抄録
フサライドを実験室で調製した堆肥に添加しその代謝過程を検討し, 生成した代謝産物について若干の生理作用を検討した.
(1) フサライドは, 堆肥中ですみやかに代謝された. 代謝産物としてベンゼンおよび酢酸エチル区分から18種の化合物が同定されたが, 時間とともに水層区分の増加が認められた.
(2) フサライドは堆肥中で開環し, 3, 4, 5, 6-テトラクロロ-2-ヒドロキシメチル安息香酸塩として存在していた. このように水溶性の大きい型をとりうる性質はその後の代謝をうけやすく, 残留性の大きい塩素系殺虫剤と異なるところであると考えられる.
(3) 代謝過程はまずテトラクロロフタル酸への酸化である. 次に核塩素のSCH3化であり, おもに 4, 6, 7-トリクロロ-5-メチルチオフタリドが生成し, またこの化合物の代謝では酸化生成物のフタル酸誘導体のみ認められ, この生成機構に関しても推論した.
(4) クロロフタリドの脱塩素化は5位, 6位の順に起こり7位塩素の脱離は前者に比較し遅かった. またクロロフタル酸の脱塩素化は3位, 6位が非常に速く, 4位, 5位塩素の脱離は遅くなっていた.
(5) すべての代謝産物はフサライドより水によく溶け, 残留性や蓄積性の少ない化合物に変化してゆくことが予想された. また野菜に対する薬害はフサライドより若干強い代謝産物があったが, その生成量が少ないことから実際の場面で薬害を起こすことはないものと考えられる.