抄録
シリカゲルを担体としてモリブデン触媒を調製したところ, 合成ガスからの混合アルコール合成に活性の高い触媒系が実現した。KClの添加はCO転化率を低下させ, とりわけ炭化水素の生成を抑制し, アルコール選択率向上に効果があった。5.0MPa, 573K, W/F=1.4g-触媒•時間/モルにおいて420g/kg-触媒/時間という高いアルコール生成活性が達成された。アルコールの生成には水素還元後, 金属モリブデンならびにMoO2の両者が存在することが必要であることが分かった。Kを添加するとモリブデンの金属への完全還元が抑制され, この際アルコールの生成増加が認められた。アルコール収量は反応時間とともに顕著に増加することから, CO水素化反応中にアルコール合成の活性種が生成することが示された。触媒をCO, CO-H2, ブタンー水素で前処理した時の効果, Mo(3d) のXPSスペクトルを調べることにより, CO水素化反応中, COでMoO2が還元されて酸素欠陥MOO2-xが生成し, これがアルコール合成活性の向上をもたらすことが示唆された。一方, 炭化水素合成は金属モリブデンのみによるものと思われる。プローブ分子をCO-H2ガスに添加することにより, C2以上のアルコールの生成はアルケンのヒドロカルボニル化と同様の中間体を経由していることが明らかになった。シリカゲル担持モリブデン触媒上でのアルコール生成機構としてデュアルサイト機構を提案した。すなわち, 金属モリブデン上でCOが解離し, 表面カーバイド種を生成し, 水素化によりカルベンやメチル種を与える。メチレンの表面アルキル種への挿入と続いての水素化分解や脱水素による炭化水素生成もまた金属モリブデン上で起こるが, CO挿入によるアルコール生成はMoO2-xにより触媒される。Kはアルキル種の水素化分解の抑制によりアルコール選択率を向上せしめる効果を持つ。このデュアルサイト機構により, 枝分かれ化合物への選択率が炭化水素とアルコールで大きく異なっていることも説明できる。