抄録
サケ科魚類における鋤骨の形態, 鋤骨歯の分布様式および歯数は, 他の口部骨格の形態や歯の分布様式と共に一つの重要な分類形質として認められている。しかし, その形態および歯の分布様式等の成長に伴う変化については不明な点が多い。今回は, イワナ属イワナ (Salmlinus pluvivs) の仔-成魚における鋤骨の形態変化や鋤骨歯の形成について調査した。
イワナ仔魚の口部において鋤骨の骨化は40日齢, 体長21.1mmの頃に約70%の標本で確認され, 日齢の進行に伴って石灰化が進行し, 鋤骨は長さも幅も厚さも増大する。90日齢に達すると頭部と柄部は明瞭に区分されるようになる。その後, 鋤骨の背側部が前・後に著るしく伸びて柄部が大型化すると共に頭部の隆起も大型になる、この場合, 隆起部の中央後端部の成長が先行したり, 側方部が先行したりするために, この隆起上に形成される歯が一時的に縦列状になったり不規則に配列したりする。そして未成魚に達すると, 隆起部は台型又は逆台形と呈し, その隆起部下縁に沿って横一列に鋤骨が配列するのが最も一般的であった。しかし, 約23%の頻度で, 後方へ長く伸長した隆起部上に鋤骨歯が縦に配列しているのが観察された。すなわち, イワナの鋤骨歯の配列様式は変異に富んでおり, しかもその分布は鋤骨隆起部の形態に深く関連しているようである。
鋤骨歯の形成は, 50日齢の時に3.3%の頻度で出現し, 50%以上の標本で認められるようになったのは120日齢, 体長38.7mmに達した時であった。体長の全く伸長しない40~100日齢の期間にも鋤骨歯の形成は徐々ではあるが進行した。仔魚期には, 歯の形成は体長よりもむしろ日齢に左右されようであるが, 120日齢時には急速に増加することから稚魚一若魚期には双方の影響によって進行すると考えられる。また, 人工孵化イワ+では10~13%の頻度で鋤骨歯欠如の標本が出現し, 歯数も個体変異が著るしかった。天然河川イワナでは同体長の人工孵化イワナに比べて, 鋤骨は大きく形態も安定し, 鋤骨歯の数は約2倍であり, 歯長も大きくて, 前者は後者よりも強力であり安定していた。