Journal of Pesticide Science
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フェニトロチオンの毒性試験の概要
住友化学工業株式会社農業化学品管理室
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1988 年 13 巻 2 号 p. 401-405

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抄録
スミチオンは哺乳動物の体内で速やかに代謝・分解され, 容易に体外へ排泄される. スミチオンの急性毒性は比較的弱く, 眼と皮膚に対する一次刺激性はそれぞれごく軽度および陰性であった. 皮膚感作性や全身アナフィラキシー性は認められない. スミチオンには遅延性神経毒性は認められず, 変異原性や催奇形性もない. 繁殖性にもとくに問題はない. 経口, 経皮ならびに吸入曝露による亜急性毒性試験, およびラット, マウスならびにイヌを用いた慢性毒性試験においても, chE阻害以外には, スミチオンによる影響は認められず, 発癌性も認められない.
以上のようにスミチオンの長期投与の影響はchE阻害のみと考えられる. 阻害は血漿chEに比較的強く認められたが, 血漿chEは神経系のアセチルコリン伝達には何ら役割を果たしていないことが知られており, 血漿chE阻害は化合物被曝の指標となりえても, 毒性学的意味はないとされている. 一方, 血球chE活性は神経系のAchE活性を反映していることから血球chE阻害を有機リン化合物のような抗chE剤の毒性の指標にすべきであるとされている (スミチオンについても, 中毒症状発現は血漿chEではなくAchE阻害と相関していることが知られている. この観点から, NOAEL (No-Observed-Adverse-Effect-Level) の概念が導入された. したがって, スミチオンの慢性毒性試験におけるNOAELはラットについては10ppm (0.5mg/kg/day相当量), イヌについては30ppm (0.75mg/kg/day相当量) と考えられる.
スミチオンは昭和36年12月に稲のメイチュウ等に登録を取得して以来, 広範囲の作物および害虫に適用が拡大された. スミチオンの残留基準値は玄米, 豆類, 果実, 野菜および茶に対して, いずれも0.2ppmが設定されている.
スミチオンは代表的な殺虫剤の一つであり, その安全性, 汎用性のゆえに農業および防疫用資材として不可欠な薬剤の一つとなっている.
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© 日本農薬学会
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