家兎「テール」癌發生ニ於テ砒素ヲ其發生成分卜見做シ得ベキカ

抄録

1915年山極,市川兩氏ガ「テール」癌發生ニ成功セシ以來學者ハ「テール」ノ癌發生成分ニ就キ熱心ニ研究ヲ開始セリ, A. Bayetハ砒素ヲ以テ癌發生成分ナリト力説ス,併シ又之ニ反對ノ説ヲ唱フル學者モ少カラザルモ之トテ深キ根柢アリテ反對スル所因ニアラズ.之ヲ要スルニ「テール」ノ癌發生成分ガ砒素ナルヤ否ヤハ現今全ク不明ナリトス,而シテ斯ノ如キ問題ヲ解決スルハ癌發生研究上極メテ重要ナリ,余ハ次ニ述ブル余ノ研究ニヨリBayetノ砒素説ハ家兎ニ於テハ全然誤リナルニハアラザルヤ且癌發生成分ハ今後如何ニシテ之ヲ發見シ得ベキカノ指針ヲ得タリ.
余ノ研究ハ三部ヨリナル. (1) 「テール」ヲ塗布セル家兎ノ諸器關ニ就キ其砒素含有量ヲ測定セリ,余ノ實驗セル三家兎ハ總テ余ノ論文(「テール」癌發生ニ於ケル血液白血球ニ關スルーニノ研究.熊本醫學會雜誌3月發行, 1927) ニ發表セル特種ノ白血球像ノ變化竝ニ諸器關ノ變化ヲ示セリ.
(2) 0.01%亜砒酸0.3cc.ヲ2箇月間毎日静脉内ニ注射セル三家兎ニ就キ諸器關ノ砒素量ヲ測定セリ.實驗三家兎ハ總テ特種ノ白血球像ノ變化竝ニ諸器開ノ變化ヲ示サズ
(3) 「テール」ヲオストワルド氏濾膜ヲ用ヒ生理的食鹽水ヲ「メヂウム」トシ濾膜分析ヲ施シ之ヲ三家兎ニ注射シ白血球像竝ニ諸器關ノ變化ヲ研究シ且諸器關ノ砒素量ヲ測定セリ.家兎ハ三頭トモ同一變化ヲ示ス.驚ベキハ注射後10日目ヨリ特意ナル白血球像ノ變化ヲ示セリ,二家兎ハ死亡シ一家兎ハ之ヲ撲殺シ諸器關ヲ鏡檢スルニ又「テール」家兎ニ於ケルト同一變化ヲ示セリ.
上述諸實驗ヨリ次ノ結論ヲ下シ得ベシ.
(1) 余ハ既發表ノ論文ニ於テ特種ノ白血球像變化ガ「テール」癌發生ト極メテ密接ナル關係アルヲ論ゼリ而シテ濾膜分析ニヨリ得シ物質ハ斯ノ如キ特種變化ヲ與フルヲ以テ斯ル濾膜分析ニヨリ得シ物質ハ「テール」塗布ニ際シ皮膚テ通シ血中ニ入リ特種ノ變化ヲ惹起スル物質ト極メテ近似ナルベシ.
(2) 特種白血球像ノ變化ヲ惹起スル物質ハ家兎ニ於テハBayetノ説ニ反シ砒素ナラズ,何トナレバ(イ)濾膜分析ニヨリ得シ物質ハ砒素ノ存在極微ナルニ係ラズ特種ノ白血球像竝ニ諸器關ノ變化ヲ惹起ス,此際諸器闕ニハ砒素ノ存在ヲ證明シ得ズ.(ロ)砒素ノ連續少量注射ハ特種ノ白血球竝ニ諸器關ノ變化ヲ來キズ.
(3) 特種ナル白血球像竝ニ諸器關ノ變化ヲ惹起スル物質ハ砒素ト親和シ易キモノノ如シ,是レ「テール」塗布ノ諸器關ハ比較的多量ノ砒素ヲ有スルヲ以テナリ,此際砒素ハ特種變化卜直接關係ナシ.
(4) 濾膜分析ニヨリ得ラルル物質ニ就キ研究セバ「テール」ノ癌發生成分テ發見シ得ラルベキカ.