本研究では, 交通システムの整備やそのマネジメントなど,「ヒトの移動」に関わるあらゆる行政を「モビリティ行政」と呼称し, その仕事はいかなるものであるべきかを, 伝統的な政治哲学の視点から考察を加えた. その結果, 本研究では以下の4つの命題を演繹した. 第一に行政は社会善の増進を期するべきであり, 第二にそのためにはモビリティ行政は場合によってはモビリティの質的改悪が求められることもあり, 第三にモビリティ行政は人々の幸福の相対的増進に寄与すべきであり, 第四にその具体的な戦略として交通システムの整備と運用の改善に関わるモビリティ・デザインと, 人々の態度と行動の変容を期するモビリティ・マネジメントを適宜組み合わせていくことが不可欠であることを指摘した.