石油学会誌
Print ISSN : 0582-4664
31P NMRおよびMSによるジアルキルジチオリン酸亜鉛とクメンハイドロパーオキサイドの反応の解析 (第1報)
反応初期のラジカル分解過程について
八木下 和宏五十嵐 仁一
著者情報
ジャーナル フリー

1995 年 38 巻 6 号 p. 374-383

詳細
抄録

ベンゼン中におけるジアルキルジチオリン酸亜鉛 (ZDTP) によるクメンハイドロパーオキサイド (CHP) の初期のラジカル分解反応を, 31P NMRおよびMS (Mass Spectrometry) を用いて研究した。これまでにこの反応は, ZDTP自身とCHPによるものおよびこの反応により生じた塩基性ジアルキルジチオリン酸亜鉛 (b-ZDTP) によるものの二つの段階で進むことが報告されている。今回 in situ 31P NMR法を用いて, より速いZDTPとCHPの反応については0~34°C, 引き続いて起こるやや遅いb-ZDTPとCHPの反応については30~60°C, ZDTPとCHPのモル比 [ZDTP]/[CHP]=0.1~0.5の条件下でZDTPおよびb-ZDTPのシグナルの経時変化を追跡し, 二つの反応速度定数およびアレニウスパラメーターを決定することができた。得られた二つの反応のアレニウスパラメーターから70°CにおけるZDTPおよびb-ZDTPとCHPの反応速度定数を求め, CHPの初期のラジカル分解過程の反応プロフィールを計算したところ, ZDTPは短時間で速やかに消耗されており, 主要な活性種はZDTPそのものではなく反応により生じたb-ZDTPであることが明らかになった。CHP分解の主要活性種であるb-ZDTPについて, CHPとの反応機構を31P NMRおよびMSを併用して詳細に検討した。その結果, MSにより初めて酸素原子を中心として正四面体の各辺にジチオリン酸配位子をもつb-ZDTP分子のイオンピークの観測に成功するとともに, このb-ZDTPの四面体構造はCHPとの反応の過程において見かけ上破壊されることなく, 分子内のジチオリン酸配位子の硫黄原子を酸素原子に置き換えながら進行することを見い出した。

著者関連情報
© 公益社団法人石油学会
前の記事 次の記事
feedback
Top