都市計画論文集
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マルセイユ旧港の戦災都市復興におけるフェルナン・プイヨンの参画
自伝『石叫ぶべし』にみられる計画論と地中海的ヴィスタの形成
松原 康介
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2021 年 56 巻 3 号 p. 1007-1014

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抄録

本研究では、フェルナン・プイヨンの自伝『石叫ぶべし』(荒木亨訳)の精読から、プイヨンの参画内容を抽出・整理し、既往研究とも突き合わせながら文脈的に再構成することで、マルセイユ旧港復興の経緯と形成空間の特徴を明らかにする。まず旧港地区の形成と空間的特徴、老朽化の問題を既往研究より概括する。続いて、戦災の状況と、戦後市政におけるマルセイユらしい混乱の中でプイヨンが「追放」されるまでの経緯を戦史、政治史を踏まえて明らかにする。更に、石材ルートの確保やル・トロネ修道院等、地域の歴史的建築の調査を経て、プイヨンが主導権を握っていく過程を建築史も踏まえて明らかにする。その上で、計画論とファサード図を踏まえて、最終的に実現された旧港空間が、いかなる特徴を体現しているかを検討する。プイヨンは、先行計画を無理に否定することもなく、自らは柔軟かつ抑制的に6つの低中層住宅からなるファサードの計画に留めた。それが多様性を活かすプイヨンの計画論であった。南へ向かっては旧港、ひいてはノートルダム・ドゥ・ラ・ギャルドを臨み、北に向かっては斜面地の歴史的建築物が見え隠れする地中海的ヴィスタは、こうして実現されたのであった。

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