抄録
研究の背景・目的・方法 「ガリバー地図」は、まちづくりワークショップで使われる、情報を集め、共有するためのツールである。「ガリバー地図」では、床一面に地図を敷き詰め、その上を参加者が歩き、まさにガリバーになった気分で、自分の持っている情報を付箋紙に書き込み、地図上に貼り付けていく。また、参加者は地図上に貼り付けてある、他の参加者から提供される情報を見ることもできる。 本研究の目的は、上述のガリバー地図の「地図に情報を記入し閲覧する機能」をIT化(つまり、電子化・インターネット化)したものを「インターネット書込地図型情報交流システム」として位置づけ、こうした道具の今後の展開可能性と課題を明らかにすることを目的とする。「インターネット書込地図型情報交流システム」の1つである「カキコまっぷ」を用いて、市民活動団体と協力して2つの試行的利用実験をおこない、従来の紙地図型ガリバー地図をIT化したことによる得失を検証している。 考察 自分の意見を発信する雰囲気を醸し出すイベント性の欠如や、多くの情報が記入されている際の表示方法の考案などに課題が残る。 設置する会場に必要となる「広さ」という制約がなくなることや、記入されたデータの再利用の容易さ、利用者が情報を入力し閲覧する際の時間・場所の制約を緩和することなどが利点である。 結論 いくつかの課題はあるが、カキコまっぷは、情報の検索、閲覧方法の選択、情報の継続的な収集・蓄積、情報の再利用といった紙媒体のガリバー地図の課題の多くを解決している。利用者層を広げることで情報収集のための道具としての可能性は高まる。情報の階層化・構造化を表現する機能を実装して、検索機能と組み合わせて利用すると、収集された情報を分析するツールとしての完成度が高まる。公共が保有する地図データを利用することで少ないコストで多くの地域を対象とした運用が可能となる。この結果、カキコまっぷのようなインターネット書込地図型情報交流システムは、単に情報を収集・蓄積する道具に留まらない、地区や地域が抱える課題をそれらの相互関係も含みつつ網羅的・総合的に、それも時間的・人的コストを多く掛けることなく継続性を持って把握できる現代版コミュニティ・カルテとでも呼べるシステムの一部分として展開していく可能性がある。