石油学会誌
Print ISSN : 0582-4664
キラルなコバルト錯体を触媒とする不斉自動酸化
大勝 靖一吉野 健司鶴田 禎二
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1982 年 25 巻 6 号 p. 401-403

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抄録

アセトフェノン (α-メチルベンジル) ヒドラゾンは容易に酸素酸化されてα-メチルベンジルアルコールとアセトフェノンを与える。この反応にキラルなコバルト錯体 [(1R, 2R)-N, N'-ジサリシリデン-1, 2-シクロヘキサンジアミナトコバルト(II), 以下Co(II)(sal)2(R-CHXDA)] を触媒として用いると, (S)-(-)-α-メチルベンジルアルコールが優先的に生成することが見い出され, これに対して二つの可能な反応機構 (Eqs. (1) および (2)) を提案した。
本報文では, プロピオフェノン (α-メチルベンジル) ヒドラゾンの, Co(II)(sal)2(R-CHXDA) の存在下における自動酸化の結果から, 不斉自動酸化の反応機構を議論する。
Table 1は酸化反応系の酸素分圧の, 酸化反応生成物の分布に及ぼす影響を示す。また Fig. 1は得られたα-メチルベンジルアルコールの旋光度の, 酸素分圧に対する依存性を示す。高酸素分圧では, 酸化生成物が多く生成し, アルコールは負の旋光度を示した。しかし, 酸素分圧が低下するにつれて旋光度が正の値を示すようになった。これは従来知られていない全く新しい現象で, アルコールを与える反応活性中間体が酸素分圧に依存して異なる構造を有していることを示唆した。
Fig. 2はCo(II)(sal)2(R-CHXDA) によって活性化された酸素 (O2-) の, ESRによるシグナルの高さを酸素分圧に対してプロットした図である。もちろん測定は酸素分圧を除いてすべて同一の条件下に行った。この曲線はEq. (3) を考慮することにより理論的なEq. (5) で説明できた。
ここで Figs. 1及び2を比較すると, 両方の曲線が良い対応関係にあることがわかる。このことは多量のCo(III)-O2-の存在下には (S)-(-)-アルコールが, 一方少量しかそれが存在しなくなるにつれて (R)-(+)-アルコールが生成することを示唆している。このことより, 高酸素分圧では a), および低酸素分圧では b) の反応機構が推定される。

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