1994 年 14 巻 p. 205-218
木曽川・読書発電所の建設工事用の吊橋として1922年に架設された桃介橋は、4径間、全長247m、わが国に現存する最大・最古の木製補剛吊橋である。桃介橋は1978年の被災以降は放置されてきたが、1992年度の自治省の「ふるさとづくり特別対策事業」による起債を用いて修復・復元が進められた結果昔日の姿を取り戻し、1993年10月17日2度目の渡り初めが行われた。土木史的な観点から見た桃介橋の意義は、「文化財にふさわしい復元」のあり方を、近代土木構造物に対し初めて正面切って論じた点にある。吊橋のような複雑な構造物の場合、力学的な安全性の照査は多枝にわたり、しかも荷重、形状・寸法、発生応力は互いに線形関係にない (少しでも前提が変われば全て再計算となる) ことから、中間段階での安全性照査はどうしても簡略計算に頼らざるを得ない。桃介橋の保存・修複に係わる委員会では、こうした推定値に従って修復方針を決定し、それを受けてより正確な推定値が計算され、さらに異体的な修復工程が詰められていった。本論文では、こうした力学的な検討の変遷を詳らかにすることにより、技術的検討のもつ重要性とそれに伴う責任の重さについて分析を加える。