日本視能訓練士協会誌
Online ISSN : 1883-9215
Print ISSN : 0387-5172
ISSN-L : 0387-5172
特別講演 1
上斜筋麻痺の診断と治療
佐藤 美保
著者情報
ジャーナル フリー

2011 年 40 巻 p. 1-5

詳細
抄録

 上斜筋麻痺は、主に先天性と後天性にわけられる。先天性上斜筋麻痺は小児の上下斜視の原因として最も多いものであり、生後早期からの異常頭位を主訴に来院する。診断は通常Parks の3 ステップテストを用いて行う。先天性であっても、斜視の期間が長く続いたり、麻痺眼で固視をしたりしている場合には、診断がつきにくい。また、上斜筋に解剖学的異常を伴うことが多く、付着部異常や筋の欠損もしばしば見られる。一方、後天性上斜筋麻痺は、外傷やウィルス感染、脳血管障害で発症することが多く、自然治癒も見られる。多くは上下複視に加えて回旋性の複視を自覚する。後天性の両眼性上斜筋麻痺では下方視での回旋複視が強いのに、通常の斜視検査では斜視が検出されにくいため、診断がつくまでに時間がかかることがある。
 このように上斜筋麻痺の診断は、主に臨床所見によって行われるが、必ずしも上斜筋の機能が低下しているものばかりではない。近年の眼窩画像診断によって、上斜筋が十分に機能しているのにも関わらず臨床的に上斜筋麻痺と診断していることが見られる。
 先天性上斜筋麻痺の治療は手術であるが、上斜筋に解剖学的異常があると、手術成功率が低下し、複数回の手術を要することがある。後天性上斜筋麻痺では、回旋複視が少ない場合には、プリズムで対応できることがあるが回旋複視の治療のためには、原田-伊藤法や下直筋の水平移動術を行う。後天性上斜筋麻痺のなかには、副鼻腔内視鏡手術の合併症や甲状腺眼症など複雑な要因でおきるものがあり診断や治療が困難なことがある。
 上斜筋麻痺の診断や治療について、過去10 年間の進歩を中心に解説する。

著者関連情報
© 2011 日本視能訓練士協会
次の記事
feedback
Top