2021 年 56 巻 3 号 p. 587-594
住民が住みたいと思うかという視点で住環境を総合的に評価する「住環境得点」の概念に着目する。住環境得点では施設へのアクセス性や地形的要素などが考慮されているが、災害リスクが考慮されていない。本稿では、住環境得点の高い地域へ居住誘導を図ることと、居住地の災害リスクを低減することが両立できるかを検証する。土砂災害、洪水浸水、密集市街地の3つを対象にし、人口増減と災害リスクの有無との関係性をクロス集計した。検定の結果、洪水と密集市街地では住環境得点に基づく居住誘導では災害リスクの高い地域への誘導が進んでしまう可能性が示唆された。これら災害リスクの高い地域の空間的分布を可視化すると、複数のリスクが存在する地域は少なく、土砂災害と洪水のリスクが連坦する地域を見出した。床上浸水が想定される地域での人口増減と住環境指標の水準の関係を見ると、いずれも人口増加が見込まれる地域のほうが各種施設へ近いことがわかり、特に人口増減への影響が大きい駅と病院に近接した地域の洪水対策を優先することで、居住誘導とその地域の災害リスク低減を両立できる可能性を指摘した。