近年、装用感のすぐれた累進屈折力レンズが実用化されている。超高齢社会を迎えるにあたり、より快適に使用できる累進屈折力眼鏡の開発とその処方が必要とされている。累進眼鏡では、眼球の視線方向すなわちレンズ使用部位での屈折力と対象の奥行き位置との適切な対応が前提となっており、累進眼鏡の処方と作成・調整での重要な点と思われる。累進レンズにおける屈折力分布は、加入度、累進帯長および輻輳角などに基づいて設定されていると予想されるが、装用者の生活スタイルや視対象(視点)の移動に対して眼球あるいは頭部のどちらを主に回転させるかの生理的反応の個人差など、使用者による違いも重要な要因である。この要因の検討には、眼鏡レンズのどこを通して、何(どの距離)を見ているかを具体的・個人別に知ることが重要だと思われる。ワープロ作業、自動車運転など日常生活の各種状況で視線分布を計測・解析した結果、眼鏡レンズの使用部位とその頻度は使用環境や個人の生理的特性で異なることが確認され、1種類の累進レンズが全ての使用者に適切であるとは言い難く、用途や個人の特性に合わせたカスタムメイドの累進眼鏡の必要性が示唆された。ただし、異なる使用環境あるいは異なる被験者においてもほぼ同等の値となる項目も多く、累進屈折力レンズの共通データとして有用と考えられる。