本研究の目的は,新型コロナウイルスの影響により対面による実技授業が不可能となった状況の中で実践された,日常生活のセルフモニタリングおよび運動課題を中心としたオンライン体育授業の実践事例を提示するとともに,その効果を検討することであった.本研究の対象者は,453名の大学1年生(男性316名,女性137名)であった.運動課題は,主にストレッチング,ウォーキングなどの有酸素運動,筋力トレーニングであった.セルフモニタリングの内容は,運動・食事・睡眠における生活習慣に関するものであった.本オンライン授業では,健康や運動理論に関する講義や,運動課題に関わる動画のオンデマンド配信も行った.オンライン体育授業の受講前後において,運動の意思決定バランス,身体活動量,食事・睡眠を含む生活習慣などについて比較検討したところ,以下のような結果が得られた.1)運動実践の恩恵および負担のスコアは,いずれも受講後において有意に増加し,運動の意思決定バランスは,受講前後において有意な変化はみられなかった.2)身体活動量は,「運動・スポーツ」,「時間の管理」および「日常活動性」のいずれも受講後において有意に増加した.3)食習慣については,主に食事の規則性において受講後に改善傾向がみられた.4)睡眠習慣については,受講後に睡眠の質が有意に低下した.5)主観的健康度については,運動習慣や食習慣の改善がみられたにもかかわらず,受講後に有意に低下した.
以上のことから,日常生活のセルフモニタリングおよび運動課題を中心としたオンライン体育授業は,受講生の運動実践の恩恵知覚の向上や,運動習慣および食習慣の改善に寄与する可能性が示された.一方で,受講生の睡眠習慣や主観的健康度を改善させるには至らなかったことや,初年次教育としての社会的適応に寄与するには不十分であることなどの限界も示された.