石油学会誌
Print ISSN : 0582-4664
炭素上での水素のスピルオーバーと炭化水素の接触改質
藤元 薫
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1984 年 27 巻 6 号 p. 463-471

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抄録

白金等の水素解離能を持つ物質を担持した炭素は比較的高温において多量の水素を吸着する。吸着される水素量は担持される金属量よりはるかに多く, 金属原子1個に1個の水素が吸着すると考えた場合の10倍以上に達し, 炭素上に水素があふれ出したと考えざるを得ない (Fig. 2)。この現象は通常スピルオーバー現象と称される。活性炭におけるスピルオーバーの主たる特徴は以下のようにまとめられる。すなわち, (1) 水素の入口となる gate 物質は必ずしも金属である必要はなく硫化金属等水素を解離する能力を持てば良い。(2) スピルオーバーに関与するのは水素原子であり300°C以上で顕著となる。(3) スピルオーバーは可逆現象であり高温, 低圧の条件では炭素表面の水素は金属を経由して気相へ脱離する。(4) 炭素表面上の水素受容サイトは表面ラジカルと推定される。
活性炭の表面そのものは400°C以上においてパラフィン炭化水素から容易に水素を引き抜いてオレフィンあるいは芳香族炭化水素とするが, 活性炭表面での水素原子の再結合, 脱離は遅い。しかしこの反応系にエチレンなどの水素受容体を導入すると表面水素は再結合することなくエチレンと反応してエタンとなり脱離する (Fig. 4)。このため水素の脱離が促進され, その結果反応速度が数倍向上するとともに活性化エネルギーも約10kcal/mol低下する。この現象は表面水素とエチレンとの反応の活性化エネルギーが脱離の活性化エネルギーより低いとの前提で理論的に解析された。
コバルト, ニッケル, モリブデンあるいはその硫化物を担持した活性炭を触媒としてイソペンタンおよびシクロヘキサンの脱水素反応を行うと450°Cの触媒活性はおのおの5~10倍向上した(Table 1, Figs. 6, 7)。興味深いことに触媒活性は金属の担持率とともに上昇するが, 担持率1~2%程度で頭うちとなり, その天井値は金属の種類によらなかった。各種触媒の脱水素活性と400°Cにおけるスピルオーバーの初期速度の間には良好な関係が存在し, 水素の移動速度と触媒活性の間に密接な関係が存在することが明らかにされた。これらの事実から金属担持活性炭の高い活性はパラフィン炭化水素から移動した水素が炭素表面上を移動して金属表面に移行し, そこに濃縮され, 次いで再結合して分子となり気相へ脱離するいわゆる逆スピルオーバー効果によって水素の脱離が促進されていることに基づくことが明らかとなった (Fig. 8)。この考察は活性炭上の水素の昇温脱離ピークが金属の担持によって低温側ヘシフトする事実によっても支持された。
炭化水素中の水素を用いて脱硫反応を行ういわゆる水素移行脱硫に上記の逆スピルオーバー現象を応用することを試みた。すなわち逆スピルオーバー効果によって炭化水素から炭素へ移動し, 次いで金属上へ濃縮された水素を硫黄化合物と反応させる方法である。硫化処理金属-活性炭系触媒によりシクロヘキサン, あるいはデカリンを水素供与体として, 気相•液相で350~450°Cで反応がスムースに進行することが示された。チオフェン-デカリン系の液相反応において気相に水素が存在しないと390°Cではチオフェンの水素化分解に必要な水素の2.3倍の水素がデカリンの脱水素によって供給された。しかし適当な圧力の水素を共存させるとデカリンの脱水素量とチオフェンの水素化分解量とが一致し (Fig. 14), 反応前に仕込んだ水素とほぼ同量の水素が反応後に回収された (Table 3)。すなわちこの反応系では気相中の水素と炭化水素中の水素が触媒を介して可逆関係にあり, 硫黄化合物によって触媒上の水素が消費されると, 逆スピルオーバー効果により炭化水素から水素が補給される (Fig. 15)。

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