本研究では、消化管切除術を受けたイヌの便検体を用いて腸内細菌叢および代謝物質濃度を解析し、消化管切除後に生じる特徴的な影響を探索した。健常犬4頭、リンパ球プラズマ細胞性腸炎(LPE)症例4例、および消化管切除症例16例の便検体を用い、16S rRNA遺伝子解析およびメタボローム解析を実施した。消化管切除群では、切除前と比較してα多様性が有意に低下し、Firmicutes門、Fusobacteria門およびBacteroidetes門が有意に減少した。また、胃十二指腸切除群において晩期合併症を発症した3例では、発症しなかった群と比較して、糖質、アミノ酸およびビタミン類の濃度が低下し、特に短鎖脂肪酸(SCFAs)の濃度が有意に低下していた。これら3例はいずれも腸内環境の特徴的な変化を示し、LPE群における腸内細菌叢および代謝物質濃度と類似したプロファイルを呈していたことから、晩期合併症との関連性が示唆された。本結果から、消化管切除後の特徴的な腸内細菌叢および代謝物質の変化が明らかとなり、特にSCFAsの低下とその産生菌の変化が、晩期合併症の発症に関与する可能性が示された。本手法は、消化管切除後の晩期合併症の要因解析および発生予測に寄与する非侵襲的な診断法としての有用性が期待される。