力を積極的にアピールしている。配信されたメールの開封率は50%に満たないものの,本誌のビジビリティー向上には一定の効果があると思われる。

3つ目の取り組みは,日本分析機器工業会との連携による国際会議戦略である。米国分析展(PITTCON)や,北京分析展(BCEIA),欧州分析展(Euroanalysis),JASISにおいて,日本分析機器工業会のシンポジウムに本誌が共催あるいは協賛することにより, Analytical Sciencesの普及活動に努めている。2016年度はタイ国チェンマイで開催されたアジア分析化学会(ASIANALYSIS XIII)にて,15分間の講演時間をもらい,筆者がアジアの研究者に向けて,本誌投稿のメリット等を紹介した。またその学会開催期間中はAnalytical Sciences誌のブースを出展して,積極的な広報活動を行った。広報活動は,本誌冊子体を展示するとともに,ブース訪問者には簡単なアンケートを記入していただき,景品として『Analytical Sciences』のネーム入りクリアファイルやボールペンを配った。アンケートは221名から回答があり,実に学会参加総数470名の約47%の人がブースに立ち寄ったことになる。会場では『Analytical Sciences』のネームが入ったクリアファイルを持ち歩く人が多数いたため,本誌のよいアピールとなった。アジアからの投稿をさらに強化するためには,このようなアジアで開催される国際会議において,積極的なプロモーション活動は非常に有効である。国際会議の場を活用して,本誌のビジビリティー向上のために,今後も積極的なPRを行っていく計画である。

4. おわりに

これまでAnalytical Sciences誌の概要と国際的なプロモーションのための取り組み事例,ならびに今後の情報発信強化策について概説した。分析化学分野に限らず,ジャーナル各誌は目覚ましい進歩を遂げており,時代の流れを先読みして,新しいジャーナルの形態を模索しているといってもよいであろう。特に商業誌は,ジャーナルのクオリティーとビジビリティーの向上のために,さまざまな策を講じていることは顕著である。このような状況下で,財政が厳しい学会誌に何ができるかを,原点に立ち返って改めて考え直す必要があるであろう。会員へのサービスを念頭に置き,そして会員の声に耳を傾けながら,世界の動向をフォローしつつ,ジャーナルの新しい情報発信強化を追究していく考えである。

執筆者略歴

  • 小澤 岳昌(おざわ たけあき) ozawa@chem.s.u-tokyo.ac.jp

千葉県生まれ。1998年東京大学大学院 理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。同大学助手,講師を経て,2005年4月より自然科学研究機構 分子化学研究所准教授。2007年10月より東京大学大学院 理学系研究科化学専攻教授。2014年4月より同研究科生物科学専攻を併任。現在,Analytical Sciences誌の編集委員長,Analytical Chemistry誌(米国化学会)のEditorial advisory board member,Analyst誌(英国王立化学会)のAdvisory board member,Scientific Reports誌(Springer Nature)のEditorial board memberを務めている。

本文の注
注1)  日本分析化学会:http://www.jsac.jp

注2)  Original Papers:分析化学の基礎あるいは応用に関して,価値ある事実あるいは結論をまとめたオリジナル論文

注3)  Rapid Communications:分析化学の基礎あるいは応用に関して,独創性・新規性が高く,迅速な報告を必要とする論文

注4)  Notes:分析化学の基礎あるいは応用に関して,断片的であるが,新しい事実や価値あるデータを含む論文

注5)  Reviews:分析化学における重要かつ話題性のある事項について総合的に展望し,解説あるいは報告する総説

注6)  Advancements in Instrumentation:装置,技術の開発や改良に基づく新知見を簡潔に報告する論文

 
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