日本視能訓練士協会誌
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一般講演
片眼性滑車神経麻痺の視能矯正中に融像衰弱を認めた進行性核上性麻痺疑いの1例
星原 徳子岡 真由美新井 紀子山本 真代河原 正明宮崎 裕子
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2009 年 38 巻 p. 125-132

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抄録

 片眼性滑車神経麻痺症例に斜視手術および視能矯正を施行したが、融像衰弱のため日常生活での不自由さが継続した症例の長期経過を報告する。
 症例は77歳の男性(造園業)である。2003年右眼滑車神経麻痺、輻湊障害を急性発症し、2004年他院で斜視手術を施行後、視能訓練とプリズム装用で経過観察されていた。複視に伴う日常生活での不自由さが強いことから、同年当院に転院となった。
 当院初診時、眼位は、近見で4△内斜位斜視、遠見で16△内斜視およびわずかな右上斜視、外方回旋斜視であった。両眼視機能は正面視を含む部分融像であり、大型弱視鏡検査で融像衰弱がみとめられた。
 初診後4か月、融像域の狭窄が顕著となり、外方回旋斜視、内斜視に対して斜視再手術(右眼上直筋耳側移動5mm、右眼外直筋短縮術3.5mm)を施行した。その後、経過は良好であった。
 術後3年5か月、急に複視の悪化を訴え受診した。遠見の内斜視角は18△に増大し、融像域は上下方視で狭窄した。眼球運動は特に上転障害があり、slow saccadeとsaccadic pursuitがみられ、輻湊近点の延長を認めた。Bell現象は左眼陽性、眼瞼痙攣は左片側であった。MRI所見では、中脳領域の萎縮によるハチドリ徴候が確認されたため、他院神経内科を紹介受診した。術後4年、眼球の下転障害が併発し、融像域が狭窄した。眼瞼痙攣は両側となり、仮面様顔貌、Romberg徴候陽性の運動失調とMRI所見から、進行性核上性麻痺が疑われた。
 後天性眼球運動障害に対してプリズム療法は有用な例が多い。しかし、プリズム装用後も日常生活の不自由さが強い高齢者においては、核上性眼球運動障害合併の可能性があり、眼球運動および全身症状の確認を行うことが重要である。

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© 2009 日本視能訓練士協会
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