抄録
iPS 細胞を用いると患者本人の疾患の治療に必要な若返った細胞を作ることが可能であり再生医療のための細胞源として注目されている。我々はiPS 細胞から網膜色素上皮細胞と視細胞を作り、それぞれを適した網膜疾患への再生医療として使用しようと研究してきた。網膜色素上皮細胞は色素を持ち、顕微鏡下に選別できるのでiPS 細胞など腫瘍形成の危険のある細胞が混在しないことと、網膜の一部というごく小さい領域を治療することで治療効果があがるので治療に必要な細胞数が少ないことなどからiPS 細胞の最初の臨床応用へとつながった。加齢黄斑変性に対する網膜色素上皮細胞移植の臨床研究は昨年8月から開始された。既存の治療を繰り返し受けても効果が限定的あるいは再発を繰り返す加齢黄斑変性の症例が対象で臨床研究の目的は細胞シートの安全性の確認である。
一方で、iPS 細胞や再生医療はマスコミにも取り上げられ一般の関心も高いことから患者に過大な期待を持たせることになるという問題が発生しやすい。再生医療(細胞移植治療)はまったく新しい治療であり最初は効果も小さい。改良を重ねて徐々に効果的な治療となることが考えられるが、それらの正しい情報はなかなか一般に伝わりにくい。iPS 細胞を用いた網膜再生医療の現場とそれに伴う問題点を紹介する。