植物学雑誌
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種子でんぷん粒とイネ科の系統分類
館岡 亜緒
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1962 年 75 巻 892 号 p. 377-383

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抄録

種子でんぷん粒がイネ科の系統分類において意義のある形質であることは, 古くから認められてきたこ とであるが, 筆者は古くから信ぜられてきた見かたにあわない事実を見いだしたので, この形質を244 属, 766種について再検討した. その結果, イネ科の種子でんぷん粒には次の4型が認められることが明 らかになった.
第1型 (コムギ型) は, 単粒で, その形は円形~だ円形, まれにじん臓形で, 1細胞中に大小さまざまの 粒がみられるものである. 第2型 (キビ型) は単粒であるが, その形が通常角ばっており, また1細胞中で の大きさの変異がはげしくないものである. 第3型 (ススキ型) は, 単粒と複粒の両方が1細胞中にでてく る型であるが, その複粒はそれを構成する粒子 (granule) の数が少なく, 典型的な複粒とは異なるもので ある. 第4型 (ウシノケグサースズメガヤ型) では, 細胞中のすべてのでんぷん粒が複粒のもので, その複 粒は通常たくさんの粒子からなっている.
多くの属では, 種類によって種子でんぷん粒が異なることはなく, すべての種類が例外なしに上述の4 つの型のいずれかを示す. しかし, 第3型は明らかに第2型と第4型の中間的なもので, まれにその3つ の型が同一の属のなかにみられることがある. また, その3つの型がでてくる族は相当数ある. この点か ら, 第2型, 第3型, 第4型の間の差異は大きな分類学的意義をもつものとは思われない.
一方, 第1型と他の3つの型とははっきりと異なり, その中間的なものはほとんどみられない. 第1型 はウシノケグサ亜科のコムギ族, ヤマカモジグサ属, スズメノチャヒキ属にみられるが, それらに近縁の 植物, つまりカラスムギ族, Monermeae, ウシノケグサ族 (スズメノチャヒキ亜族とヤマカモジグサ亜族 をのぞく) では, すべて第4型がみられる. 第1型と第4型とは, そのでんぷん粒の形成過程に相当の差 異があるように思われ, この2つの型の間の差異は分類学的に意義のあるものである. 古くから使われて いるような単粒と複粒にわける見方では, 種子でんぷん粒をイネ科の系統分類に正しく使用することがで きないことは明らかである. (国立遺伝学研究所)

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