抄録
本研究はラットの舌背粘膜に実験的熱傷 (皮膚熱傷第II度相当) を与え, 微細血管鋳型によって組織ならびに微細血管構築について実験直後から治癒までの修復過程を経時的に走査電顕観察を行った。
熱傷の治癒過程は, 1) 水泡形成期, 2) 同退縮期, 3) 潰瘍期, 4) 上皮修復前および5) 後期の5期に区分することができた。水泡形成期では固有層毛細血管は拡張し, 筋線維の横紋が消失していた。糸状乳頭の配列は不規則となり, 乳頭間距離は広がっていた。毛細血管ループの両脚間と細静脈網の網目が拡大していた。水泡退縮期では固有層乳頭と毛細血管は消失していた。糸状乳頭の毛細血管ループと細静脈網の網目は断裂, 消失し, 細動静脈のみが直接認められた。潰瘍期では創縁粘膜上皮の隆起, 創面の放射状の溝と創中心部の陥凹とともに糸状乳頭の毛細血管ループは創中心へ傾斜していた。上皮修復前期では創周囲粘膜上皮の創面全体への伸展とともに糸状乳頭が新生し, 創縁の既存毛細血管や創底からの新生洞様血管が吻合して血管網が形成されていた。その後, 創部はすべて新生糸状乳頭となり, 非実験群と同じ像を呈していた。現在のところ, 熱傷第II度で損傷した口腔粘膜組織と微細血管構築が治癒状態をとるには約6週を要することが明らかになった。