抄録
本研究は、木造密集市街地における行政主導型の整備および住民主体型の整備において、行政・住民間および住民相互間での協働の取り組みに関わる論理構築を図り、具体的な事例分析を通して整備推進に寄与する仕組みを考察することを目的としている。 先ず第2章において、既成市街地整備における行政・住民間および住民相互間の協働が成立する条件として、従来とは異なる新しい公共性概念が必要であることを示し、その論理構築を行った。新しい公共性概念とは、「地域限定型の公共性」である。既成市街地整備においては、利害関係者となる地区住民の整備意欲をどのようにして醸成するかが重要である。したがって、まち空間の使用者である地域住民自らが限定的に整備改善の必要な対象に取り組む蓋然性を有する公共性概念が必要であると認識した。そして、「地域限定型の公共性」概念を提案するに至った。 また、上記の新しい公共性の考え方を関係主体間や関係主体内で認識する事を可能にするのは、綿密な情報の共有化である。その際、情報共有の手法を考察する有用な知見として、リスクコミュニケーションの考え方を援用している。 そして、上記した概念、考え方を基底において、1)行政・住民間の情報共有、2)住民相互間の情報共有、3)媒介構造としてのまちづくり組織の視点から考察を行い、協働の論理構築を行った。 第3章では、行政側の動機づけで木造密集市街地整備が進められた例と、住民側の動機によって整備が進められた例を選び、それぞれの計画事業プロセスの中で行政と住民がどのように取り組んでいたのかを前章の視点に基づいて分析した。そして、各段階における合意形成上の論点と整備推進に寄与した要因、および難航した要因などについて抽出・整理した。 そして最後に、木造密集市街地の整備推進に寄与する仕組みを考察した。