ペット栄養学会誌
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イヌの大腸癌の予防・抑制のためのスフィンゴミエリンの利用と腸内細菌によるその効果の増強
古谷 英樹大河原 壮浅沼 成人日野 常男
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2005 年 8 巻 1-2 号 p. 30-39

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抄録

イヌの健康増進、特に大腸癌の予防・抑制を目的として、スフィンゴミエリン(SM)の有効利用のための条件およびSM分解への腸内細菌の関与についての基礎的知見を得るための実験を行った。まず、マウスにSMを経口投与したところ、1,2-ジメチルヒドラジンで誘発した結腸・直腸の異常陰窩病巣(前癌病巣)の形成が抑制されることが確認された。マウスおよびイヌの糞中のスフィンゴ脂質を分析したところ、消化管内には内因性のSMおよびその分解生成物がかなり流入することが示唆された。しかし、それだけでは大腸癌の予防・抑制には不十分であり、食餌性のSMを補強することが重要と考えられた。また、大腸粘膜上皮細胞への取り込みのためには、SMはセラミド、特にスフィンゴシンに分解される必要があるが、かなりの量のSMおよびセラミドが糞中に排泄されたので、腸管内での分解は不十分と考えられる。一方、抗生物質によってマウスの腸内細菌を除去しても糞中のSM量は変化しなかったので、マウスはスフィンゴミエリナーゼ(SMase)をもつ腸内細菌を保有していないと考えられた。しかし、抗生物質の投与によって糞中のスフィンゴシンが減少したので、マウスの腸内にはセラミダーゼをもつ菌が存在すると推測される。イヌの場合は、個体によってはSMaseおよびセラミダーゼをもつ腸内細菌が存在することが明らかとなった。しかし、そのような菌をもつ個体は少なかった。SMaseおよびセラミダーゼをもつ菌を保有するイヌでは、糞中のSMが少なく、スフィンゴシンが多かったので、このような菌は腸管内でSMやセラミドの分解に寄与していると考えられる。以上より、SMの投与と同時にこれらの酵素をもつ菌をイヌに導入すればSMの効果が高まると思われる。

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