ラット切歯の異常萌出については, Wiedersheimなどの報告があり, それぞれの症例について原因が検討されている。今回, 生後の発育日数が正確に記録されているラットの中に, 上下顎切歯ともに異常伸長している一例を見い出し, その肉眼的・X線学的観察を行い, 異常伸長の原因を検討した。下顎は右に2度偏位し, 異常伸長した上顎切歯は左に, 下顎切歯は右に偏位している。左上顎切歯は口腔側方向に彎曲し, 丁度円環を形成する。右上顎切歯は口蓋正中部粘膜から切歯孔に穿通している。下顎切歯は孤を描き, その左右切歯尖端は右鼻側部に達し, 同部に擦傷創を形成する。左上顎及び右下顎切歯尖端の形状は槍頭状で, 右上顎及び左下顎切歯は楔形を呈する。歯肉縁から尖端までの長さには左右差があるが, 咬耗期間の差によって起ったものと思われる。以上の所見から切歯の異常発育に至った原因は, 顎の偏位による上下切歯咬合の欠如に基づくものとみなされる。