抄録
本研究では, ブタの基質形成期エナメル質から抽出された基質タンパク, 合成ハイドロキシアパタイト, タンパク分解酵素としてトリプシンを使用して, エナメル溶液相を擬した実験溶液中でのアメロジェニンの酵素分解と, 結晶・タンパク・分解酵素が共存した反応系での結晶沈殿の制御機構について検討した。アメロジェニンの酵素分解過程の解析には, C末端エピトープを特異的に認識する2種類のペプチド抗体を使用した。溶液内においてアメロジェニン分子間で会合体が形成された場合に, トリプシンは会合体表面に位置する親水性のC末端領域を最初に切断することが碓かめられた。生理的な溶液条件下で結晶・タンパクを共存させると, アメロジェニンは会合体を形成しながら結晶表面に集積した。その結果, C末端の親水性領域への分解酵素の接近が阻害され, アメロジェニンの低分子化が遅延された。また, 結晶沈殿が誘起される過飽和溶液においては, 新たな結晶表面へのタンパク吸着が継続することから, 分解酵素によるアメロジェニンの低分子化は抑制された。以上の結果から, 酵素分解によるアメロジェニンの低分子化は, エナメル質の石灰化 (結晶成長の制御) と成熟化 (基質脱却) に直結した重要な現象であり, この低分子化現象には分解酵素と基質 (エナメルタンパク) との相互作用のみならず, 結晶・溶液組成が相互に関連しながら影響を及ぼしていると結論された。