都市計画論文集
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明治40年代から大正期の台湾卑南渓流域における製糖業が地域開発に与えた影響
辻原 万規彦
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2021 年 56 巻 3 号 p. 1023-1030

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抄録

台湾南東部の卑南渓流域を対象に,明治40年代から大正末期における地域開発の枠組みの変容過程を検討した。その結果,地域開発の枠組みの変容は,台東製糖による新式製糖工場の建設前後で分けられ,次のように指摘できた。大正5年頃以前では,まず,台湾総督府によって,卑南渓流域の上流と下流を繋ぐ手押し台車軌道が敷設された。次いで,流域内の2箇所に,含蜜糖を製造する比較的小規模な製糖場である改良糖廍が建設された。さらに,新式製糖工場の稼働を念頭に台東製糖が設立され,私営の短期移民によって売渡もしくは貸渡の許可を得た5箇所程度の官有地の土地が開墾され始めた。新式製糖工場が操業を始めた大正5年頃以降では,まず,多量の甘蔗の搬入のために軽便鉄道が敷設され,さらに多くの官有地の売渡や貸渡の許可を得た。これらの土地では,台東製糖と台東開拓が長期移民を招来して移民開拓事業を進め,卑南渓流域のほぼ全域が地域開発の対象となった。このような地域開発の枠組みは,中西部の濁水渓流域,北東部の蘭陽渓流域,中東部の花蓮渓流域とは異なる変容過程をたどった。地域による差異や台湾総督府の政策との関連などの検討は今後の課題である。

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