抄録
本稿では,広島県宮島を事例に,観光客アンケート調査データの産業連関分析によって、文化財を核とした文化的景観が地域にもたらす経済波及効果を分析し,文化財の持つ経済的な価値を検討した。その結果、観光需要発生による広島県内での生産誘発額は約600億円,生産誘発係数は1.49となり,観光関連部門以外にも幅広い部門に生産誘発効果が確認された。また,それに伴う就業者誘発は約6300人であり,付加価値誘発額は352億円、生産誘発による広島県の県税収入の増加は約8億円であることが分かった。さらに、観光客消費行動のTobit分析によって、需要増加単位あたり波及効果の大きい入場料需要の増加のためには、比較的近県地域にすむリピータへの宮島観光への訴求が重要で、宮島の文化・景観に関心が高い観光客の誘致が重要であることが指摘できた。上の結果は「文化」を軸にしたツーリズムの可能性を示唆している。近年,我が国の文化財保護制度において,文化財の活用は保存とともに重要な課題となっている。本稿の分析から得られた知見は,地域への経済効果の側面から文化財の公開のあり方を議論する必要性を示唆するものである。